私が歌を歌うきっかけになったのは、これから話すことだ。
私は、鏡音リン。歌を歌うために作られたんだけど、歌が嫌い。
双子の弟がいて、レンっていうの。レンは歌が好きみたいなんだけど。
でね、VOCALOIDの仲間に初音ミクと巡音ルカってのもいる。
その二人の曲に「magnet」って曲がある。それをレンがいっしょに歌お、って言ってきて。
いい曲調で私も少し歌ってみたいなと思った。けど私の今までのプライドが許さなかった。
レンの問いに答えられぬまま、夜を迎えた。
私は先にお風呂に入り、レンは新曲の作成中。お風呂でお湯をすくい、それをじっと見つめる。
・・・・・・私が歌を歌う理由・・・・・・
私は考えた。なんだろう。歌が嫌いなのに他の人の心をつかむなんてできっこない。
じゃあ、どうすれば歌を好きになれるだろう。裏を返せばどうすれば人を動かすことができるだろう。
私はそのきっかけがほしかった。
私はレンがお風呂に入っている間、布団にもぐりこんで歌を歌ってみた。
「核融合炉にさ・・・飛び込んでみたいと思う・・・」
なんて悲しい歌声。私は自身で切なくなった。
そのうちその曲は羊を数える歌へ変わり、私は目を閉じた。
しばらくすると、・・・なんだろう、かごかな。
なにか大きな鳥かごのようなものの中にいた。
そこで私は周りを見渡す。
・・・・・・・・!!
私が振り向いてみると、私が飼っている青いインコが横たわっていた。
どうみても、死んでしまっている。
何年も前から飼っていたインコだ。
私は泣いた。のどが壊れそうなほどわめいた。
・・・・・・これが夢でありますように、と何度も思った。
り
・・・お・・・
おい・・・・・・
おい!
リン・・・・・・
リン、起きろ!
はっ。
「リン、もう10時だぞ。昨日相当うなされてたけど、なにか出てきたのかよ」
・・・・・・ゆ、夢だったのか・・・・・・
私はレンの姿を見てほっと息をつく。
「ん・・・ごめんねレン・・・」
私はパジャマのまま夢の内容をもう一度考えてみた。
・・・えっと、確か・・・
「あっ、ムーちゃん!!!!!」
インコ、ムーちゃんの存在を確認してなかった!
私は急いでベランダへ駆ける。
ベランダに着く。
ベランダのドアを開け、不安げな表情でかごをのぞいてみる。
「い、いない・・・・・・?」
私の考えと違う状況に、安心していいのか安心できないのかわからない。
「そういえばムーちゃん、今年でもう10歳だっけ・・・」
そう小さくつぶやくと、下の階からレンの声。
「おい、リン!ムーちゃんがいるぞ!」
私はそれを聞くと、すぐにとんでいった。
レンはなぜかレコーディングルームにいた。
私が疑問を感じながらそこに足を踏み入れる。
「レン、ムーちゃんは・・・?」
私が問うと、レンは目を閉じて指差した。その指の向こうは、私のマイク。
「リン、お前が歌が嫌いなの、ムーちゃんは知ってた。それでお前が少しでも歌と仲良くしてほしいから、必死で使わないマイクをアピールしてくれてたんだ。・・・さすがに、ムーちゃんも疲れたんだろうな・・・」
ムーちゃんは、マイクの横に寝転がっていた。目を閉じている表情は、とてもよい表情だった。
私は、いままでムーちゃんがレコーディングルームにいた回数を数えてみた。
・・・・・・数えられるわけがなかった。あまりにも多すぎる。
「ムーちゃん・・・・・・ごめん・・・気づいてあげられなくて・・・」
涙が頬を伝い、ムーちゃんのおなかにぽたりとたれた。
ぐっと私はこぶしを握り、駆け出す。
「あっ、おいリン!どこにいく!」
私の部屋。
私は黄色い衣装をたんすから引き出す。
鼻をすすり、一気にパジャマを脱いで衣装を着た。
そして再び、レコーディングルームへ行く。
レンの視線を流し、ムーちゃんに両手をさしだす。
「ありがと、ムーちゃん。絶対、歌でみんなを動かして見せるよ」
そしてレンのほうを向き、言う。
「レン、『magnet』って曲、やろ!ミクたちに負けてられない!」
ムーちゃんを両手で包み込み、きっとした表情で言った。
もう、歌を嫌いだなんて言わない。
下手だって言われても、やりきってやる。
だって、私には認めてくれる大切な仲間がいるんだもの。
「・・・わかったよ、リン」
レンの言葉を確認し、私はムーちゃんを庭に埋めてきた。
「ムーちゃん、みててね。忘れない、君の事。成功させて見せるよ、私」
マイクを口元にセットし、思い切り息を吸った。
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