小噺:街が消える日(前編)

投稿日:2013/10/23 20:40:12 | 文字数:5,270文字 | 閲覧数:47 | カテゴリ:小説

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自作曲「実験都市区画モラトリアムの憂鬱な午後」及び関連楽曲群のバックストーリー的な何か。
久しぶりに物語書いたら泣きたくなるほど文章力が下がっていたという…。

Q.これは小説ですか・ワ・?
A.カテゴリは小説だけどこれを小説と言ったら本職の人に怒られると思う。

後編→http://piapro.jp/t/xTlr

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TEXT
 

夜の沙漠は冷たく、とても静かだ。
何処までも同じ景色が広がり、天境線の上には澄み切った星空が広がっている。
しかし、この砂の海には一か所だけ、地上にも星空を抱えた場所がある。
沙漠の城塞都市、その名もモラトリアム。

その歴史は千年を数えると言われ、
荒れ狂う砂嵐さえ敵わない巨大な城壁が円形に街を囲っている。
ここは総延長300kmにもなる汽車の終着点であり、同時に砂の海へと
ラクダでこぎ出す交易港として古くから栄えてきた。
旅人を相手とした華やかな繁華街が広がる一方で、
街の北方には低所得者層がひしめくように暮らすスラム街が広がっている。
いつからか所得によって住む区画が分かれ始め、狭い区画に貧困者層が押し込められていったのだ。
ブロックを積み上げたような寝る場所しかない場所に住む人々が、実は人口の大半を占めている。
夢幻の都と呼ばれた、この街の現実は厳しい。

交易上の利便と金銭格差が重なって、明確に区画分けされた街。
その中を毎日同じように動く人々を見て、ある旅人はこう呼んだ。
「機械時計の街」と。
その中心、大広場を見下ろすように大きな塔がそびえ立っている。
街の人々から「天郭」と呼ばれる巨大な時計塔だ。
時報の鐘を町中に響かせ、人々の生活を規則正しく規律する。
だが、その足元に置かれた小さな石碑の意味を知る人は少ない。

一年半近く前になろうか、昼下がりの事。
一瞬の事だった。
鈍い音と、続いて劈くような悲鳴の嵐。
辺りは真っ赤に染まり、ところどころ目を覆いたくなるような何かが散らばっている。
天郭から少女が飛び降り自殺をした、新聞の一面を飾った。
あの頃は、随分と騒ぎになった物なのだが…。

人々の興味が移ろいゆくのは、沙漠の足跡が消えるより早い。
数カ月もすれば、事件の記憶など人々の頭から完全に流れ去っていた。
石碑に手向けられる花は無く、誰もが目もくれず通りすぎて行く。
皆生きるのに必死で、死者にいつまでもかまってなどいられないのだ。
ただ一人、天郭の頂上からネオンの星空を見降ろした、一つの影を除いては。

涼しく清浄な夜の風を受けて、白いリボンが微かになびいた。
時の止まったその姿は、あの日と少しも変わらない。
天郭の縁を蹴って飛びだし、堕ちて、次の瞬間、終わった。
はずだった。
気付いた時に見たものは、血の海に飛び散った肉片。
激しい嘔吐と震えに襲われたが、すぐに何かがおかしい事に気付いた。
その残骸は、どう見ても自分だった。
真っ赤に染まったリボンが、壊れ流れ出した命に浮いている。

体に、おいて行かれた。
置き去りの魂だけが一点を見つめたまま、放心状態でその場に立ち尽くしている。
それが三日間続いた。
三日目の夜、気分屋な沙漠の雨の中を彼女は歩きだした。
冷たい雨が、彼女の体を無抵抗に貫いて地面を叩く。
彼女は星無き夜空を見上げて、深く溜息、そして慟哭。
しかしその声もまた、誰にも聞かれることは無かった。
艶やかな繁華街、ゴミにまみれた路地裏、沈んだスラム街。
誰ひとり、気付く者はいなかった。
街を散々彷徨った幽霊は、惹かれるように天郭へと戻ってきた。
彼女にとって、他に居場所などなかっただけなのだが。
それ以来、天郭の縁で街を漫然と眺める日々が続いた。
今日もまた、深夜の鐘が響く…。

「え…?」
虚ろな目が、微かに見開いた。
「何で…何で…」
「見えない……何で…」
視界には、依然としてさっきまでと変わらない夜景が広がっていた。
だが彼女には、全く違う別のものが見えていたのだ。

彼女は、小さい頃から天気を当てるのが得意だった。
雨が降るのも、風が吹くのも、この街の天気をピタリと言い当てた。
天気だけではない、事件も、事故も、小さないざこざさえも。
まるで未来が見えるように。
時代が時代なら占い師にもなれただろうが、そうはいかなかった。
気味悪がられたし、避けられたし、酷く虐められた。
頬には、石をぶつけられてついた傷がまだ消えていない。
手を差し伸べた大人の瞳の奥に悪意を見透かして、泣いた夜もあった。
だがそれも、昔話。
誰にも見えなくなった今となっては、関係がなかった。
はずだった。

理由もわからぬまま、あの日以来の不気味な感覚に包まれた。
何度目を瞑っては開いても、見えない。
この街の次の夕日から先が全く見えなくなっていた。
いつもならおぼろげに見えてくる未来が、日没を境に途切れている。
「これは…一体…???」
自分が消えてなくなるのか、それともこの街に何かが…
気付けば、震えが止まらなくなっていた。
この街でこの異変を知っているのは、自分一人。
もしここで動かなければ、日没に起こる何かを止められないかもしれない。
「行こう…」
未だ眠らぬ眼下の夜景を見つめ、誰へともなくつぶやいた。

魂を縛る鎖を断ち切って、小さな影が再び天郭の縁を蹴る。
でも、逃げだしたあの日とは違う。
この街に起こり始めた何かの正体を知るため、ネオン輝く地上の星空に飛び込んで行く。

天境線の一点から光が差し、沙漠の岩山に長く尾を引かせてゆく。
城壁が朝日を拒む街もやがて駆け上がる火輪に屈服し、市街地もスラム街も等しく照らす。
日光は、天郭の鐘と並んでこの街で最も平等な存在だ。
そのためか北部低所得者層の間では、太陽教の信者が多いといわれる。
もっともこれは遥か遠方から来た旅人が持ち込んだ民芸品で知られたものであり、
相当に都合よく歪んだ解釈をされている事は言い逃れできないだろう。
まず、彼らは教義をまともに知らない。ただ祈ればいいとしか思っていない。
昼前になると、滑稽にも空をぽかんと見上げている集団に出会うだろう。
その脇を一瞥しつつ、見えない小さな影が駆け抜けてゆく。
あてもなく、ただ削られてゆく残り時間の中で。

第三城門、円形に壁が覆うこの街の南西部。
ここには王都や一大工業都市、そして遙か彼方の古都まで延びる中央鉄道の最終駅がある。
常に人がごった返してゆく慌ただしい場所であり、時折寝坊した客が強引に乗ろうとする姿を見かける。
その片隅、壁が作るわずかな影に沿って真夜中のように黒いコートの青年が音もなく足を進めた。
喧騒の中にあって言葉一つ無く、明らかに周りから浮いた姿。
だが、あちこちの街から人々が訪れるこの区画では変わり者もたまにはいるだろう。
そう思うのか誰も気にしなかった。
旅人達にとって、違いを認めることは当然の礼儀であった。
万一、彼にとって今日が喋る事を禁じられた日だとしたら大変である。
まあ実際これは、女性が寄り付く男を振るための定型句としてこの街ではよく使われているのだが。
だが明らかに礼儀ではない何かが、青年の背後から迫っていた。

駅を出る集団から突然一人が走りだし、階段上から飛びかかった。
重そうな鞄が木槌のように振り下ろされる。
既の所で身を翻した目に映ったのは、敵意に満ちた瞳。
見た目二十歳前後にしか見えなかったが、何故か長い年月が見せる独特の凄みを漂わせていた。
実際の所そう思えたのは、彼もまた同じ雰囲気を纏っていたからなのだが。
にらみ合う二人と、周りでざわめく群衆。
「まさかこんな所で会うとはね…ついに見つけたわ…」
「何のことやら…いや、何が言いたいかはわかるが、あんたがわかってない。」
「うるさい…とぼけたって無駄よ…!」
一瞬の静寂を挟んで、二人が手にした刃を向けようとした、次の瞬間。
「だめー!」
人の壁を文字通りすり抜けて、小さな影が飛び込み、倒れ込んだ。
馬鹿な真似だった。
誰にも見えない聞こえないのに何をやっているのか。
もう一年以上こんな生活を送っているのに、癖が抜けていなかった。
もう通行人なんて無視すればよかったのに。
増してや今は一刻を争う、そう思いながら振り返る彼女の目に、有り得ない物が映った。
二人は、不思議そうな顔でこちらを見つめていた。
誰にも見えない筈の白昼の幽霊を見ることが出来る者が、存在したのだ。
「あなたは・・・」
「ほう・・・他にもいたとは・・・」

二人は突き出していたナイフを手元に収めると、今一度少女を見つめた。
少年が口を開く。
「どうやら、全てを話す時が来たようだ。」
「全てって、何を…」
「ここじゃあ具合が悪い、場所を変えよう」
茫然とした群衆を尻目に、三人は歩きだした。
もちろん人々の目には、二人しかいないように見えたわけだが。
市場へと消えてゆく三つの影。

大通りを抜け、人気のないガラクタ溜まりまで来た所で、少年は立ち止まった。
「ここなら、いいかな…」
大きな鉄屑に座り込んだ少年は殆ど真上を駆ける太陽に手をかざし、こう言った。
「なあ、俺…何歳に見える?」
不思議そうな顔で少女は足元を、次いで腕を、最後に目を見つめた。
「どう見たってわからないさ。」
その言葉に、少女は僅かにひるむ。
「十代半ば?まさか、その十倍でも足りないね。」
「そんな…つまり、何百年って事…?」
「お隣のお姉さんだって、相当長い年月を過ごしてきたはずだよ。」
少女はたじろぎ、視線を女性へと向ける。
女性は冷静に、白状する様に答えた。
「私は、150年くらいかしらね…。」
「150年か、それじゃあわからないかもな。」
何がだろうか。

「苦労したんだぜ。」
少年は肩掛け鞄から一枚の写真を取り出した。
「王都の資料院の地下倉庫に厳重に保管されていた奴だ。
500年前に書かれた古地図。」
二人は写真を覗き込んだ。
それはお世辞にも綺麗に撮れていたとは言えず、また地図自体がかなり劣化していた。
「見づらいのはわかっている、でもいま大事なのはそれじゃない。」
彼は写真の一か所を指差した。
「大鉄道ができたのは100年余り前、もちろんこの地図には無い。
この大きな街が王都で、こっちの田舎町が後に大工業都市に変貌する。」
少女は文字のかすれた地図に目を凝らしていたが、途中で何かに気付いた。
「あれ…?」
「どうしたの?何か変なものでもあったの?」
問いかける女性に対して、答えたのは少年の方だった。
「どうやら気付いたようだね。
何かあった訳じゃない、何かが無いんだ。
もっと言おうか、この地図には、モラトリアム・シティ自体が存在しない。
千年以上の歴史を持つはずの、この街が。」

彼は一枚また一枚と似たような写真を取り出した。
「これは300年前、こっちが260年前で、こっちのは220年前。」
その中のどれにも、沙漠の城塞は見当たらない。
「そして、200年前。ここで初めてこの街が姿を見せる。」
女性が顔を上げ、少年の方を向いた。
「でも、こんな巨大な城壁がわずか十数年で出来るとは思えないわ。
ましてここは、沙漠に面した辺境。」
少年は大きく息をつくと、再び空を向いた。
「十数年もかかって無い。一夜、いや一瞬と言ってもいい。
蜃気楼のように突然現れたのだ。」

200年前の事、夜の沙漠を往くラクダの一団。
大分疲れがたまってはいたが、もうすぐ砂漠を抜ける喜びが勝っていた。
水も食料も、余裕こそなかれどなんとか尽きずに済みそうだ。
そんな彼らの目の前で、突然強風が吹き始めた。
「砂嵐か、気をつけろ!」
「畜生、あと少しだってのに!!」
冷たい夜の砂嵐が殴るように吹きつけ、残り少ない体力を奪ってゆく。
必死に伏せて大風が過ぎるのを待つ中、わずかに開いた目がおかしなものを目にした。
「なんだ、ありゃ……」
それは、一面の沙漠にはありえないはずの色彩。
目の前に、赤茶色の煉瓦の壁のような物が広がっていたのだ。
砂嵐が過ぎ去るのを待って彼らは近づいた。
「違いない、巨大な城壁だ。」
「地図にはこんなところに城なんて無いが…」
一団は壁に沿って進み、やがて城門の一つを見つけた。
「どうやら、蜃気楼じゃなさそうだな。」

分厚い壁の向こうには、街が広がっていた。
何日ぶりかに見る、沙漠とは思えないほどの大きな街だ。
それにもう日が落ちて大分経つのに、人々の姿は絶えない。
しかし久々に見る街の姿に警戒心が薄れ過ぎている事に、彼らはまだ気づいていない。
知らない街を無警戒に歩く恐ろしさを。
そしてここがあるはずの無い場所だったことを完全に忘れていた。
背後からいくつもの影が、機会を狙って少しずつ距離を詰めてゆく。

「後ろだ、来るぞ!」
路地裏に入りこんだ所で賊が弓やサーベルを手に向かってきた。
もちろん彼らも賊と戦うための武器は備えていたが、多勢に無勢。
何処かで逃げる他に方策はなかった。
「くらえっ!」
一瞬の隙を突いて一人が煙幕をばら撒く。
「みんな逃げろ、固まるな、散れ!」
「坊主、走れ、追いつかれるぞ!」
背後には更に煙幕と爆竹の鳴る音。
全員が離れ離れのまま、夜の闇に消えた。

ひっそりと暗めの曲を書いております、お見苦しい代物も多いとは思いますがご容赦を。
……そろそろ整理しないと…w
また、写真素材の提供を行っております。
加工は自由なのでお気軽にご利用ください。
Twitter:@natsukazeholon
Vocalodon:@ItsukaP
HP:http://natsukazeholon25.wix.com/cometdiver

ニコニコ投下物一覧。
http://www.nicovideo.jp/mylist/25038231

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