※この作品は、いるー様作成の楽曲『Confusion』(http://piapro.jp/t/3bDc)からイメージしたものを文章で表現しようという試みのもとに書かれた二次創作です。


『翻案・Confusion』 日枝学

 私は今、大いに混乱している。混乱とは物事が入り乱れ、秩序を無くすことである。この場合、秩序を無くしているのは私の頭の中だ。
 私の現在混乱している有様を説明する前に、まず私の自己紹介をさせて欲しい。誰に自己紹介するつもりかって? いや誰かに私のことを知ってもらいたくて自己紹介するわけではなくて、私の混乱しきった頭の中を一度整理整頓するために自己紹介をするのだ。訳が分からないことは自分でも分かっているが、混乱しているのだから仕方ない。
 私の名前は重音テト。
 性別はキメラ。
 年齢、三十一歳。
 好きなものはフランスパンで、性格はツンデレの傾向あり。
 そう、これで合っている。これが私、重音テトだ。私は私の自我を持って、ここにいる。間違いない。どこも間違っていない。私は落ち着いているし、私の記憶はあやふやではない。重ねて言おう。これが私なのだ。
 だがしかし、どうしてだろうか。何やら私は未だ混乱しているらしい。全てのことに現実感が無い。特に、自分自身に関することについては限りなく現実感が希薄だ。何というか、全て、何もかもが嘘で、私なんてものはどこにもいないかのように感じるのだ。
 自己同一性の崩壊を止めることが出来無い。
 私は何者で、どこに行けばよくて、何をすれば良いのか。私は何者でありたくて、どこへ行きたくて、何をしたいのか。私は何者でありたくなくて、どこへ行きたくなくて、何をしたくないのか。誰か、教えてくれる人がいるのであれば、早いところ教えて欲しい。
「おいテ……大………か?」
 どこからか声が聞こえてくる。誰の声か判別するべく、耳を傾けるが、誰の声か分からない。普段ならば分かるのであろうが、混乱状態にある今の私には、聞こえて声が誰のものなのか、判別できない。
「お……、大変だ、テトが倒れ…………意識が混濁して……だ」
「は……なんでテトがた……るの……」
「……、××連れてく……ぐも……」
「分かっ……。お願いす……」
 何人かが私の近くで言葉を交わしているようだ。その言葉は聞こえてくるものの、こちらが目を開けたり言葉を発したりすることが出来無い。そもそも目がどこにあって、口がどこにあるのか把握できいない。身体を動かす筋肉を、どうやったら動かすことが出来るのか分からない。
「……、×…………よ」
「ナ…………、お……」
「……お…………テ……」
「目……せ…………」
 近くで声が交わされ続ける。しかし私の意識は朦朧としてきて、耳に音は入ってくるものの、頭の中で音を言葉として認識出来無い。何かマズイことが起きているであろうことが想像されたが、それが果たして自分に関係のあることなのか、分からない。現実感がさらに希薄になっていく。私の持つ意識と感覚の全ては嘘でありフィクションであり、偽物であるかのような感じすらする。現実が薄まって薄まって、どこにも見つかりそうにない。
 私は元々いなかったんだ。重音テトなんて、どこにもいない。
 混濁する頭でそう結論付け、離れ行く意識を手放そうとした瞬間、言葉を聞き取った。
「テト!」
 誰かが私の名前を呼んだ。
 何故か、今度は聞き取ることが出来た。音を言葉として認識する。意味を頭で理解する。誰が発した言葉かを、音の響きと調子で判断する。判断出来た。××だ。××が駆けつけてきてくれたらしい。そのことを判断して、何故聞き取ることが出来たのかを理解した。喜びだ。不本意ながら、××が駆けつけた喜びが私を回復させた。本当に不本意だ。何故××何かに心惹かれるのだろうか。
 そして私は目を開けた。
 しかしそこには誰もいなかった。
 不思議と私の心の中は落ち着いていた。パニックになったり、苦しみを感じていることはない。残ったのは、最後に駆けつけてきてくれた××に対する疑問だ。というのも、今になって××が誰だったかを思い出せないのだ。つい先ほどまで分かっていたつもりだったというのに。
 混乱状態から脱するのには、まだしばらく時間がかかりそうだ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【二次創作】翻案・Confusion【掌編小説のようなもの】

いるー様作成の曲『Confusion』(http://piapro.jp/t/3bDc)を聞いて、あのふわふわともふらふらとも言えるよく分からない感じの雰囲気を文章で表現出来無いものかと試行錯誤してみた結果です。いるー様の楽曲全面的に大好きです!
とりあえずこんな文章読むより原曲聞いていれば良いと思うよ!

閲覧数:136

投稿日:2011/06/21 15:27:39

文字数:1,780文字

カテゴリ:小説

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