【2の続き】

カイトが朝目覚めるとキッチンから美味しそうな香りが立ち込めた。

(ああ、リンが朝ごはんの準備をしてくれてるのか)

「おはよ~リン、体調は良くなった?」

まだ眠いのか眼がかすむ。

「おはようございます。コーヒー淹れてますからどうぞ」

「ん~…ありがと。体調良くなったんだね」

メイド服を着たリンが後姿で話している。
ずず~っとカイトはコーヒーを啜った。

「ええ、まあ」

「うん?ちょっと声が霞んでるね。もうちょっと休んだら」

「ありがとうございます、でもこの通りです。大丈夫!」

くるりと振り返るとそこにはメイド服を着た男の子がいた。

飲んでたコーヒーを全開で噴出するカイト。

「だ、誰だ、君は!」
カイトは後ずさりしながらリンを探した。

「や、やだな~僕、いや私、リンですよ~」

「うそつけ!」

カイトは男の子に近づいて肩を掴んだ。
この家は厳重なセキュリティがかかっている。
外から侵入は難しいのだ。
(家族とメイコは自由に出入りできる)

「り、リンは何処にいる!」

「やだな~カイトさま、ひどいです~」

目線をずらすメイド服を着た少年。

「気持ち悪いんだよ!これはリンのだ!」

メイド服を脱がせようと肩から引っ張った。
少年の華奢な肩があらわになる。

「あ、カイトさま、お客様です」

後には顔を青くしたメイコが立っていた。

「あ、…あんた、一流の変態ね…」

メイド服(ミニスカ)を着させた少年を
キッチンで裸にしようと襲いかかっててる(ように見える)カイト。
客観的に見てメイコの言うことはもっともである。

「え…?アレェー?」

ポカポカとパンチとキックを繰り出すメイコに
なす術もなくサンドバック状態のカイト。

あわてた少年はメイコとカイトの間に割り込み叫んだ。

「わかりました! 正直に話します!だからやめてください」

はっと我に返るメイコ。

時、既に遅し、カイトは気絶していた。



虚ろにソファーで目を覚ましたカイトは状況が飲み込めなかった。

メイコが膝枕をしてカイトの顔にボロボロと涙の粒を落としている。

カイトはすっと手を伸ばしメイコの涙を指ですくった。

よくわからないが、泣いてるメイコを慰めようと思ったのだ。
昔から小さな頃から何度、同じ事をしただろうか。
カイトはちょっとだけ微笑んだ。


「大丈夫?ごめんね…、いつも早とちりしちゃって」

心地良い膝枕だったけど、まあ、とりあえず向かいに座ってる
少年の話を聞こうと体を起こした。

どうも、この少年には悪意は無さそうだとカイトは感じていた。
そして、その正体にも心当たりがある。


「…うん、じゃあ、まず君の事を話してくれるかな」

「ご迷惑かけてすみませんでした、カイトさま。
僕は レン フレーム02M型 アンドロイドです。
リンと同じ時期に作られた人型情報処理コンピューターです」

「――うん、リンとパートナーだったんだよね。
それは古い資料で読んだから知ってるよ、でもなぜここに?」



メイコはうつむいたままだ。カイトが気絶してる間に
レンから話を聞いたのだろう。おそらくいい話ではなさそうだ。

「僕はリンと一緒に科学庁に勤めていました。
僕ら二人は次世代コンピューターと入れ替わるため
凍結か削除の検討がされていましたがカイトさまのお父様の
御尽力のおかげでリンはこのお屋敷で新たな生活を営める
事が許されましたが僕は…解体されることになりました」

「え?!何で、そんな事になるんだ!だって君たちは
すごく、すごく人間たちの為に働いてくれたじゃないか!」

カイトは声を荒げた。

「国家機密の情報を外部に持ってはいけません。
リンより機密に関わっていた僕が解体に選ばれたのは
仕方のないことだったのです。ある日、僕は体の隅々まで
分解され破棄されました…」

「そんな…、でも、今の君は一体?」

「…」

レンは口を閉ざしていたが
しばし間が空きレンは語りだした。

「リンは悪くないのです。悪いのは僕なんです。
解体が始まる直前、僕はリンに言ってしまったのです。

『助けて』と…」

レンはリンに『助けて』と言った瞬間からレンの頭脳から
レンの人格と記憶を抜き出しすぐさまリンの頭脳に取り込み
分散させた。要らないものはばっさり削除して
リンの中のレンの思い出として取り込んだ。巧妙に。

リンはレンの心のプログラムだけ盗み隠したのだ。

後にリンも記憶の削除をする事になるのだが
誰にもう疑われない方法で隠し切ったのである。

人間に従順でなくてはならないロボットやコンピューターが
人を出し抜いたり騙したりする事は基本的に出来ない。

優秀な盲導犬は主に危険が迫れば命令に背いてでも
主を守ろうとする。

リンやレンにも万が一、人間が間違いを起こしそうになったら
命令に従わない”理性”が備わっていた。

リンは”人間が間違っている”と自分に言い聞かせて
レンの心を盗んだのである。

「リンの記憶回路に僕の心を取り込んでしまったせいで
時々、バグが出て不意に僕の人格が出てきてしまうのです。
それが今の状態です」

骨格はほぼ一緒なので人格が入れ替わると
人相も体つきもそのときの人格に合わせて変化する。

カイトにはまだ幾つか疑問があったがあえて聞かなかった。

「で、レンが”表”に出てるときはリンはどうしてるの?」

「眠っています。僕の失われた情報を補完しようとして
随分と有機カロリーを消費してしまっているようですが…
僕たちが唯一、会えるのは睡眠しているときに頭脳内でだけです」

「つまり、夢の中?」

「はい、一度に二つの人格を処理できませんから、体を止めている
最小起動時のみです」

「当然、父さんは知らないよね?」

「はい、すみません。私たちの独断で行っています。
機会が訪れたらカイト様にはお伝えしようとは思っていましたが…」

「機会…ねぇ」

カイトは溜息をついた。

カイトが話を続けようとしたとき

「ねえ、レン君はリンちゃんのこと好きなの?」

メイコが身を乗り出して聞いた。

「それは、もう言葉に出来ないくらいに――好きです」

メイコの顔がニコニコしだした。

何故かバンバンとカイトの背中を叩き、一人で身悶えてる。

止めろよ!と言い出したかったのだが、興奮したメイコのもう一方の手が
しっかりとカイトの手をぐっと握っていたのである。
カイトは顔を赤くしながらそっぽを向いてメイコの
手の温もりを黙って感じていた。



メイコは帰り際、カイトに耳打ちした。

「私はあの二人のこと、応援するからね」

レンとカイトに手を振って家をでたメイコを見送る。

「優しい人ですね、さっぱりしていて」

「まあね。さて…、まず君にお願いがあるんだけど」

「はい、なんでしょうか」

きりりと背をしゃんと伸ばすレン。

「まず、夕食の準備と、君の服、とりあえずメイド服は
止めようか…」

「すみません、カイト様のご趣味だと勘違いしてました」

「あはは…」

きっと、わざと言ってるじゃないかと勘ぐるカイトだった。

カイトは自分が昔着ていたパーティ用のスーツをレンに渡した。
着ようによってはギャルソン風にもなるかと思ったのだ。

レンはリンのリボンを借りて上手に首に回し
若いギャルソン風にスーツを着こなした。

食卓には白身魚の香草焼きとパンとクラムチャウダーとサラダが
並んでいた。どうやらレンは料理が得意らしい。
だけどテーブルにはカイトの分のみあるだけ。

「君も一緒に食べないと落ち着かないよ」

「僕もですか?」

「君と、リンもね」

カイトは今後も一緒に食事する事を約束させた。

アンドロイド達も食事をする。
エネルギーは昔ながらの電気と、人間達と同じ食物の二つ。
人工関節や神経経路には血液のように液体コンピューターが循環しており
液体コンピューターは有機質からエネルギーを取る。つまり
人間と同じ様に、ご飯を食べることで動くことが出来るのだ。


自分の部屋に入り、寝る支度をすませカイトは
個人端末に目をやった。相変わらずチカチカと点滅する
流れ星のアイコンだったが、もはや目が慣れてしまって
気にもしなくなった。

眠りにつくまで、カイトはリンやレンの事を考えていた。
ベットの側のカーテンを掻き分けて窓の外を見た。

綺麗な夜空に星が輝き眺めていると星がひとつ流れた。

「お願いする暇もなかったな」
カイトは呟いた。
「星には、お願い…無いのかな…」
瞼が閉じてカイトは眠りについた。




流れ星にだって願いや望みがあるはずだ。
いやになるほど昔から散々願い事を一方的に聞いているのは
フェアじゃないとは思うのだけれど。

それでも時折、地上を眺めては星に願いをかける
少年や少女たちの目をみると、無力な星はどうしようもなく
落ち込んだりする事があるのかも。

せめて一瞬だけでも綺麗な線を引く光の尾を
見せてあげるのが精一杯の贈り物。

それを見つけた少年や少女に一時の
夢を見せる事が出来るのなら

星の願いは――

叶うのかもしれない。




ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

星の願いは 3

これで一旦終わりです。
伏線を沢山含みながら終わってます。

落ち着いたら、続きを書こうかと。

閲覧数:172

投稿日:2012/02/08 23:41:44

文字数:3,813文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • 橘光

    橘光

    ご意見・ご感想

    読ませていただきましたよ。
    かっ勘違いしないでくださいね!
    別に読みやすそうだったから読んだだけなんですからね!(*へ*)

    まあ冗談はさておき、カイト君とメイコさんのやりとりがお約束みたいになってきてるな……。
    「甲斐性無い」って言われてるとき今日イチ可哀想だった……。

    なんの抵抗も無く、服を脱ごうとするリンちゃん先輩さすがっす!
    レン君の朝食か……(じゅるり)

    伏線いっぱいで終わったので、こちらも続きを楽しみにしてますよ。
    というか、僕も「君街」の続き書かないとな………(君街というのは、君がいたはずだった街の略です)

    2018/05/28 06:13:58

    • kanpyo

      kanpyo

      読んで下さりありがとうございます。
      この話、実は初めて書いた小説なのです。しかも8年前。
      なので今読むと・・・はずかちーのでありますっ!
      ですが、この物語の設定は気に入っており
      キャラは『青い草』、SF設定は『図書館の騎士』に
      分岐しております。

      そうですね、続きは一応頭の中にはあるので
      この物語もエンディングまで書いておきたいなと
      思います。

      2018/05/28 21:15:16

  • ya-mu

    ya-mu

    ご意見・ご感想

    読ませていただきましたーー!!
    私、小節なんて読んだこと無いに等しくて、国語能力が乏しいので上手く言えないのですけど、えと・・、すごいです><
    リンレンのアンドロイドということで、とっかかりやすくて良いお話だなぁと思いました。それぞれのキャラクターが思っていることが、全部かんぴょさんの頭にあるんですもんね(@_@;)それを文字にするなんて・・それに、つじつまが合うように短い中で説明するとか・・すごいです!私には到底無理ですーーーー><;
    あと、ちょっとえっちいのがお好きなのか?小説にはありがちなのか?表現が上手すぎてどきどきしました(笑)

    もし続きができたらまた見させてもらいますね^^
    青い草の方も楽しみにしてますー。

    2012/02/09 20:21:14

    • kanpyo

      kanpyo

      ぎゅわ???!、もう見つかったんですね!
      いつかは見つかるんじゃないかと戦々恐々としてましたが……。

      …こほん、まあ落ち着いたとこで。

      披露するにも、お恥ずかしい限りでして
      文章も「??だった。」の連続、短文の連続でへんな感じですが
      「まあ、いいや」という事で?投稿しちゃいました。

      私も書くまで気づかなかったのですが
      文章も、イラストや音楽と同じ工程が必要でして
      デッサンというか下書きのような輪郭を書き
      線を整え、色を塗る…ような感じなんだなと思いました。

      だから、物語の伏線やキャラの性格なんかも
      書いては消して、また書いての繰り返しで、出来上がったんですね。

      エッチな表現は、紳士である私の最も苦手なジャンルでして
      本当は書きたくないのですが、物語のアクセントには多少必要かと思い
      挿入してみました。あははは……。

      なんちゃって、まあ、好みだったりするのかも知れませんな!うははは。
      (笑うしかない)

      リンもレンも只のPCソフトですが
      世界中の人に愛され、色んな方が素晴らしい曲や詞や絵を与えて
      一つのキャラクターとして認められている…、これって
      昔からよく言われている、「モノには魂が宿る」って事なんじゃないかな?
      って思ったのが、この物語のコンセプトだったりします。

      えらそうに語ってますが、ミニスカートのメイド服をレン君に着せた
      時点でアウトですねwwww。

      兎も角

      読んで、感想まで頂きありがとうございます。
      正直、嬉しいですよ。

      2012/02/09 23:10:56

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