*アドレサンスです
*アドレサンスです(大事な事なので二回言いました)
*ツッコミ検定小説




見知らぬ顔映る
 ささやく声低く

にぎるハンマーたたきつけるの
 飛び散れガラスと


<ガラス粉砕>


 青く晴れた空。焼け付くような日差し。
 熱を帯びた人工芝の上、二つの人影が対峙していた。
 良く似た面差し、良く似た表情。挟むのは長いとさえ言える距離。
 声すら張り上げなければ届かないような距離を隔て、二人は見つめ合った。
 じっとレンを見詰めるリン。リンを見詰めるレン。
 彼等の周りを遠巻きにするように人々が立っているものの、声を上げて二人の邪魔をするような不粋な真似をする者は誰一人として存在しなかった。

「リン」

 レンの強い声が、初夏の空気を涼しく震わせる。ワイシャツにベスト、ネクタイといった上品な姿に良く似合う声だ。
 癖の強い金髪の下で、夏の空のような深い青の瞳が皮肉な笑みの形に細められた。

「多少経験を詰んだ程度じゃ、僕に敵いはしないよ」

 浮かべているのは、誰も―――リンですら見たことのない獰猛な笑み。
 求めるものに向かってひた走る、獣の笑みだ。

「…そうかしら?」

 対するのは、凜と響く炎の声音。
 苦笑しながらリンは軽く肩を上げた。ネグリジェから惜し気もなく曝された白い肩が太陽の下で優雅に輝く。
 ひらりと翻る薄布の下に垣間ま見えるのは、少女らしく華奢な肢体。常識的に考えるならば、力では男であるレンには敵わないだろう。
 しかし、リンは揺るがぬ自信を持って唇を緩めた。

「貴方の想像では及ばぬ世界というものもこの世にはあるわ―――」

 ぐっ。
 リンのしなやかな掌が、指先が、しっかりと折り曲げられる。
 肌に触れるハンマーの柄の木の感触に、リンもまた目を細めた。
 いつの間にか慣れ親しんでいた感覚。これが全てを壊し、未来を拓く。
 今はただ…なにかを信じて、これを振りかぶるだけ。

「―――さあ、レン」

 一言。
 たった一言、意味さえ成さないような断片的な台詞だ。
 しかし、その言葉で…場の雰囲気は一気に張り詰めた。
 ぴり、と電気でも流れたかのように肌を刺す風。それに不敵に笑ってみせながら、レンは声を投げ掛けた。

「双子同士で戦わなければならないのも、また、宿命か…」
「厨二病乙」
「しかし世界がそれを望むのなら―――…!」
「…スルーされてしまった」

 小さくぼやくリンの前で、レンが滑らかにフォームを取る。
 二人の視線が一瞬だけ交差し―――





「受けてみろ…僕のスライダー!」





 指から離れるのは、目にも留まらぬ剛速球!


 しかし… 


「―――甘いッ!」

 叫び声と共に振り抜かれるハンマー。
 その芯は過たず小さなボールを捉え…





 ―――パリーン!





「あ、やば」





「あれは割れたな、ミク」
「割れましたね、カイトさん」
「というかあれ校長室だよね」
「メイコ校長怒りますかね」
「というかなんでこの学校の野球場ネット付いてないのかな」
「お金がないそうです」

 二塁辺りで悠長に会話をするカイト(ランナー)とミク(セカンド)。歩きながら会話をしている風景は非常に暢気だが、カイトの余裕も当然だろう。
 文句の付けようがない―――ホームランだ。

「…そんな…!?」

 レンは愕然とした表情で膝を着いた。
 綺麗にプレスされたズボンに芝が緩く刺さる。しかし、その刺激が彼の意識に届くことはなかった。
 茫然自失となったレンの目の前で、塁に出ていたランナー達が次々にホームベースを踏む。

 正確に言うならば、レンは殊更に驕っていたわけではない。侮っていたわけでもない。
 ただ、この球は強豪達を蹴散らした、必殺の一球だった。何と言ってもあの神速の神威や光速の氷山、浪速の海渡まで捩伏せた記録を持つのだ。見切られる、当てられる、そこまでは考えついても、まさか窓ガラスを粉砕して校長室の中まで運ばれてしまうなど…レンには流石に考えつかなかった。

「僕のスライダーが…リンに破られるなんて…!?」
「だから言ったでしょう」

 いつの間にかホームベースを踏んでいたリンが、芝に伏したレンの元へ静かに歩み寄る。

「確かに単にヒットを打つだけなら、貴方のチームの最強の守備―――『刺し殺しの初音』には勝てない…でも、それなら、どうあがいても守備陣には取られない球を打てばいい。甲子園の土を踏むには、それを現実にしていかなければならないわ」
「…そうか」

 立ち上がるレンに、リンがそっと寄り添う。

「なら僕は、やる。来年の戦いでは…次こそリンに勝ってみせる。甲子園のマウンドに、立つために」
「…楽しみにしているわ」

 空は青い。
 そこに吹き渡る初夏の風を感じながら、レンは目を細めた。

 まるで、遥か遠く…甲子園球場の空を見透かすかのように。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

ガラス粉砕

*アドレサンスです(大切な事なので三度言いました)

季節感に定評のない翔破です。お正月という事で当社比短めです。
書き初めでこれっていかがなものでしょうか。今年の不吉さを予告しているようですね!アドレサンス大好きです!

閲覧数:1,024

投稿日:2011/01/02 22:04:23

文字数:2,055文字

カテゴリ:小説

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  • まい

    まい

    ご意見・ご感想

    アドレサンスで
    まさか
    こうくるとは思いませんでした!!
    と言うか
    レンはまだしも
    リンちゃんがネグリジェでプレイしてるのがスゴいなと♪
    相変わらずの
    楽しい展開でとても楽しく読ませて頂きました
    ありがとうございます!!!

    2011/01/03 22:33:19

    • 翔破

      翔破

      あけましておめでとうございます!
      こんな展開にしてしまいました…多分駅伝を見ながらだったのでこうなったのだと思います。
      リンちゃんのネグリジェは、恐らくレンの視線を奪うための作戦だと思います。

      楽しんでもらえたなら幸いです!ありがとうございました!

      2011/01/04 22:14:41

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