――桜の咲く季節になると思い出す。


その日は、空が一段と青くて、雲なんて一つもなかった。
堤防沿いの桜並木は、一面、満開の桜。
青に映えた桜がすごく綺麗で。
昼間だからか人のそんなにいない道を、桜を見上げて歩いていた。

ふわり、と、風のように何かが横ぎった。
桜の花びらが舞うようなやわらかい、何か。
横切った先を見上げると、桜の木の上に誰かがいた。
桜の花びらが髪に絡んで、まるで、その人自身が桜のよう。
物憂げな表情が、なんとなくさみしい。
その薄いピンク色の、まさに桜色の瞳と目があった。
柔らかい笑みを浮かべ、ゆっくりと桜に視線を移す。
彼のその動きから目が離せなくなって、ずっと見つめていた。

唇が動く。けれど、声は聞こえない。
桜にそっと触れながら、発しているはずの音が聞こえてこない。

わからないことがもどかしくて。
手をのばすと、彼は桜の花びらをのシャワーをかけてくれた。
彼と同じ、桜を纏う。
彼のように柔らかい、桜。
彼がさっきとは少しだけ違う笑顔を見せる。
柔らかく、優しく、暖かく、でもさっきとは違う、桜色の頬。

強い風が吹いて、髪を纏った桜が舞い上がる。
舞っている桜を見上げた。
一片の桜が頬を撫でる。

もう一度、彼がいた木を見ると、そこには彼はいなかった。




ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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  • オリジナルライセンス

薄花桜に囚われたままの愛と哀と藍と

タイトルはこちらよりお題をお借りしました。
サイトさま:h a k u s e i
http://hakusei.3.tool.ms/

桜のKAITOを見て、イメージを膨らませて書いてみました。
桜KAITOが綺麗すぎて(´ω`)

外部サイトにも載せてます。作者は同一人物です。
http://29.xmbs.jp/len02-14897-n2.php?guid=on&no=137455&view=1&page=9

閲覧数:223

投稿日:2011/04/15 11:03:39

文字数:555文字

カテゴリ:小説

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