ヴェノマニア公の狂気
プロローグ
アスモディン地方に、ある少年がいた。
少年の名前は、ガスト=ヴェノム。
ガストは、どうも冴えない顔だった。ガストはこの冴えない顔のせいで周りに嘲り笑われていた。
…つまり差別というところだろうか。
ガストは1人も相談に乗ってくれる親友はいなかった。ずっと1人で生きてきたのだ。
ガストには、好きな人がいた。ガストには親友と言える人こそいなかったが、幼馴染がいた。
ガストはその幼馴染が好きだった。
幼馴染の名前は、グミナ=グラスレッド。貴族だった。
ガストも貴族でグミナと同じ身分だった。しかしガストはどうも冴えない顔だからか、周りからあまりいい評判は受けなかった。
しかしグミナは、ガストのことを嫌いではなかった。むしろガストが自分に好意を抱いているのを薄々気づいていた。
「…うぅっ…」
ガストはいつも周りから嘲り笑われた後に、1人違う部屋で泣いていた。
「…ガスト、大丈夫。私がいるよ。」
グミナはガストが1人で泣いているとき、いつも一緒に居てくれた。
「…グミナ…」
ガストはグミナのこういう優しいところが好きだった。
しかし、いつからかグミナは一緒に居てくれなくなり、周りと一緒に嘲り笑い始めた。
ガストはグミナが裏切ったと思った。
しかし、1人で泣いていたころにいつも一緒に居てくれた優しさは忘れられず、グミナが自分のことを嘲り笑っていても、好きな気持ちは変わらなかった。
ガストはいつからかグミナを見返したいという気持ちが湧いていった。しかし何もできない自分が歯がゆかった。
「…畜生っ!」
しかし、1つだけできる方法があった。
禁断の悪魔との契約だった。
ガストは色欲の悪魔の召喚方法を自分の屋敷の本棚から見つけ、悪魔を屋敷の裏で召喚した。
凄まじい風が巻き起こった。
「…僕を呼んだのは君?」
顔は光でよく見えなかったが、声からして男性、姿形は人間そのものだった。
ガストは悪魔に契約をしたいと話した。
悪魔は契約を潔く受け入れた。
本にはこう書いてあった。
「契約をした人間は、姿は美しく綺麗になるが、幻想に全てを飲み込まれ、人間では無くなってしまう。そして、悪魔の差し出した条件を果たさないと、契約は外れる。」
悪魔がガストに差し出した条件は、女を犯した後に手の平からでる血を悪魔からもらった瓶に出る限り入れる。しかし入れているところを人に見られてはいけない。という条件だった。
ガストは条件を受け入れた。
そして、ガストと悪魔は契約した。
ガストはみるみる美しくなった。
が、この契約が、ガストの人生を狂わせていった。
1:屋敷の地下室
ガストは、自分を見た全ての女が魅了されていく禁断の力を手に入れた。
ガストは今は1人、違う屋敷の地下室に住んで居た。
ガストは次々に女を犯していった。
女は、行方を眩ませてガストの屋敷にきていた。
ガストは自分の名前がばれないように、サテリアジス=ヴェノマニアという偽名を使っていた。
ヴェノマニア公は、気に入った女を次々に連れ込み、ハーレムを作り上げた。
そして、毎晩1人になったあとに、手の平からでる血をボトルに注ぎこんでいた。
そしていつの日か、ヴェノマニア公の幼馴染グミナ=グラスレッドも、屋敷にきていた。
しかしグミナはきても笑っていなかった。
ヴェノマニア公は、おかしいと思い、グミナにキスをした。
グミナはキスした後は笑っていた。しかし、またすぐに笑わなくなってしまった。
…グミナは正気なのかもしれない。
ヴェノマニア公はそう思っていた。
それから、おかしいことがおきた。
ヴェノマニア公はいつも通りに、1人でボトルに血を注ぎこもうとした。
しかし、血がでてこないのだ。
ずっと血を注ぎこまないと、契約が外れてしまうので、いま屋敷にいる女以外にも手当たりしだいに次々魅了していった。
そしていつの日か、国中の女が次々に行方を眩ませた。
ある者は女房、ある者は娘を失い、途方にくれていた。
2:幼馴染の恋人
グミナには恋人がいた。
恋人の名前は、カイル=マーロン。
カイルも、グミナと同じ貴族だった。
グミナはカイルに行方を眩ませてガストの屋敷にやってきた。
カイルは、グミナを見つけようとした。
しかし自分だけではどこにいったのかわからなかった。
カイルは、いろいろな人達に協力してもらい、どうにかして居場所をつきとめた。
ある男性から、グミナは悪魔が住んでいる屋敷にいるときいた。
カイルは悪魔を退治するため、銀の聖剣に毒を塗り、懐に入れた。
カイルはヴェノマニア公に男性だとばれないよう、女装して近づいた。
「…こんにちは、ヴェノマニア公。」カイルは裏声を利用し呼んだ。
「…さぁ、おいで。」ヴェノマニア公は笑った。
カイルはヴェノマニア公に近づいた。
そして、懐の毒を塗った聖剣を、ヴェノマニア公に突き刺した。
グミナはその瞬間を見ていた。
ガストは、毒を秘めた刀が刺さり、その場に倒れこんだ。
「……くっ!」
ガストの胸に刀が刺さった瞬間、女たちに掛けられていた術がとけ、
全ての女は我に帰り屋敷から逃げ出した。
刀の毒と、自分の血が混じり合い、ガストの体から紫の雫が溢れ出した。
グミナはガストを助けようとはしなかった。
グミナは、顔の変わったガストをただ見ているだけだった。
徐々に悪魔との契約が解けていき、ガストの容姿が戻ってきた。
カイルはグミナに手を差し出した。
「グミナ、行こう!」
グミナは、恋人を待っていたので最後まで残っていた。
グミナはカイルの手を取った。
「………!」
グミナは、カイルに手を取られ逃げ出した。
最後にグミナはヴェノマニア公を見下ろしてこういった。
「…こんなことするひとだったんだね、ガスト。」
「!」
ガストはグミナが正気であったことを確信した。
ガストは最後の力を振り絞って、グミナに手を伸ばしこう言った。
「…待って、グミナ…まだ君…好きだと…言って、無いんだ…
ねぇ、待って…おね…がい…」
ガストが言い終えるころには、もうグミナは屋敷からでていた。
「…………」
ガストはグミナに見殺しにされた。
すると、悪魔がでてきた。
悪魔はガストに向かいこういった。
「……死んだね。魂はもらっていくよ。」
すると、悪魔は黒い霧になり消えた。
その後、逃げ出した女達は男達にあったことを話した。
そのことを聞いた男達はガストの屋敷に入りこんだ。
しかし、ガストの死体はもう無かった。
男達がみたのは、ガストの死体があったあとの紫の雫だけだった。
すると、後ろから声がした。
「……へぇ、見ちゃったんだ。」
「誰だ!」男達は叫んだ。
悪魔だった。
男達はもちろん知らなかった。しかも、悪魔らしいところが1つも無いので、悪魔と知る由も無かった。
悪魔の容姿は、黒に近い茶髪、茶色の瞳に黒い洋服の、村にもいる男性だった。
悪魔の名前は、キール=フリージス。いや、名前というより、その名称で通っているだけだ。正式に名前はない。
キールは男達に人差し指を向けた。すると、男達は黙った。
口封じ…魔術の力で黙らせた。
キールは男達にいった。
「…困ったな。ガストのことはみんなに忘れてもらわなきゃならないのにな…」
「いまから、みんなにガストのことを忘れてもらう。…ガストに関する記憶を消すってことかな。消したあとはもう覚えてないだろうけど…グミナちゃんに、よろしく言っといて。」
そうキールが言った途端、凄まじい風が吹いた。
止んだ時には、男達のガストのに関する記憶は消えていた。
と、キールは霧になった。
「…どうして俺たちここにいるんだ?」
「娘のところに帰らないと…」
そして、男達は屋敷から帰っていった。
キールは霧に近い状態で、男達の見えないところで見送った。
「ふぅ……」
キールは1つ、ため息をついた。
今回男達の記憶を消したのは、もうこの様な事件を繰り返さないためだ。また悪魔の力を使った事件が発生するといろいろと面倒なのだ。
このあと、アスモディン地方に住む人々は、皆平和に暮らしていくのか、また悪魔の力を使った事件が発生するのか。
それはまた別のお話になる。
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