家の中を甘ったるいにおいが漂っている。
　家にいるのはただ一人。裸マフラーを得意とするあいつだ。
　ミクは『第二回ネギ祭り』に行っているし、リンとレンは学校の行事でいない。ルカは海鮮丼を食べにいっている。
　昼ご飯の代わりにアイスでも食べたのか。だとしたらバカだ。いやバカだという事は前々から知っていたけど、やっぱりバカだ。
「ＫＡＩＴＯー！　起きてるー？」
　返事なし、応答なし。はいはい、寝てるのね。
　まずは台所に食料を置いてから、トイレ用に使っている消臭力を使う事に決めた。
　アイス野郎はソファーの上でぐうぐう高いびきをかいている。
「こんのバカイトめ――！」
　近くにあったがくぽの刀をソファーの背もたれとバカイトの間に入れ、ぐいっと押すとバカイトはごろっと転げ落ちた。
　ふっ、これが私の特技・てこの原理よ！
「ふぁーあ……あ、めーちゃんおはよう」
「おはようじゃないわよ！　あんたすっげ臭いんだから風呂入ってきなさい！」
　消臭力をバカイトに吹き付ける。
「はぁい」
　やがて風呂場から機嫌のいい歌声が聞こえてきた。
「しぃねぇばぁいいのに♪　しねばいいのに♪」
　…………。
　とりあえず臭いの原因は去ったので、その分身を片づける。
　あ、ハーゲンダッツだ……いつもはスーパーカップしか許してないのに。
　ゴミ捨て場にアイスのカップを出しに行き戻ったら、ちょうどバカイトが風呂から出るところだった。
「めーちゃん、僕のマフラー知らない？」
「さっきこぼれたアイス拭いて、そのままあんたの部屋に置いたけど。それよりあんたハーゲンダッツ食べたのね？」
「うん、さっきネルちゃんが来てね。レン君に用があったみたいだけど、あきらめて帰ってったんだ。レン君に渡してって頼まれたアイスなんだけど、どうも僕とアイスは常に一緒にいなければいけない存在らしくｔ(ry」
「えーっ、これレンの？　ダメじゃない、勝手に食べちゃ！」
「レン君はバナナの方がいいでしょ。めーちゃん最近ハーゲンダッツ食べさせてくれないじゃん！」
「まあ、それは悪かった……ごめん。でも何もレンの盗る事ないじゃない」
　言ってくれれば買ったのに。
「目の前にあると食べたくなるし……だから僕とアイスは僕とめーちゃん並みに常に一緒にいなければいけない存在なんだって」
「私そんなにあんたと一緒にいてないから。レンにちゃんと謝っときなさいよ」
「たぶんレン君知らないよ、隠しといてもいいんじゃない？」
　は？
「お前どんだけわがままなわけ！　『世界で一番王子様』にでもなったつもり!?　勝手にハーゲンダッツ食べて！　ネルはレンに食べてほしかった事くらい分かるでしょ！」
「……分かったよ、レン君に謝る」
「謝るだけじゃなくて、自分でそのアイス買ってきなさい！　当分小遣いなしよ！」
　まったく、バカイトの躾は大変だ。
　しょげたように財布を持って近所のスーパーに出かけるＫＡＩＴＯを見送る。
　あの双子よりアイス野郎の方が手がかかる……。



＊後日談　ＫＡＩＴＯさん＊
「『僕とめーちゃん並みに常に一緒にいなければいけない存在なんだって』で照れないってどういう事ー？　言ったこっちが恥ずかしいじゃないかー///　鈍感めーちゃんのばかあああ」
「あ、言いつけてやろうっと。お姉ちゃん、お兄ちゃんがねー」
「だめええええ！」