朝の通勤ラッシュ、駅のホームはいつも慌ただしい。人々はスマホを見ながら歩き、改札に向かう足音が無秩序に混ざり合っている。その中で、私はふとホームの端にある古びたベンチに目を留めた。長年使われているそのベンチには、無数の傷や刻印があり、まるで過去の時間が積もってできた地図のように見える。

座ってみると、周りの人々の動きとは違う時間の流れを感じられる。足元を駆け抜ける電車の轟音や、切符を手にする手の動き、誰かが置き忘れた紙袋のわずかな揺れ。日常の中で意識しなければ気づかない小さな動きが、ベンチに座るだけで立体的に感じられるのだ。

ふと隣を見ると、そこには小さな落書きがあった。「ここで出会った日、忘れない」と刻まれた文字。その言葉は無機質なホームに、人間の営みや感情を静かに重ねているようだった。文字の輪郭には誰かの手の温もりが感じられ、時間が静止している瞬間を抱きしめた気分になる。

目を閉じれば、通勤ラッシュの音がまるでオーケストラのように聞こえてくる。足音が弦楽器のように、アナウンスの声が木管楽器のように、それぞれの役割を持って響いてくる。私はその交響曲の中で、自分だけのリズムを見つける。人混みに紛れながらも、心は静かに広がっていく。

ベンチを離れる頃、私は気づいた。時間というものは、ただ過ぎ去るだけのものではなく、日常の中でさまざまな形を持って私たちに語りかけている。落書きや傷跡、置き忘れた紙袋さえも、過去と現在をつなぐメッセージだ。駅のベンチに座るだけで、時間の奥行きを感じられることに、私は小さな驚きを覚えた。

日常の中の些細な風景や出来事には、見落としてしまうけれど確かに存在する物語が潜んでいる。それを感じ取るためには、少し立ち止まる勇気と好奇心が必要なのだ。次の通勤でも、私はまたベンチに腰掛け、時間が描いた細やかな線や音を探すだろう。そこには、いつも新しい発見が待っているのだから。

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【本田教之】駅のベンチで見つけた時間のカタチ

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投稿日:2025/10/27 11:11:50

文字数:811文字

カテゴリ:AI生成

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