カラオケに行ったり、ゲームコーナーに行ったり、メイド服を一緒に着たり……いろんなことをした。

 けれど、それは全てヒビヤくんのためでもあった。だって、本当にダメな時は私が支えてあげる。

 だから、いっそ……なんて言って諦めちゃ絶対にダメなんだからね。

「ねえ、一緒に進もう?」

 一緒に『独りぼっち』を壊すんだ――。

 ふにゃああああああああああああ!

 背後から突然の悲鳴がして振り返る! なんとそこには猫さんが……! あ、しっぽ踏んじゃったんだごめん! 猫踏んじゃったをリアルで体験するなんて思わなかったよ!

「ほんとうにごめんってば~!」

 そんな私の猫をなだめる姿が、ヒビヤくんにはヒヨリちゃんに重なって見えたみたい――そんなことをヒビヤくん本人から聞いたのは、それから大分あとの事なんだけれど。


≪オツキミリサイタル【自己解釈】 後編≫


「どうなっているんだか、僕にもまったく解らないんだよね」

 ヒビヤくんの話を聞いていると、私にもそれはまったく解らなかった。話を聞くだけでも効果があるって団長さんが言ってたから実行しているだけなんだけれど、ほんとうにうまくいくのかどうかは疑問だ。

 ヒビヤくんはまた泣きそうな顔になっていた。ヒヨリちゃんがよっぽど大事だったんだ。解る。

 けれど、ため息ばっかりで目を瞑っていちゃ。

「思いも……昨日に消えちゃうよ?」

 呟くと、ヒビヤくんは小さく頷いた。

「さあ、後半戦だ! 遊ぶぞ~!」

「なんだ、おばさんがあそびたいだけじゃん」

「ヒビヤくんだってそんなまんざらでもないくせに~。メイド服のやつ、ヒヨリちゃんに会ったら見せてあげようかな~!」

「ちょ、お、おい! 待てよ!」

「追いかけてごらーん」

 そんなことをいいながら、私たちはまた街へ駆け出していくのだった――。


「……疲れたね」

「うん」

 空は夕暮れとなり、パンザマストが響いていた。公園ではブランコに乗って遊ぶ少年少女がいた。きっと、年的にはヒビヤくんと同じくらいだろう。それを見たヒビヤくんは一瞬で小さく俯いた。まるでヒヨリちゃんをそこに見つけたような、そんな表情だった。

 そして、ヒビヤくんの目から――大粒の涙がこぼれて、地面に消えた。

 ヒビヤくんがいた世界は、酷く小さな世界だったに違いない。ヒヨリちゃんは、恐らく、そこに閉じ込められているのだろう。けれど、その世界――『怪物』は大きく牙を向いた。だから、彼らは今こんな苦痛を負っている。

「一緒にいたかったんだ……ただ、一緒にいたかっただけなのに……!」

 ヒビヤくんの目からは涙が止まらなかった。

 そんな君の心には、小さな言葉じゃ届くことも全然ありえないのかもしれない。

 けれど、私は――君の力になりたいんだ。

「助けたいんだよ、叶えたいんだ……ねえ!」

 その言葉は、私も気づかないうちに、口から溢れ出ていた。


 夜になって、満月が空に浮かんでいた。

 ――やってみせる。

 私はそう呟いて、ヒビヤくんの手を取った。

 走って、公園の中央に向かう。

 私の能力、『目を奪う』能力。

 それを使って――人を集める。サラリーマン、OL、買い物帰りの主婦、誰だって構わない。

「おばさん、なにを……」

「私だって、これができるの。だから……不可能じゃないんだ。君が望めば……また会えるんだよ!」

 私は、思い切り笑顔でヒビヤくんに言った。


「……おい、大丈夫か」

「あ、あれ……団長さん?」

 私は団長さんの膝枕で目を覚ました。

「遅かったからエネがお前のケータイを逆探知したんだよ。……って、あれ? シンタローはどこいったんだ?」

「お兄ちゃんはどうせ帰ったんじゃないんですか」

 私は起き上がり、ヒビヤくんはどこに行ったのか、あたりを見渡す。

 ヒビヤくんは案外近くにいた。

 ヒビヤくんは大きく深呼吸して、遠くのお月様に、「やってやるさ!」と叫んでいた。

 ――少しかっこいいかな、まあ。

 そう思って、私は小さく微笑むのだった。



おわり。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

オツキミリサイタル【自己解釈・後編】

メイド服のヒビヤが可愛くて何かに目覚めそうな勢い(嘘)

http://www.nicovideo.jp/watch/sm21259575

閲覧数:20,788

投稿日:2013/07/02 22:21:46

文字数:1,724文字

カテゴリ:小説

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