ぐっすり眠って、気持ち良く起きた、朝。
早寝をしたために、早起きしてしまう。



目覚めてまず思うのは、君のこと。
だって、そうでしょ?
今日は君に会えるんだから。







小さく伸びをして、ベッドを出る。
洗面台にて洗顔し、目の前の鏡に目を向ける。



昨日、思い切って前髪を切った。
長い前髪はピンで止められていたけど、それももう終わり。
今日からは、眉の長さのそれを降ろしていく。



切った理由は単純。
君に、どうしたのと訊かれたかったから。







朝食を食べ終えれば、軽い足取りでクローゼットへ向かう。
服装は昨夜決めた。
淡いピンクのシフォンワンピース、真っ白なカーディガン、そしてお花――もとい、桜の花弁の髪飾り。
凄くうきうきしながら着替えて、髪飾りを挿した。



準備が整ったので、施錠をして出掛ける。
いっぱい、お洒落したんだもん。
今日の私は… 可愛いよね?







嗚呼、君と一日中一緒に居れるなんて、考えただけで溶けてしまいそう。
勇気のない私じゃ、好きだなんて言えない。
それどころか、ろくに目も合わせられないというのに。



だからこそ… 気持ちが揺らぐことはない。
恋に恋なんて、しない。
言えないけど… 君のことが、好きだから。







外に出ると、生憎の雨だった。
天気予報は、晴天と言っていたのに。
土砂降りだなんて。
大嘘をつかれた。





電車に乗って、待ち合わせの駅に到着する。
君の姿はない。
早く着いたようだった。
鞄に入れた折り畳み傘を見るたび、気持ちが滅入る。
雨天が嬉しくなくて、溜め息をついた。



と、そのとき。
ぽん、と肩を叩かれた。
そこにいたのは、待ち望んでいた君だった。
待ったかと訊かれて、ううんと首を横に振る。



行こうと声をかけると、君は立ち止まった。
どうやら傘を持っていないらしい。
私が折り畳み傘を取り出すと、君は







「しょうがないから… 入ってやるよ」







と照れながら言った。
私の心臓が、ドクンと恋の音を立てた。
きゅんとくるその照れ顔に、息が詰まりそうになる。
柄を持つ私の手に君の手が重なり、私の手がぴくんと震える。
手にリンクして、胸も震えているようだった。



『半分こ』の傘であるため、手を伸ばしたら、君の体に届く。
…どちらにしても、この手を伸ばせたら。
どうしよう、心臓が煩い。
この想いが君に届いたら、この鼓動はおさまってくれる?







――時間は残酷だ。
何かに夢中になっていると、あっという間。
時間なんか、止まってしまえばいいのに。
一秒過ぎてゆくたびに、泣きそうになる。



別れへのカウントダウンが、圧力をかけていく。
裏を返せばそれだけ、君と過ごした時間は楽しかった。
思い出を顧みるだけで、胸が嬉しさでいっぱいになる。
風船のように破裂して、死んでしまうほどに。







もう… 着いてしまうのか。
これで君とは会えなくなる。
数分後、電車から見える君が小さくなって、遠くなるのが想像できた。



そう思えば、今、無性に手を繋ぎたくなって。
思ったら、君から手を握ってきた。
君の手も、少し震えている。







もう、バイバイしなくちゃいけないの?
本当にこれでお別れ?
信じられない。
幼い頃からずっと一緒だった。
離れることを知らなかった。
信じたくない。




でも、割り切らなきゃ。
割り切らなきゃ… なんだけど。
最後に、ひとつだけ。
ひとつだけでいい。
お願いをしてもいい?







「今すぐ、私を抱き締めて」







…なんてね。
言ったら君は躊躇った。
恥ずかしがっても、無理はない。



…ねぇ、一緒にいてくれてありがとう。
いっぱい、ありがとう。
さようなら。
愛しい、君へ。















End.

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

メルト

『メルト』の自己解釈小説です。

閲覧数:154

投稿日:2013/04/07 14:53:44

文字数:1,630文字

カテゴリ:小説

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