「わああああああ……!!海だ……本物の海だぁあああああ!!」


 白と緑のボーダーのビキニに着替えたミクが、拡がる大海原を前にして歓喜の声を上げている。

 そのまま叫びながら海に向かって駆けていくミクとは対照的に、リンとレンは若干表情が暗めだ。


 「せっかくルカさんが休暇取ってきてくれたのに……肝心のルカさんが行っちゃうなんて……。」

 「うん……だけどさ、めーちゃんの言う通り、ここで躊躇したらルカさんの気持ち踏みにじっちゃうわけだろ?少しは楽しもーや!」

 「……うん、そうだね!よーし!!思いっきり泳ぐぞ―――――!!」


 そう言ってミクの後を追い海まで駆けていくリン。レンもそれに続こうとしたが、そこでふと立ち止まって考えた。



 (……あれ?そう言えばリン……泳げたっけ?)



 ―――――2分後―――――



 「がぼがおごぼあたすけ泳げなくぁwせdrftgyふじこlp;@:!!!!」

 「…………やっぱり…………。」


 『デスヨネー』と言う顔で立ち泳ぎするレンの前には、謎の奇声を上げながら今にも沈もうとしているリンがいた。


 「ほら、つかまれ、リン。」

 「げほっ、げほ……ありがど、レン……。」


 涙目、鼻声のリンを背中に担ぎあげるレン。

 ふと周りを見回して、呟いた。


 「……あれ?ミク姉どこ行った?」

 「あるぇ?そう言えば……?」


 きょろきょろ見回していると、突然浜の方で歓声が上がった。


 「おお!!すげぇな嬢ちゃん!!」

 「シンクロナイズドスイミングのプロでもこんな動きできねえよ!!」


 『……………。』


 まさか。そう思って振り向いたリンとレンの目には―――――金色の髪を鮮やかに舞わせながら空中三回転して着水するミクの姿が飛び込んできた。

 再びイルカのように水中から飛び出してきたミクは、今度はひねりを加えた空中四回転。更に着水の瞬間に全身のばねと『Light』の力を生かしてさらに高く跳んで五回転。もはや体操選手か何かのようだ。


 「……ミク姉ずるい……。」

 「……リン、ミク姉のこと後ですっ転ばしてやろうぜ。」


 リンとレンが嫉妬心をメラメラ燃やすその一方、メイコとカイトは砂浜で日光浴をしていた。


 「元気ねえ、あの子たち……。」

 「ははっ、やっぱり若さかn」

 「あんた今遠回しにあたしのこと年増って言ったわね?(怒)」

 「ごふぇんふぁふぁいごふぇんふぁふぁいごふぇんふぁふぁい!!!(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!)」


 カイトの口の両端を思いっきりつねるメイコ。

 何気ない(?)会話と時間の流れの中で、メイコは一瞬だけルカのことを思い出した。


 (あの子……ちゃんと首尾よくやってんのかしら……。)


 『ごふぇんふぁふぁいふぁふふぇふぇふふぁふぁひ(ごめんなさい助けてください)』と叫び続けるカイトの両の口の端を持ったまま、ルカが走り去って行った方向をぼんやりと見つめるメイコだった。





 そのころ。当のルカはと言うと。


 (……よし、あのホテルね……!)


 順調に尾行を続け、富岡親子の泊まるホテルの隣の塀の傍に立っていた。

 塀の影から出て、いざホテルに歩み寄ろうとするが。


 「…………はぁああ……。」


 突然、盛大に溜息をついた。後ろに大勢の人の気配を感じたからだ。

 ―――――そう、ルカは富岡親子に慎重に気付かれないよう、順調に尾行を続けてきた。そしてそれは、確かに上手く行われてきた。

 たった一つの『誤算』を除いて―――――。



 「なぁなぁねーちゃんよぉ、俺達と遊ぼーぜェ?」

 「へっへっへ……でーじょぶだぁ、怖くねぇからよ、へへへ……!」


 ―――――ルカの後ろについて回る強面の男達、約十数名。どう見てもヤクザか何かの様な黒スーツの男たちだが、やっていることは正直ただのナンパである。


 (……こうなるかもとは思ったけど……やっぱり私服だと狙われやすかったかしらね……。)


 今回の尾行に関して、唯一ルカが心配していたこと。それはこういったナンパの類いだった。マスター・アンドリューのルカ設計時の強い欲望により、ルカは常人以上の美貌を持っている。普段の尾行ならば警察の制服だったり地味なコートを羽織っていたりするため、ナンパされることは少ない。

 ところが今日のルカは私服だ。美しい桃髪をポニーテールに結んだルカはぱっと見お年頃の可愛らしくも美しい女性にしか見えない。当然―――――恰好の獲物になる。

 勿論―――――私服とはいえ現在ルカは尾行中の身。公務執行妨害だ。


 (……ちょっと手荒いけど、追い払うしかない……か!!)


 「ちょっと!触らないでくれる!?」


 嫌悪感をたっぷり込めた声と共に、ルカは一人の男の手を力強く払った。

 こうされると男どもも黙ってはいられない。一気に目つきが鋭くなり、口調が荒荒しくなる。


 「ああ!?てめぇこのアマ、調子こいてんじゃねーぞ!!?」

 「俺らが『黒猫組』組員だと知ってのことかゴルァ!?」


 余計五月蠅くなってしまった。大きな溜息をひとつついたルカは―――――


 「はっ!!」

 『ぬおおっ!!?』


 持っていたバッグの中からいつもの鉄鞭を取り出し、高速で男達の目前にたたきつけた。男達はその風圧に足元をすくわれ、皆して無様に尻もちをついてしまった。


 「ぐ……このくそアマ、何を……………っっ!!?」


 言い返そうとした男が突然固まった。他の男どもが何事かと顔を上げると―――――桜の紋章の付いた黒い手帳を見せつけるルカの姿があった。


 「……ヴォカロ町警察署捜査一課全捜査班兼任特殊刑事、巡音流歌統括警部補っ!!只今要注意人物の尾行中!!これ以上邪魔するなら、ケツの皮剥けるまでひっぱたいてから公務執行妨害でブタ箱にぶち込むわよこの豚共!!!」


 カッコよく言っているように見えて実際にはドS混じりの罵倒にしか聞こえない脅し。しかしルカが威風堂々とした様で立っていたせいもあるのか、男達は途端に表情が情けなくなった。


 「サ……サツだとぉ!?」

 「お、おい!どうするよ!?なんかめっちゃ強そうだぜ!?」

 「く……こ、ここは……逃げるに限るっ!!覚えてろおおおおっ!!」


 まるでマンガの様な捨て台詞を残して、男達は逃げて行った。


 (……まったく、呆れたもんね。それにしても……『黒猫組』?暴力団か何かかしら……。)

 「……ま!いっか!さてと、富岡親子は―――っと……!」


 ホテルに向き直ったルカが、『心透視』を拡げ始めた。

 ―――――その瞬間だった。




 ―――――――――ゾクッ――――――――――




 「~~~~~~~~~~~~~~~~っっっ!!!!」


 全身が総毛立つ。冷や汗が吹き出る。足元がぐらつく。

 思わず体を押さえ、しゃがみこんだ。


 「う……ぐ……これはっ………!!?」


 その時ルカが感じたもの―――――それは、邪悪な心や沈んだ感情の発する“陰の気”……!!


 (初めてだ……これほど沈んだ、突き刺さるような陰の気を感じたのは……!!……まさか!!)


 焦燥を顔に浮かばせたルカは、自動ドアをぶち抜かんばかりの勢いでホテルに駆けこんだ。

 そしてスタッフが気付くよりも前にフロントに向かって叫ぶ。


 「ねぇ!!富岡初美って客、どこの部屋に泊まった!!?」

 「え!?…へっ!?」

 「早く!!一刻を争うのよ!!」

 「え、えええっと、807号室ですぅぅ!!!」


 半ば脅し気味の質問で聞きだして、全力で走るルカ。


 (エレベーターを使っていると時間がかかりすぎる……!……ならば!!)


 エレベーターを通り過ぎ、その横にある扉を開けたそこは―――非常階段。


 「らあああああああああああああっ!!」


 何ともつかぬ叫び声をあげて地面を蹴ったルカは―――――凄まじい角度の壁蹴りで階段を登って―――いや飛び上がっていく!

 二階。三階。四階。次々階を吹っ飛ばしていく。そして登るごとに強まる陰の気が、ルカを一層焦らせ、それが壁蹴り跳躍に更なる加速を与える。

 五階。六階。七階。―――――八階!


 「はあああっ!!」


 ドアに向かって突っ込み、ぶち抜く。

 半ば蝶番の壊れたドアを放ったまま、ルカは部屋を探しにかかった。


 「804……806……どこ……どこ初美さんっ!?」


 叫ぶルカ。すると視界に、ドアが半開きになっている部屋が入ってきた。その部屋番号は―――807!!


 「初美さんっ!!」


 部屋につっこんだルカ。

 そこで―――――息をのんだ。




 ―――――部屋一面に飛び散った、赤黒い血―――――




 ―――――惨劇だった。

 ベッドも。床も。テーブルも。壁も。天井も。

 全てが赤黒く、禍々しく光を反射する血に染められていた。

 そしてその真中、血の海の真中に、まるで眠る様な表情で倒れる母子がいた。


 「……!!……うっく……遅かった……か……!」


 苦しそうに声を絞り出して、そして目を閉じ、手を合わせようとして―――――ふと、ルカはあることに気がついた。


 (……あれ?この人、確か練炭を使うつもりだったんじゃ……?)


 だがその肝心の練炭と七輪は、バッグの中から転げ落ちて血に濡れている。こぼれた練炭には―――火をつけられた形跡がなかった。

 恐る恐る二人に近づくルカ。出血は全身に刻まれた刃物傷によるもののようだ。その傷はどう見ても手の届かない場所にも刻まれていた。

 それでいて頸動脈などの致命傷となる場所には傷がない。ここまで来ると、ルカの―――――数多の町で、殺人も自殺も見てきた『巡音流歌統括警部補』の勘は、一つの結論を導き出そうとしていた。



 (―――――これは自殺じゃない……事件だ!!)



 その時だ。


 「……………う……………。」

 「え!?」


 小さなうめき声に、ルカは思わずあたりを見回し―――そしてはっと気づいた。

 富岡母子にまだ―――息があることに……!


 「…初美さん!!わかりますか!?ルカです!!」

 「……る……か……さん……?」

 「しゃべらないで!!心の中で思って!!……安心してください!私は刑事です!!」


 カバンから取り出した有り合わせの道具で応急処置をしながら、ルカは『心透視』全開で話しかけた。


 『誰にやられたの?どんな特徴でもいいから心の中で思って!!私がそれを読み取るから!!』


 すると初美は、僅かに動く体でルカに少し向き直り、そして小さく口を動かした。

 それは言葉なんてものではない、本当に口を動かしただけだったが、ルカの『心透視』は心の言葉をしかと読み取った。


 (……く……くろねこ……ぐみ……。)


 その言葉を境に―――突然初美の心が見えなくなった。


 「!?初美さん!?」


 返事はない。だが、胸が上下しているところをみると気絶しただけのようだった。

 とにかく応急処置だけではどうしようもない。救急車を呼ぼうとした、その時だ。


 「………う……………。」

 「……!!和也君!」


 今度は和也が目を覚ました。苦しそうな息遣いでルカに向かって手を伸ばす。


 「動かないで!今救急車を呼ぶから…!!」


 必死に呼びかけながら、携帯のを取り出そうとしたルカの手を、和也の手がつかんだ。血に濡れたその手は、ほんの少しだけ冷たい。


 (………が………来た………!)

 「……え?何?」


 心の中で何かを考えている。それを感じ取ったルカは、再び『心透視』を使いだした。


 『どうしたの?何か……伝えたいことがあるの?』


 すると和也の口が僅かに動いた。そして響く、和也の心の声―――――




 (……黒い人……追いかけて……僕達……助けてくれた……人……)

 (紫の……髪……大きな……刀……)

 (あれは…………きっと…………あの……………!)




 「……っ!?……そんな……まさか……!?」





 《プルルルルルルルルルルルル!!》


 海岸でメイコのケータイが鳴り響き、メイコは思わず飛び起きた。


 「のわっ!?……何だ、ルカからか。」

 「ルカちゃんから?大方、無事に親子を取り押さえたんじゃない?」

 「かもねー。」


 通話ボタンを押し、電話に出るメイコ。


 「ハイハーイ、ルカ?どう、首尾よくいった?……え?……何ですってぇ!!?」


 穏やかな口調から一変、突然の大声に沖で遊んでいたミク達のみならず、辺りの海水浴客が一斉に振り向いた。『しまった』と言った顔をしたメイコは、声を潜めて話し出した。


 「……ホントなの?富岡親子が殺されかけたって……!」

 『うん……!もう救急車呼んで二人は搬送してもらったけど、正直かなり危ない状況なの!……でね、おそらくこの調子だと、私は第一発見者として事情聴取されるわ。そのまま捜査に協力することになるかも。そこでめーちゃんにお願いがあるんだけど……めーちゃんに捜査を手伝ってほしいの!!ミク達にはなるべく知らせないで……少しきつすぎるかもだし、ついてくるといろいろと面倒だしね。』

 「……ったく。あんた今が休暇だってことわかってる?」

 『う…………っ。』

 「……ま、いいわ。知り合った人が殺されかけたのに黙り込んでるってのも癪だしね。ちょっと待ってなさい!すぐ着替えてそっち行くから!!」


 電話を切ったメイコ。立ち上がり、いざ走り出そうとした瞬間―――――




 「………………………ん?」




 目の前には、真剣な目でメイコを見つめる四人の家族の姿があった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ボーカロイド達の慰安旅行 Ⅴ~事件……発生!!~

地獄の始まりです……Turndogです。

とりあえずは最初のミクさんたちでhshsしてくださいwww
この人たちはDIVA初代の水着を着ています。
多分リンちゃんは意気込んで泳ぎに行きワカメに絡まっておぼれレンにおぶられて帰ってくるタイプだと思う。

ルカさんはその辺を歩いていたらいろんな人を釣ってしまうと思う。
そして事件の方から勝手にやってきてしまうと思う。
そして和也が見た人影とは…?

次回事情聴取!

閲覧数:310

投稿日:2013/03/09 21:55:05

文字数:5,813文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    うんうん、そういうことですねw

    わかってます、私も「心透術」ならぬ「先読み」を、イズミさんとターンドッグさんには、使えるのですww
    私の「先読み」を超えることは出来るのか!←ぷれっしゃー

    2013/03/15 00:04:41

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      ふふふ、わつぃにはまだ最強の奥の手が(噛んでんぞ

      たった一つまだ越えられるものがありんす!

      2013/03/15 17:41:04

  • イズミ草

    イズミ草

    ご意見・ご感想

    え、紫の、刀の人って……
    まさかまかさまかか!!?(噛みすぎw

    2013/03/10 08:37:48

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