ねすとさん作品一覧

はじめまして、ねすと と申します。<m(_ _)m>

主に詩を投稿しておりますが、好きなのは小説。
ミステリー、青春のジャンルでつらつらと文字を並べております。

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    無頼 その1

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    TEXT
     



    「ここに行くといい」
    その少女のーー初音ミクのーー記憶はそこから始まる。
    そこはどこかの薄汚れた路地裏で、太陽にさえ見捨てられたような、一日中日の当たらない場所だった。不法投棄されたゴミが散乱し、けれどそれを注意する人も、気にする人もいない。ネズミとコケが繁栄し、不潔極まりない場所で、ミクは膝をついていた。
    膝をつき、両手をついていた。
    自身の身長ほどあるライトブルーのツインテールも、今では汚れてしまっている。彼女自身身をかがめているせいで髪がコンクリートへとつき、黒々と汚れた水をたっぷりと吸ってしまっていた。
    「多分、おそらく、ひょっとしたら、万が一の確率で、キミの助けになってくれるかもしれない」
    多分だけどね、と曖昧に曖昧を重ねた表現で、その男は助言する。
    ミクに似た長い髪。それを後ろで一括りにした、長身の紫髪の男性。白い袴と腰に差した鞘で武士のようにも見えるが、手に持っているのは扇子。刀ではない。鞘はあるのに、刀を持っていなかった。
    「グミ、名刺を」
    グミと呼ばれた女性は、ゆっくりとした動作でその男性の方を向く。オレンジと黄色の服。フリルのついたスカートはその場にとても似つかわしくない。アイドルのような格好をしているのだが、その表情は人を毛嫌いしているように見えた。
    「名刺って、がくぽの?」
    「なんでだよ、あいつらの事務所のほうだ」
    ああそっちね、とグミは返事をし、名刺を一枚取り出す。がくぽと呼ばれた男性はそれを受け取り、ミクの前に落とした。真っ白だった名刺は、汚水を吸って変色していく。
    ミクの目は、名刺にある名前を追っていた。
    「俺たちはキミを助けない。助けようともしない。けど、そこのやつらは助けてくれるかもしれない。だから、もしキミが助かりたかったら、そこへ行くといい。助かりたくなければ、そのまま死ねばいい。なにから助かりたいのかわからなければ」
    がくぽは笑う。
    「やっぱり死ねばいい」
    ミクはその名刺を拾った。細く傷ついた指ではその名刺を取ることさえ一苦労だったけれど、なんとか掴んだ。
    「行くんだね、なら、最後に合言葉を教えてあげよう」

    初音ミクの記憶は、その後、数秒しか持たなかった。がくぽの口が動き、なんと言ったか判断した時点で、彼女は眠りについてしまったからだ。身体中傷つき、衣服さえまともに羽織っていない。そんな身体でこんな場所で寝転べば感染症の恐れもあったが、がくぽもグミも、それを助けようとはしなかった。
    ただ、見捨てた。
    ミクに背を向け、歩き出した。
    一回も振り返ることも、話題に出すことなく、先ほどの会話さえ忘れてしまったように、二人はその場を立ち去ったのである。




    春になって、カイトが一番に思うことは「また好奇の目に晒されるなあ」ということだった。年がら年中羽織った白のコート。そして深い青のマフラー。全身の基本カラーは概ね青に統一されているのだが、その清涼感はまったく生かされていない。その服装が似合うのはせめて秋ぐらいであるが、コートが薄すぎる故に秋でも辛い。しかし、冬はまだいい。この上にいくらでも羽織れるから。
    だが、夏は?
    風通りの悪い服装。首元さえ暖かく。汗は吹き出て、篭った熱気でさらに不快指数は増す。考えただけでも、団扇が欲しくなってきた。
    「ねえ、風通しの良いコートを作ってよ、レンくん」
    「それ、なんの意味があるんすか」
    顔さえ向けずに、鏡音レンは言った。目の前にあるデスクトップ型のパソコンで、メールをチェックしている。セーラー服に短パン、金髪ではなく、黄色の髪を後ろで纏めた少年。年は14と、まだ働くには幼すぎるが、もうここでは立派な社員の一人だった
    カイト平和創生室。
    カイトを所長とする、社員を含めても三人だけの小さな会社だ。平和創生と、なにをしているのかわからない名前の会社であるが、要は来た依頼をこなす『なんでも屋』である。ここでなにかを作ったりすることはないため、オフィスは小さく、三人分の机だけでほぼ満杯。依頼者と話しをするスペースさえほとんど取れていない。
    「だって、暑いんだよ、これ。風をほとんど通さないし」
    「コートとしては最高っすね」
    「汗だって吸わない」
    「それはコートの仕事じゃない」
    「夏に来てたら指さされるし」
    「……今日も仕事の依頼はなし、か」
    「このマフラーも、冷気を放出してくれたら大ヒットすると思うんだけどな」
    「掃除は昨日したからすることなし。俺、帰っていいすか?」
    だめー、と机に突っ伏しながらカイトが言う。
    「そしたらメイコと二人っきりになるじゃん」
    「……それがなにか?」
    「どれだけ怒られると思ってるの」
    「あら、だったらちゃんとしてくれればいいのに」
    と。
    お盆に三人分のお茶を乗せたメイコがドアを開けて入ってくる。スラリとした体躯に茶髪のショート。カイトとは対照的に紅一色の露出の多い服。男性からの受けが良いからという理由でこんな服を着ているのだが、会社での評判はあまりよくない。レンは年頃の男性だし、カイトはそもそもメイコに興味を持っていない。そんな状態でうろうろされても、目のやり場に困るだけである。
    「別に怒りたくて怒ってるわけじゃありません。もっと所長がキリリと、どこかの貴族のようにしてくれればそれでOKです」
    「僕、貴族なんてあったことないもん……」
    「なら、漫画でも読んで勉強してください。資料はそこら中にありますよ。それに女性の接し方も学べて一石二鳥です」
    メイコが参考資料にと口に出す名前は、すべて少女漫画だった。
    「……俺、カイトがそんなん読んでたら引くわー」
    「あら、レンくんにも貸してあげましょうか? 今時、男性も少女漫画を読む時代よ」
    「……結構っす。俺はまだ熱血物で満足しています」
    メイコからお茶をどうも、と受け取る。前屈みになったおかげで胸の谷間が直に飛び込んでくる形になり、慌てて視線を逸らした。
    「で、社長。今日の予定は?」
    「レンくん、予定は?」
    「いつも通り、特になし」
    「だってさ、メイコ」
    「特になしが『いつも通り』なんて、これもみんな社長が怠け者のせいなのかしら」
    「え? なんでそうなるの? というかレンくんはなんで帰り支度を始めているの? まだ就業時間内だよ、というか、まだ業務を開始してから一時間と立ってないよ?」
    「俺もそろそろ転職考えよっかな……。メイコさん、帰り本屋寄っていきません?」
    「転職もなにもキミの年齢で他に雇ってくれるとこなんてないよ、というか、今さらっとメイコまで帰そうとしたよね?」
    「あー……ごめん。このあとバイトがあるから駄目だわ」
    「すいません……規則でバイトは禁止なんです、メイコさん」
    「読んだので良かったら私の貸してあげる」
    「しかも転職まで考えてた!?」
    社員が一人もいなくなる前にと二人の首根っこを掴むカイト。コンコン、と控えめなノックが聞こえてきたのは、そのときだった。
    「あの……」とドアが開く。「すいません」と、声を出す。
    「カイト平和創生室は、ここでしょうか?」
    ライトブルーの髪をツインテールにした少女が、そこに立っていた。



    2

    「初めまして、所長の、カイトです」
    応接室と、一応名前だけはついた、実際はガラステーブルと椅子しかない部屋に少女を座らせる。
    少女はなにかに怯えるようにびくびくしながらカイトを見上げた。
    薄汚れた少女だった。
    服だけはまとものようだったが、干してあるのをかっぱらってきたか、売り物を盗んできたのだろう。少女に似合わない格好をしている。それ以外は、露出した肌や髪は汚れ、少しばかり異臭を発している。大方、ここに来る前に公園の水道で拭いてきたのだろう。泥だけは取れているようだが、それ以外の汚れは落ちきっていなかった。
    「それで、ご用件は?」
    応接室とは名ばかり。事務所と遮る敷居板なんてものはないので、ここまでの会話は全て社員に丸聞こえだ。それでも聞こえないふりをするのが暗黙のルールになっているのだが、レンは同い年くらいの女性がどうも気になるようで、ちらちらこちらを盗み見ている。まだ少女が気付いていないのが幸いだが、もし気づかれたら一気に不信感を増すことになるだろう。
    メイコがお茶を持ってきてくれ、一回会話が止まる。少女はお茶を少しすすり、顔を上げた。
    「ここに行け、と言われました」
    「誰に?」
    少女はそれに答えず、変わりに、別の言葉を継いだ。

    「『二つ目の宇宙の在り処を、私は知っている』」

    『合言葉』。その少女が、初音ミクが覚えている記憶の中でも、最も強烈に残っている場面。それを言えば、助けてくれると、あの男性は言った。
    その効果は覿面だった。
    カイトは一瞬だけ動きを止めると「なるほど」と言った。そして、柔らかく笑う。
    「キミはそっち側の人間か」
    そっち側、の意味がわからず、ミクは首を縦にも横にも降らない。
    「キミがどうやってそこ言葉を知ったのかは訊かない。まあ、大方予想はついているんだけどね。キミみたいな」
    「ミクです」
    カイトの言葉を遮るように、ミクは言う。カイトは「失礼」と詫びを入れた。
    「ミクみたいな女の子にその言葉を教えるような奴を、ぼくは一人しか知らない」
    人差し指を立て、口の前に持っていく。まるではぐらかしているような仕草だが、なんとなく、ミクは本当に誰だかわかっているのだと思っていた。
    「その言葉はね、とある奴の口癖なんだよ。そんで、僕たちの事務所の『鍵』だ」
    「鍵」
    「裏の世界へようこそ、お嬢ちゃん」




    ーー無頼 その1ーー

    掌編小説。
    『無頼 その2』に続きます。

    ライセンス:

    投稿日時:2016/09/15 21:07:43

    閲覧数:43

    カテゴリ:小説[編集]

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