「まずは…あのお方の哀しみから与えてやるよ」
ボクに跨る彼女はボクの両肩に手を置き目を閉じた。「……覚悟して受け止めろ」
ボクの耳元で彼女が小さく囁くと、急にボクは水の中に入ったかのような錯覚に陥った。
「……!?い、息が出来ない…」
必死でボクはもがくが彼女は更にボクに対して力を込める。
「……ゴホッ………く、るしい……離…して」
切れ切れになりながら言葉を発するボクを彼女は完全に無視した。というよりは別の方向に意識が向いているようだ。
どんなに苦しくても諦める訳にはいかない。衝動の暴騎士が力を出し切れば、ボクが理性の力を放出し必ず勝てる。そうすれば、彼女の傷ついた身体を治療し、心を修復することが出来る。
そう考え壊れた水晶があった場所を見ると、粉々の欠片が光を少しずつ発しながらひとかけらずつ1つの塊になっていっていた。
…暴騎士に刻まれた感情がボクと暴騎士を通して水晶に戻ってるのか!?
ボクは推測を確信に変えるため、ある要求を暴騎士に伝えた。
「そんなもんじゃないだろう。壊れた人形と化した守護者の苦しみは」
「あぁ……まだ耐えられるようなら更に強めて出し切ってやるよ!!!!!!」
突如、身体を襲う苦しみに必死で耐えながらボクは水晶に目をやった。
水晶の欠片達がより強く光りながら重なっていき、黒からほんの僅かだが藍色へと変化し、ボクの推測は確信へと変わった。
「はぁ……はぁ………」
喘ぎながらも、ボクは自分がやるべき事を理解した。
暴騎士が放出する感情の攻撃をまともに受け、耐え続ける。
そうすれば怒りと哀しみの分の欠片達は元の形に戻る。
やるしかない……!
ボクの考察を待っていたかのようなタイミングで暴騎士は話し始めた。
「お前の得意分野の考え事は済んだのか?」
「あぁ…。間違いない計算で君をいや…守護者を救う方法を編み出した」
「…お前のその方法。試してやる」
そう言って暴騎士は怒りの感情も交ぜながら、ボクへの更なる猛攻を仕掛けた。
「………………はぅ…こほっ……」
水晶はあと少しで元の半分の大きさまで修復出来る。
だけど……ボクの身体はもたない所までダメージを負ってしまった。
「これで最後だ……」
暴騎士がボクの胸元に両手を当て呟くと、怒りの感情の波動が完全にボクの身体を貫い―――
―――
“…さぁ……どうかな。言葉という鋭利な刃物と激しい暴挙は?”
「…………あ……ぅ」
ボクはどうやら彼女の記憶の中に意識が飛んだようだ。姿無き者に容赦なくいたぶられる守護者(guardian)はただただ必死で水晶を抱き守っていた。
「誰だ……。いったい誰なんだこんな仕打ちをしたのは…?答えろ!!!!!!!!!!」
そこに現れたのは暴騎士。いつにない剣幕で激しい怒りの色が見える。だがそれ以上に守護者の身体への心配が勝ったからか、彼女は守護者の元へと駆け寄った。
「しっかりしてください!!守護者様!!!!!」
「ナイト……っ……逃げなさ」
「嫌ですっ!!!!!傷ついた貴女を置いて逃げたくないです!!!!」
「…感情の塊を持って逃げ…なさい……これは命令。ナイトなら出来る」
守護者は暴騎士に水晶を手渡そうとした。すると暴騎士は静かにその手を両手で包んだ。
「わかりました。私は貴女に忠誠を尽くす者……命令は遵守します。但し…」
「但し…………?」
守護者の問いに柔らかな笑顔で暴騎士は答えた。
「傷を負った貴女も守ります」
「ぇ………」
そう言うと暴騎士は守護者を抱きかかえ走り出した。
どこへ向かうのかボクにはすぐに解った。何故ならその道は守護者の部屋からボクの診療所に続く一本道だったからだ。
まさか最初から暴騎士はボクに治療を頼むつもりだったのか…?
ボクが推論をたてはじめると、何処からか声がした。
“俺からは逃げられない。邪魔をするならオマエもソイツと同じ様に弄ぶだけだ”
その声はさっきよりも複数の声の広がりになっている。
「くっ………あいつの診療所まであと僅かです。走れますか守護者様…?」
「何を言ってるのナイト…?」
「ここでアタシが足止めします」
満面の笑みの中の眼には覚悟という強い気持ちが溢れていた。
「さぁ……アタシが相手だ」
守護者をそっと地に立たせると、レイピアを構え勇ましく守護者を庇うように立ちはだかった。
“ソイツは防御力が大分高くてもあの様だ。貴様なんかが適う訳ないだ”
「お前に守護者様を貶す権利など一ミリもない…。それに誰が勝つなんて言った?」
「ナイト………!?」
「アタシは守護者様を守ると言ったんだ。アタシはimpulsive knight。それ以外の何者でもない」
―――止めろ!!!!!!!暴騎士!!!!!相手はイジメという姿無き敵なんだぞ!!!!!?死ぬ気か!!!!?
ボクは必死で叫んだ。聞こえないとは解っていながら、それでもボクは叫び続けた。その直後だった。
見えない敵は暴騎士を激しく殴ったり蹴ったりし、動けない暴騎士の身体に更に刃を突き立て―
ボクの眼前には力尽き倒れた暴騎士がいた。
“なぁ……言ったとおりだろ?”
「…………ぐふっ……」
後ろに束ねた髪を掴み持ち上げられ、何の抵抗も出来ずただ怒りの眼を姿無き敵に向けていた。
「………あぁ……止めてっ!!!!!……はぁ…はぁ……お願い……」
「な…ぜ………まだ…ここに……?」
「私は…guardianよ。感情の塊を守るだけじゃなく…貴女の…守護者でもあるの…!!!」
「……………お願…いだから……逃げて…くだ」
“オマエ達のくだらないやり取りには飽きた。ソレを壊そう”
「……くそぅ………やめろぉお!!!!!!」
「いやぁあぁぁぁ!!!!!!!!!!」
―――
「…………失敗に終わったか」
記憶はそこで途切れていたためボクの意識は再び自分の身体に。ボクの耳に微かに聞こえる哀しげな声。何とかして彼女を引き留めなくては。
動け…動けボクの身体……!!!!!
「…………いや…終わってないな」
去ろうとした彼女の手首を持ち、ボクは自分の体上に引き寄せた。
「…理性の波動………耐えてね……2人とも」
ボクは涙を溜めた眼を瞑り、力の限り2人分の波動を放った。
「……………くふっ…」
「……………はぅっ…」
狭くなっていた部屋に気付かなかったというよりは気付かせなかったのだが…天井に身体を激突させた彼女はそのまま分裂しボクの身体の上に再び落ちてきた。
「もう……安心して。今からボクが治療を施すからね」
「あ…り…が…とう……」
「後は…まか…せたよ……ハートリペアマン……」
2人の少女は目を瞑り、ボクはゆっくりと2人の少女を優しく撫でた。
―ボクはheart repairman
キミの心の傷を癒してあげるよ♪
ボクは2人が受けた傷に歌という薬を塗る。
―ボクはhurt repairman
キミの心の痛みを受け止めるよ♪
ボクは2人の痛む場所を優しくさすり、包帯を巻く。
全ての処置が終わり、ボクは泣きながら2人を抱きしめた。
「ごめんね2人とも…」
ボクは2人に喜びと楽しさの感情の注射を打ち、自らも眠りについた。
神は全ての人間に、理性、衝動そして感情を与える。そう誰の中にもボク達のような3人の化身がいるんだ。一人一人、ボクらの強さのバランスが違うから皆が皆こんな風になるとは限らない。それでも―
ボクはハートリペアマン…何度だって傷ついたキミを救ってあげるからね
ハートリペアマン[後編]
いかがだったでしょうか?
5月は何かと病む方(私を含め)が多いと思ったので、今回レン君が医者だったらいいなという妄想を推敲して小説を書きました。
ハートリペアマンのハートには心と痛みの両方の意をかけてました。その為あえてのカタカナ表記だったんです(笑)
…えっと過激なシーンはカットしました。(レン視点固定なら書かなくていいかと)
リンちゃん視点で書いたら単なるリョナ小説になりかねないなと。
(というか制限してもこうなりました!!!リンちゃんごめんなさい……orz)
注意。作者はリンちゃん大好きな人です。ですが私が書く小説の主人公の大半がこういう設定のため、リンちゃんを主人公とするとこうなりまs((
本当に毎回こんな扱いでごめんなさい((((゜゜;))))しばらくは円満な設定でいくから!!!!!!!←暇さえあれば真面目に明るい話は出来てますので推敲出来れば書きたいなと。梅雨時期にピッタリな作品です♪
そしてレンは白衣が似合うと本気で思います。(断言)
読んでくださった方々、ありがとうございました!!!°・(ノД`)・°・
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廻りながら感じて内宇宙...天体スコープ
Re:sui
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しんわ(慎環)
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文月様
こんにちは、しんわと申します。
こちらからの返信大変失礼致します。
現在、エラーで個人宛メッセージの返信が出来ない状態なんです。
先日はメッセージありがとうございました。
また、気づくのが遅れて返信が大変遅くなってしまい本当に申し訳ありません。
綺麗だなんて…すごく嬉しいです。
梅雨は他のイラストと少し雰囲気が違うので、そう言って頂けると救われます。
しかも小説まで書いてくださるなんて、感激です!
メッセージを頂いてからかなり時間が経ってしまいましたが、まだ投稿を考えていて頂けているなら、是非宜しくお願い致します。
それでは、長文失礼致します。
しんわ
2013/06/30 02:33:49