カイル・フロートの日記/前編

投稿日:2021/01/07 21:43:47 | 文字数:4,493文字 | 閲覧数:210 | カテゴリ:小説

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コラボで掲載している、「ブラックペッパーナイト」からのエピソードです。

リンク貼っておきます。
「ブラックペッパーナイト/短編
https://piapro.jp/t/IfEa

当短編後編はこちらのリンク
「カイル・フロートの日記/後編」
https://piapro.jp/t/Kbcy

シリーズ物の気配がするので、一応「コラボテーマ作品」のタグは貼ります。

出演は、KAITO、ミクオ、メイコ。

この物語はフィクションです。

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TEXT
 

 2月17日。
 ああ、俺の誕生日が終わってしまった。って言って、仮宿が嘆いていた。今日も、普通に解体の仕事をして、一日が過ぎた。
 解体をする動物は、血抜きをして洗ってあるから、スプラッタにはならない。その代わり、内臓の色んな部分がつぶさに見える。
「ホラー映画が怖くなくなって何年かなー」なんて、仕事用の防水エプロンをはずしながらブツブツ独り言を言っている。俺にしっかり聞かれてることも知らないで。
 仮宿は、ニンゲンの男には珍しく、甘いものが好きだ。その代わり、酒を飲まない。
 冷蔵庫から、買っておいたチーズケーキを1ホール取り出して、20本以上の蝋燭を無理矢理突き刺し、全部の蝋燭に火を点け、溜め息で吹き消していた。
「今年もセルフバースデーかー」とか言って、首をごきごき鳴らしている。脱力しても、体をぐんにゃりできるほど、関節が柔らかくないんだ。
 こいつは、毎年誕生日になる度に、「今年こそは嫁さんをもらう」って言ってたけど、今年は言わなかった。諦めたんだろうか。

 3月4日。
 今日は豚肉を捌く日だった。いつも思うんだが、なんであいつ等は尻と太ももがやたらと大きくなるんだろう。いかにも、「ここが一番美味しい所ですよ」と主張するように。
 この豚と言う生き物がいた「元の世界」には、この生き物の祖先で、猪と言う奴が居たらしい。
 そいつらは、頬から突き出した牙があって、気性が荒く、敵を見ると突撃してきて、牙で敵に傷を負わせるのだそうだ。
 昔の言葉で、猪突猛進って言うのがある。猪が突撃してくる様子のように、がむしゃらに突っ走る…とか言う意味らしい。
 猪がそれだけ勇猛なのに、その子孫である豚は…特に、何も攻撃性はない。
 仕入れの時に、時々養豚場と言う所を観に行くけど、豚達は何も疑う様子もなく、毎日飯を食って肥えている。
 猪の頃から受け継いでいる習慣と言うと、水たまりに転げ回って体を洗って、寄生虫を追い払うと言うものがあるそうだ。
 だけど、小屋の中に隔離されている豚達は、清潔な水たまりを得られない。
 そこで、豚達は自分達が排泄した水分の中で転げまわって、寄生虫を追い払う。細かく考えたくないが、あいつ等の小屋がいつもアンモニアくさい理由は分かった。

 4月26日。
 そろそろ、今年の出し物を考えよう。祭の半年前になると、俺は毎回そう思う。でも、結局できることとなると…今年も、腐肉を空からばらまくくらいかなーって、成る。
 何故なら、仮宿に「自然に祭の準備をさせるために」できることとなると、いくら意識に感化しても、解体を面倒くさがらせて、肉を放っておくくらいしかできない。
 仕事が肉の解体なのに、折角仕入れた肉を常温で放置して腐らせる、と言うものすごく金銭的にも精神的にも「きつい状態」を乗り越えらせなければならない。
 だけど、それしかネタが無いんだ。ミカのことをペッパー野郎なんて言ってからかってるけど、俺もそのうち「解体屋」どころか、「腐肉野郎」って呼ばれてしまうかも知れない。
 こまごまと丁寧に切り刻んだ腐肉をぶちまけた時の達成感はとてもあるし、ニンゲンにとっても「ちょっとした迷惑」にしかならないので、罪状も軽い。
 1日地下でボケーっとしてから、すぐ地上に戻れる。
 そして仮宿に戻ると、大体、仮宿は「妙な虚しさ」に襲われて、肉解体しながら半べそかいてる。
 どうやら、俺が意識の底に共存している状態が、当たり前になっているようだ。あんまり依存されるのも、そんなの良い気分はしないが、まぁ良いか。この仮宿、面白い奴だし。

 5月12日。
 ペッパー野郎こと、ミカが遊びに来た。耳と尻尾のある煙のような姿のまま、仮宿に憑依もせずに。
「お前、疲れないの?」って聞いたら、「俺にはこっちのほうが普通なんだ」って余裕かましてた。
 たぶん、仮宿に憑依すると頭に猫みたいな耳が出っ張ってくるから、それが恥ずかしいんだろうって事は分かる。
 あいつも、憑依ってものを覚えてから、散々、同族の女の子に「ケモ耳可愛い」って言われて落ち込んでたもんな。
 だから、仮宿に憑依するときも、頭はシルクハットで隠してる。
 ミカは、耳に関することに触れなければそこそこ良い奴なんだが、耳に「触って」来ようとするやつは、男でも女でもぶったたく、結構野蛮な面もある。
 外見も「可愛い」から、そのくらい反発しないと分かってもらえないんだと言ってみたら、それはそれで憐れな奴なんだけど。
 俺は常に仮宿の意識の底に住んでいるんだが、こうして日記書いたり、遊びに来た知り合いと自由に喋ったりするくらいはできる。
 喋ってるのは仕事をしてる間だ。ミカと喋ってた間、俺の借りてる体は、「無言で仕事をしているつもり」になっていた。
 それから、この仮宿は眠る前に読書をする習慣がある。毎日、本を読んでる間に寝落ちする。
 その後、俺が体を操って、日記を書く。
 そのことをミカに説明したら、「お前の憑依先が平和だって事がつくづくわかるぜ」とか言ってた。
 あいつ、ちょっとべらんめぇ口調が入ってるんだよ。荒っぽい言葉だからあんまり使うな、ちゃんと公用語話せって、いつも言ってるんだけど、そう言うと面白がってもっとひどい訛りを使う。
「うるせぇな。俺にゃ、こっちのほうが喋りやすいんでぇ」とか言って。
 悪ガキには、お説教は逆効果らしい。

 6月18日。
 今日は雨のち晴れだ。綺麗な虹が出てた。牛鍋屋って言う店に頼まれて、丸ごと1匹の牛の解体を行なった。虹が出るような日に解体される牛も、きっと…極楽浄土って言う所に行けただろう。
 牛の肉は、新鮮なうちに店に運ばれて行って、「すきゃき」と「もつぁなべ」と「しゃぼしゃぼ」と「焼き肉」言うものになった。
「焼き肉」は俺も知ってる。肉を焼いてタレをつけて食うだけだ。その他のはちょっと珍しかったので、記録しておこう。
「すきゃき」は、浅い鍋に味付けをした汁を用意して、薄切りの肉と野菜と「トーフ」と…なんだか分からないが、色んな物を混ぜて煮込んで食べる料理だそうだ。
「もつぁなべ」は、俺も試してみたことがある。仮宿が眠り込んでから、こっそり取っておいた内臓を切って洗いなおして、とりあえず水と酒で煮込んでみた。
 味付けが分からなかったから、市販のタレで食べてみた。その結果、味はみんな一緒だった。
 でも、内臓の肉ってものは、口の中でぐにゃぐにゃしたりコリコリしたりボソボソしたりする。食べてみた食感を楽しむ料理なのかもな。
「しゃぼしゃぼ」は、やっぱり肉を薄く切ったものを、沸騰したお湯に「しゃぼしゃぼ」とくぐして、「ゴマダレ」を付けて食べる。
 料理の名前って言うのはあんまり興味が無いから、ちょっと間違えて覚えているかもしれない。でも、「しゃぼしゃぼ」は、あってると思う。
「お湯につける音から来た名前」だってことは覚えてたから。

 6月30日。
 メギコルって言う女の知り合いがいる。そいつも俺達と同じ「魔物」なんだけど、メギコルはどうやら、俺の仮宿を気に入っているらしい。
「そのニンゲンがあんたの実際の形なんだったらよかったんだけどな」って、遊びに来てはがっかりしている。だったら来なきゃ良いのに。
 そもそも、「魔物」の割に、ニンゲンの形が好き…なんとも変わった女だ。
 俺達のほとんどは、種族として特有の形を持たない。個別で、少しずつ「親」の記憶と特徴を受け継いでいるが、それがニンゲンのように「遺伝」するものであるかどうかは、今のところ不明だ。
 元々この世界に居た俺達の「親」と、新しくこの世界に来たもう一方の「親」の間に接触があった時、俺達二世が分裂したんだが、二世達はまだ分裂を経験していない。
 自分達の「親」と、自分達以外の存在を知らないからだ。その多くが、特に誰かと「接触」して、あえて分裂体を作ろうとしていない。
 歴史の中では、分裂体を作ると言うことに好奇心を持った者達が、煙の姿のまま接触してみたことがあったが、何も起こらなかったそうだ。
 考えてみれば、俺達の「親」の世代だと、「握手をしたら子供が生まれる」状態だった。それだけ、この星に居た俺達の「親」は強い力を持っていたんだ。
 他の星から来たほうの「親」は、ニンゲン風に言うと強い遺伝情報を持ってた。それが、俺達の個別の特徴になってる。
 俺は体毛が青くなるって言う「誤情報」を受け継いだ。本当は、灰色くらいになる「遺伝」だったのだが、「親」同士の相性が悪かったのか良かったのか、そう言う変な情報を受け継いだ。
 だから、俺が憑りついている間は、この仮宿は青い髪をしている。
 他の星から来た者達の中に、青い髪をしている者はいない。だが、元々この世界に居た者達は、赤やピンクや緑や紫や…色んな髪色をしているので、俺の仮宿も、そんなに怪しんでいない。
 俺が居る時は、「いつの間にか髪が青く染まってる」と思っていて、俺が居なくなると黒髪になるので、「あれ? 髪色が落ちてきたのかな?」とか言ってる。
 自分で無意識に髪を染めていると思っているのだ。仮宿がここまですっとぼけた奴だと、俺としては安心なんだが、逆に俺が居ないとこいつは普通に生きて行けるのか不安になる。
 メギコルは、肉の解体をしている俺の仮宿の、頭やほっぺったや肩や背中をひとしきり撫でて、「なーんにも起こんない」って文句言って帰って行った。
 このやり取りは何十回目だろう。毎回「確かめてみなくても」良いだろうに。

 7月25日。
 今日は肉の解体は休みだ。他のニンゲンと違って、この仮宿は「毎週休む」と言う習慣が無い。仕事があればとにかく働くし、仕事が来なければ休む。
 暢気な仕事だと思われるかもしれないが、どちらかと言えば「過酷な労働条件」ではある。1ヶ月ぶっつつげで肉を切り刻んでた時もあったしな。
 そんなときは、この仮宿も少し「ノイローゼ気味」になる。
 成人した男なんだが、独り身であるが故か、それとも元々、ちょっと女々しい奴なのか、起きた瞬間から泣いてる時がある。
 しかも、「男泣き」ってやつではなく、もう、幼児のようにボロボロと。そして、夢に出てきた牛や豚達に、必死に謝る。
 そう言う時は、俺もちょっとなだめる。
「良いか? 蕪だって、元は生きてるだろ? 日光を浴びて、光合成をして、夜には呼吸もする。そんな奴も、太って食べごろになったら、土から引っこ抜かれ、丸ごと食われる。
お前は、蕪に謝るか? 謝らないだろ? お前の所に連れて来られる牛や豚は、もう死んでる。汚れ仕事は、他の奴がやってくれてる。お前は、食べ物にされた肉を綺麗に整えて、供養する仕事をしてるんだ」って。
 そう言う風に、意識の底で囁いてやると、そいつはようやく泣き止んで、「顔洗おう…」って言って、洗面所に行く。
 本当に、手のかかる奴だ。面白いけど。

主に作詞作曲を行なっています。
曲調はパンクロック?
動画をたくさん作ろうと言う活動を始めたうえで、
みなさんの美麗なイラストを借りれたら良いな…。
と思ってのこのこと参りました。
使用ボカロは、初音ミク、鏡音リンレン、GUMI、IA、Mew。

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