【中世風小説】Papillon 5

投稿日:2010/01/28 15:23:08 | 文字数:2,660文字 | 閲覧数:230 | カテゴリ:小説

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思ったよりも展開はやい。

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「リン! リン!」

 身体を強くゆすられて、初めて誰かがそこにいることを知る。焦点の合わない瞳で、翠を見つけた。

「ミク、姉……?」

 周りを見回す。誰かが床に倒れていた。そのすぐそばに、カイトが立っている。カイトが誰かを倒したらしい。
 でも、何故。分からない。あたし、何してたんだっけ。

「よかった、無事で」

 泣きそうなほど安心した顔で、ミク姉は微笑む。そして、あたしの腕の中にある「何か」に、手を伸ばす。

「リン、お願い、放して。運ぶから」

 カイトに優しく言われて、あたしは腕の中を見た。絶対に渡すもんかと、強く強く抱きしめていたもの。冷たい、弟の身体。

「あ……」

 視界がゆがむ。ミク姉が、優しく微笑んで、あたしの頬を撫でてくれる。

「まだ死んでないわ。だから、放して」

 そんなこと言われたって、手がはずれないよ。今放してしまったら、二度と戻ってこないかもしれないのに。放せるわけ、ないじゃない。

 困った顔をしたミク姉の隣、カイトは、ごめんと呟いて、あたしの手から、無理やりレンを引き離した。
 ずっとあたしを抱きしめてくれていたレンの腕が、力なく床に落ちる。

「ひどいな……」

 カイトは顔をゆがめ、ミク姉に何かを言って、レンを抱えてどこかへ行ってしまう。一人きり、レンを追うことも出来ずに、取り残されたあたし。
 廊下から、騒がしい声が聞こえてくる。きっと、ずっと前からそうだったのに、今まで気付かなかった。

「リン、とりあえず、この部屋から出よう?」

 指先すら動かないあたしを見て、ミク姉は優しく抱き起こしてくれる。
 優しくて、温かい。でも、あたしが本当に欲しい温もりじゃない。大切だけど、一番じゃない。
 でも、一番ってなんだろう。どうやったら、大切に出来たんだろう。失いたくないのに、守りたいのに、守りたかったのに、あたし。

「あたし……あたしのせいで……」

 涙がこみあげてきて、止まらない。ミク姉の腕の中で、あたしは声をあげて泣いた。

「リンのせいじゃないわ」

「違うの、あたしが、あたしが……っ!」

 あんな奴らに、簡単に捕まって。
 それ以前に、第一王子と母親が同じだっていうこと、双子だっていうこと、それがどういうことなのか、考えもしなかった。愚かな自分。

「ねぇ、どうしたら守れるの。どうしたら失わないでいられるの。もう分かんない。分かんないよ」

 泣きじゃくりながら、駄々をこねる子どものように、ミク姉の優しさに甘えて。そんな自分が、嫌になる。
 あたしがいなかったら、レンはあの部屋に来ることもなくて、あんな怪我することもなくて。あれは、謝ったら許してもらえるような傷じゃない。謝る機会すら、あるかどうか。それほど深い傷だと分かっていながら、レンを追うことも出来なかった。
 あたしが刺されればよかったのに。これが全部、あたしの血だったらよかったのに。

「ねぇ、リン」

 優しく、でもしっかりとした芯のある声で、ミク姉は言う。あたしの顔をしっかりと両手ではさみ、目をまっすぐに見て。

「話していなかったけれどね。私は、生まれたときから、婚約者がいたの」

 何の話なのか、分からない。混乱する。多分、最初から、混乱していた。

「私よりも、ちょっと年上の人。隣の城の、次の城主になることが決まっている人。私は、その人のところに嫁ぐんだって、信じていた。馬鹿みたいに、疑わなかった。本当に……馬鹿だった」

 ミク姉は、ほんの少し目を伏せて、でも意を決したように、またあたしの目を見る。

「その人が……カイトなの」

 あたしは驚いて目を見開く。でも、不思議なほどに納得できた。二人の間に流れていた空気。あれは、愛と呼んで良いものだったと思う。恋かどうかは分からないけれど。

「私がここにいるだけで、カイトとメイコの邪魔になってるし、私なんていない方がいいんだと思ったこともあったけど……それで、何が変わるんだろう?」

 ミク姉の瞳は、見たこともないほど強くて。あたしには、眩しすぎた。

「分からないよ。誰にも、どうすれば誰も傷つけずに生きられるかなんて。悩むしかないよ」

 悩む勇気すら、あたしにはない。今すぐに逃げ出したくて仕方ない。瞼を閉じても蘇る、紅い光景。もう耐えられない。でも、ミク姉の強い視線が、それすら許してくれない。

「私はあの人には逆らえなくて、私はここにいるしかなくて。正式に結婚したわけではないけれど、もう私は綺麗じゃないから、他の誰かと結婚することもできなくて」

 呟くような、ミク姉の声。
 貴族の妻となる者は生娘であるべき。あたしだって知っている。相手が城主となるべき人で、二人の間に後継ぎとなる子どもを授かろうとするのなら、生娘でないなんて許されない。

「結婚がすべてだとは思わないけれど、でも私は、絶対にカイトと結婚するんだと思って生きてきたから、急に違う人生なんて歩めない。好きとか嫌いとか、そういう問題でもなくて。決められてた筋書きがなくなっちゃったから、途方に暮れてる。一年経っても、全然前に進めてないの」

 レンも、そうなのだろうか。三年経っても。国王になると定められて生まれて来たのに、そうではなくなった。きっと焦っているんだと、あたしも分かっていた。

「正しいことなんて、分からないよ。神様は、駄目なことだけは定めてくれたのに。役立たずだね、何もかも」

 切なく笑うミク姉は、どこまでも綺麗だった。でも、こんなに綺麗でなければ、今ここにいることもなかったのだろう。その方が幸せだったのだろうか。
 分からない。他の「今」なんて、誰にも分からない。

 でも、知りたかった。どうすれば、失わずに済むのか。
 今ここにあるのが幸せなのかどうかすら分からない、三年前に終わってしまった日常が懐かしい、でも、それでも、もっと恐ろしい未来があるような気がして。

「どんな人生でもいいよ……ただ離れたくないんだよ……」

 絞り出した言葉は、きっと、ミク姉にも、他の人たちにも、失礼だったと思う。でも、すべての温もりを失ってしまっても、彼だけは。
 あたしは勝手で、ここにいることも許されないのかもしれない。でも、たとえここにいられなくなったとしても。

「……リンは、強いね」

 ミク姉の言葉の意味が、分からなかった。

「私は、運命に抵抗すらしなかったもの」

とりあえずいろんなことに手を出しまくってる鏡音廃です。巡音も買ったようです。

マイリス→http://www.nicovideo.jp/mylist/18736642

オリジナル曲の二次創作・派生作品等は、ボカロやPIAPROの規約の範囲内でご自由にどうぞー。

小説の更新が滞ってますが、プロットはちゃんと出来てますよ><

http://hozue.blog-fps.com/

http://sns.cv02.net/?m=pc&a=page_f_home&target_c_member_id=2229
http://v-nyappon.net/?m=pc&a=page_f_home&target_c_member_id=12234

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2010/2/17 追記
HNを秋穂(あきほ)から穂末(ほずえ)に変更しました!

2010/7/18 追記
ニコ公開三曲目となる「水鏡プリテンス」で、P名を頂いてしまいました(ありがとうございますっ)。

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一応、お仕事やコラボのことに関して書いておきますね。以下の文章は、状況によってコロコロ変わります。

現在、曲・絵の新規依頼は受け付けておりません。交流のある方(複数回のメッセージ交換が目安)からの依頼ならば検討しますのでご一報お願いします。
作詞ならば依頼を受け付けられますが、依頼理由はきちんとお書きください。

一つの作品を仕上げるまで根気強く手伝ってくださる(ここ重要)絵師さん、動画師さんは常に募集しています。
また、作品ごとにイラスト募集を(突発的・〆切あり)することがあります。

コラボはお互いに本気じゃないと自然消滅するだけですので、やるなら本気でやりましょう。一報したうえでの延期・降板は受け付けますので。

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