「ミク姉ー! ルカさん! ちょっとぉー!」
 私はミク姉とルカさんの相部屋に飛び込んだ。
 あ、決して百合とかじゃないです。ただ一緒の部屋なだけです。念のため。
 ミク姉は自分の胸の小ささをルカさんに語っていた。
「ほら、リンちゃんと同じくらいなんだよ!」
 ……何のためにこの部屋に来たかを一瞬忘れてしまった。
「で、リンちゃん、何かしら」
 優しくルカさんが手招きしてくれる。
 私は愛用のシテヤンヨぬいぐるみを抱え、ミク姉の椅子に座らせてもらってから、まくしたてた。
「レンとねっ」
「またレン君? 他にもいい人いっぱいいるのに。リント君なんてどう? あ、クオ君紹介しようか? お兄ちゃんはちょっと無理だもんねえ。じゃあGUMIYA君? ナス君?」
「他の野郎はどうでもいいのっ! レンとケンカしたんじゃないのっ!」
「へえ、珍しいわね」
 ミク姉とルカさんが興味深そうな目で見る。
「ケンカしたんじゃないなら、なんなの?」
「もし私がレンを恋愛感情として好きで、レンが恋愛感情として私を好きだったら、それは近親相姦になるの?」
「ぶっ」
 ミク姉が飲んでいたネギ茶を吐き出しそうになる。
 ルカさんが優しく微笑んだまま、ミク姉の背中をさする。
「あの……リンちゃん、その……乳繰り合う事はしたのかしら? 『裏表ラバーズ』とか、『え? あぁ、そう。』とかそこらへんの事」
「え? してないよ。キスは小さい時してたけど」
「そこまでしたら『近親相姦』になるのよ。まあでも、血縁者が恋仲になるっていうのはいけない事に入るのかもね」
 最近ルカさんはナ……じゃなくて神威さんの影響もあって、語彙が私以上に豊富だ。
「てか何リンちゃん! どんな事気にしてんの!」
「ネルに言われたんだもん。お前らキモいぞ、って」
「ネルちゃん意外と可愛いね。意外と乙女なんだ」
 くくくっとミク姉が忍び笑いをする。
 真剣に悩んでるのにそれはひどいだろ!
 ミク姉なんかに聞くんじゃなかった。
「ルカさん! やっぱりいけない事?」
「さあ……バグミちゃんにでも聞く?」
「バグミじゃないもん!」
 いきなりGUMIちゃんが部屋に飛び込んでくる。
 え、GUMIちゃん、家にいたの?
「バグミちゃん、ノックくらいしてほしかったわ」
 びっくりした……。
 そういや今日、インタネと晩御飯食べるって言ってたっけ。忘れてた。
「だからバグミじゃないの!」
「Lillyは?」
「んっと、ユキちゃんとなんか約束してるんだって」
「ナスとガチャポは?」
「バナナ頭とアイスと姐さんと遊んでるよ」
 偉い言われようだ。
「んで私に聞く事って何? 何? なぁに?」
「ああ、えっと」
「レン君とリンちゃんが両思いになったらいけない事なのか、って聞きたいらしいよ」
 するとGUMIちゃんは目を輝かせながらこう言った。
「リンちゃん! 腐ってなくて安心したよ! 良かった!」
 素直に喜べない。
 GUMIちゃんが私に抱き着いて、ほおずりをする。
 苦しい……。
「あのねリンちゃん、私ずぅーっとリンちゃんは腐ってるもんだと思ってた。ごめんね。そんな事なかったね。レン君との関係をしんっけんに悩んでたんだね。もう本当腐ってなくて感激っていうk(ry」
「黙れバグミ」
 シテヤンヨぬいぐるみをバグミちゃんに投げつける。
「ふごっ」
 奇声をあげながら見事にキャッチした。
 なぜ私が腐らないといけない!
 シテヤンヨをわきに置いてから、再度ほおずりをされる。
「で一応聞いてあげたんだから答えてほしいんだけど」
「えー、どうでもいいよそんなの。異性同士なんだからどうでもいいよ」
 どうでもいいって……。
 まだほおずりを続けてるGUMIちゃんを引き離して、正面からにらむ。もう一回聞き直した。
「で、答えて」
「だから、どうでもいいと思うよ」
「ねえGUMIちゃん!」
「あのねリンちゃん、GUMIちゃんは別にいいんじゃないかって言ってるの」
 GUMIちゃんの良き理解者・ミク姉からの通訳。
「そうだよ。もうリンちゃん鈍いなぁ~」
「いやバグミちゃんの言動を理解できる方がおかしいし狂ってるとおm(ry」
「さすがミクちゃん! 緑組なだけあるわ~」
 GUMIちゃんがミク姉の背中をバシバシ叩く。
 ちょっと苦しそうにミク姉が笑う。
「異性同士なんだから恋愛は自由なんじゃない、って言ってくれてるよ」
「GUMIちゃん! 大好きぃー! 最初っからそう言ってくれれば良かったのにぃー!」
 今度は私からGUMIちゃんに抱き着いた。
 さっきまでは憎かったGUMIちゃんが今は天使に見える。
「私もリンちゃん大好きぃー! 腐ってなくても大好きよぉー!」
 なんだその私が腐ってた方がいいみたいな言い方は。
「ロードローラーほど好きじゃないし、レンと比べたらそんなに好きじゃないけど、MEIKO姉並みに大好きぃー! KAITO兄よりすごく大好きぃー!」
「GUMIYA君ほど好きじゃないけど、Lillyちゃん並みに大好きぃー! お兄ちゃんやぽ丸よりすっごく大好きだよぉー!」
 とまあ変なやり取りをし、
「んでリンちゃんって、どんなレン君が好きなの?」
「私のところのレン。眼鏡はかけてもかけてなくてもどうでもいい」
 即答した。
 ショタレンも可愛いとは思うけど、私の家のレンを見て育ってきてそのレンを好きになったわけだから、恋愛対象にはできない。
 やっぱり私のところのレンが一番。
「そっか、腐ってないね。ここのレン君、ショタじゃないし」
「いやショタコンって腐ってるとは言わないんじゃないかしら」
 ルカさんの的確なツッコミ。
「へえ……。ルカちゃん最近お兄ちゃんとどう?」
「え……っと。最近彼、さらにナス臭くなったように感じるのだけれど」
「拙者がどうかしたかルカ殿」
 GUMIちゃん同様ノックなしに入ってくるナ……じゃなくて神威さん。
「いいえ何も」
「それより、夕飯の準備ができたとの事だ。さあ皆で食卓を囲もうではないか! 鍋らしいぞ! MEIKO殿、拙者がナスが好きだからとナスを入れてくれたのだ! さあ皆で鍋を囲もうぞ!」
 ナス入りの鍋。嫌だなあ。
 まあネギもたくさん入るし時々タコが入ってる時もあるから別にいいんだけどね。





「レン、入っていいよー」
 お風呂から上がって、部屋にいるレンに呼びかける。
 リュウト君はすぐに寝ちゃって、ナ……じゃなくて神威さんとGUMIちゃんはリュウト君を起こさないようにおぶって家に帰った。
「おう」
 操作していた携帯電話を短く返事をし、お風呂場に行くレン。
 何やってたんだろ?
 廊下に誰もいない事を確認してからドアをしっかり閉めて、レンの携帯を開く。気分は恋人の浮気チェックをする女の子だ。
 案の定、パスがかけてあった。
 ちぇ、なんだよ。なにいっちょまえにロックなんてかけてんだ、レンのくせに!
 とりあえず鏡音にまつわる数字を入れてみる。1227、0002、などなど。
 で、1125で開いた。なんか嬉しい。
 待ち受けは、日本語VOCALOID全員の絵だった。真ん中にミク姉がいて、その周りを私やレン、ルカさんなどが囲んでいる。
 VOCALOIDを知らない人が見たら、この携帯の持ち主はアニヲタなんだなって思うだろう。まあ私の携帯もこれと同じような待ち受けだけど。
 まずはメールの受信ボックスを開こう。
 でも、いいのかな?
 勝手に開いて、怒られたりしないかな? っていうか、そもそもこれ人としてダメな行為だよね。
 あーどうしよう。送信ボックスのほうがいいかな? いやそっちもダメだろうし……人の携帯のデータを見ること自体ダメだし。
 ……どうしようどうしようと悩んでいたら、三十分経ってた。
 ヤバい、そろそろレンが風呂から上がる!
 携帯をもともとあった場所に戻して、『悪ノ娘』の本を開いて読むふりをし始めたところでレンが戻ってきた。
 ふう、助かった。
「あれ?」
 メールが来てないかチェックしていたレンが不思議そうな声を上げる。
「ロックかけてたはずなんだけど……」
 ヤバい! 解除したままだった!
「リンいじった?」
「……あははっ」
 笑って誤魔化す。
「よく開いたな」
「……私と同じ番号だったから……」
 嘘だ。私は携帯にロックなんてかけてない。
「1125?」
「……いい双子。あはははは……」
「中身は見た?」
「……ええと」
 見てない、と小声でつぶやく。
「なんでロック解除したの?」
 顔を覗き込まれる。
 恥ずかしくて顔をそむけながら答えた。
「……誰に打ってたか気になって」
「ああ、えっと……そんなに知りたかった?」
 そんなに知りたかったわけじゃない。
 でも、どっちかっていうと知りたい。
「……びみょ」
「何だよそれ」
 笑いを言葉に含めながら話すレン。
「いいよ、見せる。見せてあげる」
「いいって、別に。そんなに見たいわけじゃなかったし」
「俺が見せたいから、見せる」
「さあ、跪きなさい!」
 私は立ち上がってレンの前に仁王立ちになった。
「……なんで悪ノ?」
「なんとなく。見てあげるんだから、頭くらい下げてほしいな」
「はいはい、見てください」
 ちゃんと頭を下げて渡してくれる。
「よかろう。面を上げよ」
「……何かムカつくな」
 私が変なことしてもレンは笑いながらノッてくれる。
 さっそく見てあげようではないか。
 ……でも。
「本当に良いの?」
「いいですよリリアンヌ王女」
「……本当に?」
「あーもうっ! さっさと見ろってば!」
「まさかエロ画像が出てくるなんてことは」
「ないってば!」
 手が震えてボタンが押せない。
 それでも何とか受信ボックスを開いた。
 最初に受信されていたのはGUMIちゃんのメール。
「メールの中身って見たらダメだよね……?」
「一番最近受信されたGUMIのならいいよ」
「やっぱり見たくない……」
「頭下げただろうが!」
「ああはいはい、見ます見ます……見るよ! いくよ! 神様ぁ、私を地獄に落とさないでおくれよ!」
 ぽち。

『送信元 GUMI
 件名 無題
 本文 お兄ちゃんがロードローラー予約したよ。これでいいのかリンちゃんに聞いといてね。んじゃ』

 絵文字も何もない実にシンプルな文。
 そして。
 私が欲しかったロードローラーの画像。
「え……ちょっと分かりやすく説明して」
「気が早いんだけど……まあ十二月で俺らの誕生日じゃん?」
 気が早すぎるだろ。今はまだ桜が咲くか咲かないかの時期だぞ。
「リン、このロードローラー欲しいって言ってたろ? で、先に誰かに取られる前に予約しておこうかってインタネが」
「うぉー、ありがとぉ! ナ……じゃなくて神威さんGUMIちゃんLillyちゃんリュウト君ありがとぉー! 感謝感激感涙!」
 このロードローラーカタログで見た時は高かったのに!
「レンが頼んでくれたの?」
「俺も欲しかったから」
「きゃーっ、レン大好きぃー! さすが私の弟!」
 本を投げ出して、レンに抱き着いた。
 大好き。大好きだよ、レン。
「俺も」
「「ロードローラーと同じくらい大好き!」」
 ハモった。
「あ、他にも見ていい?」
 私は他のメールも見ようとレンの携帯をもう一度操作した。
「あー、ちょっと他のは」
 そう言って携帯を取り上げられた。
「えー、なんでー?」
「いやちょっと個人情報がプライバシーが」
「何よ私たち双子じゃない! 知ってる? プライバシーがどうたらこうたら言い始めたら中二病なんだって! ねえいいじゃんか! 私のも見ていいから! ねーえー!」
 うろたえるレンの姿が可愛くて、思わず茶化してしまう。
「いやあの本当にそれは勘弁して」
「いいじゃんか♪」
 レンの手から携帯を奪い取る。
 すると新しく受信されたメールが。
 レンが取り上げた時に来たのかな。

『送信元 GUMI
 件名 無題
 本文 異性同士なんだからどうでもいいんじゃない? リンちゃんも同じ事気にしてたよ。今度ねるねるに会ったら叱っとくね』

 異性同士なんだから、どうでもいいんじゃない?
 リンちゃんも同じ事気にしてたよ。
 レン! あんたって奴はぁ!
「レン、大好きぃー!」
「いや俺もリンは大好きだけど……さっき来たの誰から? まさか」
「GUMIちゃん」
「ナヌィ! え、読んだの?」
「えへへ」
 今度は送信ボックスを開いて、一番最初に表示されていたGUMIちゃん宛のメールを見てみる。
「リン、やめろよ!」
「もうレン大好き! ロードローラーより好きかもしんない!」
 双子だっていいんだ。血がつながっててもいい。
 私はレンが好き。誰より、一番。
 私はレンが好きで、レンも私が好き。それでいい。
「あーっ! 見たな!」
 画面を覗き込んだレンがまた携帯を取り上げた。
 でもあれを見れただけでも十分。
「いやあ私って愛されてるねえ」
 小さい頃、何かの漫画で読んだことがある。愛し愛されきれいになるって。
 じゃあ私は今愛し愛されているわけだから、胸が大きくなるかもしれない!
「リン」
「ん?」
 振り返ると、レンが私を抱きしめてキスした。
 十何年ぶりかのキス。
「大好き」
「知ってる。っていうか、今さっき知った」
 二人そろってGUMIちゃんに相談してた。なんか笑える。





 その夜、私とレンはいつも以上にくっついて寝た。
 レンの体温が、心地よかった。
 誕生日に届くだろうロードローラーをレンと一緒に乗り回すのが楽しみだ。




『From GUMI
 件名 相談
 本文 もし俺がリンを恋愛感情として好きで、リンが俺を恋愛感情として好きだったら、それはいけない事になる?』


*後日談 GUMIさん*
「えー本当にどうでもいいんだよねそういうの。同性愛とかのほうがよっぽど辛いと思うし。リンちゃんが腐ってなくてホッとしt(ry」
「黙れバグミ」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

リンちゃんが手違いでGUMIちゃんに相談しました

えっと、こういうの思いついて衝動的にバーッて書いちゃったから読みづらいと思いますけど…勘弁してください。

閲覧数:14,855

投稿日:2011/04/05 11:04:53

文字数:5,788文字

カテゴリ:小説

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