ルカさんが来てから、何となくだけどミクの態度が変わった気がする。あいつ、思っていたよりいい奴なのかもしれないな。
それにルカさんだって、料理はアレだけど決して悪い人じゃない。うん、悪い人じゃないけど……ちょっとずれてるんだよな。
ミクの格好も派手だと思ったけど、ルカさんはヒラヒラのゴスロリファッションに身を包んでいる。
どこのヴィジュアル系バンドのファンかと思うよ。
それにミク達はいつまでこの家にいるつもりなんだろう。父さんも母さんもすっかりミクのペースだし、だいたい元々二人ともお人好しだしなぁ。
とか何とか僕が考えあぐねていると、いつもの声が聞こえた。
「おい、ネギ」
「何だよ……」
僕の部屋にミクが勝手に入ってくるのは日常茶飯事だ。
元々部屋に鍵なんてかけてないし、見られて困るもんも無いし別に問題もないけどね。
ミクは真剣な顔でいきなり言った。
「姉上を呼びたいんだ」
「姉上?」
そういえばもう一人お姉さんがいるんだっけ。
「そのお姉さんはどんな人だ? っていうか修行の旅に出てるって言ってたよな? 今どこにいるんだ?」
「うむ。それが私にもわからない。だが何とか呼び寄せる方法はある。力を貸してくれないか」
「僕に出来る事なんてあるのか?」
「おおありだ!」
「……仕方ないな」
いつになく真剣な表情のミクが気になって僕は力を貸す事にした。でも、どうやって捜すつもりなんだろう?
ミクに連れられ、僕はミクとリンちゃんが使ってる部屋に入った。
「……うわ、なんだこりゃ!?」
「魔方陣だ。存在くらいは知っているだろう?」
「あ、ああ……本物は初めて見た。ってか部屋の中に魔方陣て」
床に描かれた魔方陣にあっけに取られていると、リンちゃんが僕の元にやってきた。
「お兄ちゃんごめんなさい。勝手なことして……後でちゃんと元通りにしておきますね」
「あ、ううん。別にいいんだ。ちょっと驚いただけだし。そっか、魔法使いなんだもんな……」
その時ドアが開いた。レン君だ。
「姉貴! 例のブツ調達してきたぜ。ったく人使いが荒いよなぁ」
「おお、レン。ご苦労だったな」
レン君が何やらカゴを抱えている。
「レン君、それは何だい?」
「ああ、人捜しの魔法のために使う、まあいわば魔法の材料だな」
「へー、中には何が入ってるんだい?」
「中見るか?」
「え、いいのかい?」
レン君からカゴを渡されると、何だか一瞬動いた気がしたけど気にせずそのまま蓋を開けてみた。
「ぎゃぁぁぁぁ!?」
僕は慌てて蓋を閉じた。な、な、な、何だ今の!?
「ははは。あんた臆病なんだなぁ」
レン君がいたずらっぽい顔で笑ってる。こ、こいつ……!!
「何だよこれ!? すごい不気味な生き物がいるんだけど!!」
「ああ、岩コウモリと百目モグラだよ。可愛いじゃん」
「か、可愛いもんか! あーびっくりした……」
本気で怯える僕にリンちゃんが苦笑いを向ける。
「お兄ちゃん、驚かせてごめんなさい。でも、その子達は魔法の国ではペットとして飼われているんですよ」
「そ、そうなんだ……」
でも魔法の材料って事は……こいつらはどうなっちゃうんだ?
「ミク、魔法のためにこの生き物使うんだろ?」
「そうだが?」
「どういう風に使うんだ?」
「何だ? 心配してるのか?」
「いや、不気味だけど……材料って事はやっぱり……」
「ネギは物騒な事考えてるな? 安心しろ。そいつらに危害は加えない」
「じゃあどうやって?」
レン君がチッチッチッと指を立てて僕を見る。
「岩コウモリの爪と、百目モグラの毛が必要なんだ」
「そ、そういう事か」
心配して損したな。
……しかしそれなら材料だけ用意すればいいのに、コウモリとモグラはその後どうする気だ?
まさか飼うわけじゃないよな……?
そんな訳で一抹の不安を残しつつも、他にも色々と材料を用意して準備は整った。
それらは全て混ぜられ、ミクの手で魔方陣の上に振り掛けられる。
「さあ、ここからがネギの出番だ」
「僕の出番って、何をさせる気だよ?」
ミクがにやっと笑う。不気味だな……。
「ネギは私に初めて会った日に言っただろう。スタイルの良いお姉さん系の人が好みだと」
「う……た、確かに言った……」
ミクのやつ、何もリンちゃんの前でそんな事言わなくてもいいだろ!
「それで、だ。この写真を見てくれ」
「え? 写真……って、何だこの美人は!?」
その写真に写ってる女性を見て、僕は思わず見惚れてしまった……。
すごい美人でスタイルがいい。そしてメガネを掛けていて知的な感じがまたいい。
「この人は……?」
「姉上だ」
「メイコお姉ちゃんです」
ミクとリンちゃんが教えてくれた。
「メイコさんか……すごい美人だな」
「うむ。ネギの好みだろ?」
「ああ……」
はっ!?
僕にはリンちゃんという人がいるのに!!
だけど、当のリンちゃんは満面の笑顔でこう言った。
「メイコお姉ちゃん、美人だしすごく優しくてわたし大好きなんです」
「そ、そうなんだ……!」
どうしよう。リンちゃんもいいけどこの人もすごい好みだ……!
そんな僕をミクがニヤニヤして見てる。
「上手くいったな」
「ああそうだな」
ミクとは対称的にレン君はつまらなさそうな顔だ。
全く何だよ、何が上手くいっただよ。ああでもメイコさん……可憐だ。会いたいなぁ。
僕が写真に見とれてると、ミクとリンちゃんとレン君の3人が魔方陣を囲むように手を繋ぐ。
魔方陣に向かいミクが呪文らしき言葉を唱えた。
いつもの「ネギネギ」じゃないのは確かだ。
すると突然目の前の魔方陣の上に人影が見えた。な、何だ……!?
「いったぁ、何よ一体……。え? ここどこ?」
1人の女性が膝をついている。あれは写真の人物……メイコさんだ!!
「ミク、どういう事? あんたの仕業なんでしょ?」
少し機嫌が悪そうな彼女。だが、そのお顔は本当に美人で写真で見るよりずっといい。
僕はただただ彼女の美しさに見とれていた。いたんだが……。
「いいかげん、その写真を離せ」
ミクに写真を奪われ、僕は我に返った。
「あれ……僕……?」
さきほどまでのメイコさんへの恋心が嘘のように消えた。
いや、綺麗だと思うし素敵な女性だと思うのは変わらないが、一番好きなのはリンちゃんだ。それだけは間違いない。
「……あなた、ミクに騙されたのね。ごめんなさいね」
「え?」
僕は訳がわからない。
そこへ、待ってましたと言わんばかりにルカさんがドアを開けて入って来た。
「メイコ!! 会いたかったわ!!」
「ルカ……あんたまで一緒なの。ちょっとどうなってるの? 皆この家にいるわけ?」
彼女はかなり事情がわからない様子だったが、僕だって訳がわからない。
「ミク、いいかげんこの状況を説明してくれないか?」
「……うむ。ネギにも迷惑をかけたしな。仕方ないな」
ミクの説明を聞いて、僕はさっきのメイコさんへの恋心の正体がわかった。
写真にテンプテーションの魔法がかかっていたんだ。
そしてあの魔方陣。
その場にいない者を呼び出すためには、あの魔方陣と材料がいくつか必要だった。
あともう一つ。呼び出す相手に恋している者が必要だったなんて。
それでまんまと僕はミクの魔法にかかり、メイコさんに惚れてしまった訳だ。
くそう。あの気持ちが嘘だったなんて!
ようするに僕は体良く利用されたわけだ。
メイコさんは修行の真っ最中だったから、勝手に呼び出されて少し機嫌が悪そうだ。
でもリンちゃんは優しいって言ってたし、この人は大丈夫……だよな?
あれ、そういえば。
「ところで、何でさっきまでルカさんは一緒じゃなかったんだ?」
ミクの眉がぴくついた。
「ルカは……魔法がコントロール出来ないくせに、あまりにも強大な力を秘めているからな。失敗して姉上が異次元にでも飛ばされたら洒落にならん」
「あらミクったら、強大な力だなんて~」
いや、ルカさん、褒められてないですよー……。
あ、もうひとつ気になった事があったんだ。
でもそれはメイコさん本人が口にした。
「ミク、何でいきなりあたしを呼んだわけ? 理由を訊かせてちょうだい」
「あ、姉上……その……」
珍しくミクがしどろもどろになっている。でも僕も理由が知りたいな。何でいきなり呼び出したんだ?
「……寂しかったんだ」
「え?」
「え?」
メイコさんと一緒に僕も思わず声が出た。
あのミクがこんな事言うなんて。
「姉上が修行の旅に出て1年……私はずっと姉上に会いたかった。私自身も人間界で修行する事になったが一人じゃ寂しくてリン達を呼んだ。それでも、姉上に会えない寂しさは日に日に大きくなった」
「ミク……」
ミクがボロボロ涙を零してる。あのミクがこんな顔するなんて……。
「姉上ぇ。会いたかった。会いたかったんだ。嬉しいよぉ……」
「もうミクったら、昔っから甘えん坊なんだから。仕方ない子ね」
「メイコお姉ちゃん、わたしも会いたかったよ!」
「……元気そうじゃん」
「リン、レン。あんた達もいらっしゃい」
「うん!」
「仕方ねーな」
「わたくしだって会いたかったわ~」
ルカさんも加わり、5人はしっかりと抱き合った。
……そっか、姉弟仲いいんだな。
何かいいな。僕の姉さん達も兄さん達もみんな独立して家を出ちゃったし、今は家には両親と僕だけだもんな。
いいな、兄弟って。
まあ、僕の場合5人姉弟の末っ子だから結構辛い思いもしたけどね!
末っ子は立場が弱いんだよ!
って、あれ? ミク達も5人姉弟なのかな?
「お取り込み中悪いんだけど……」
「何だ? ネギは空気が読めないな」
「いや、だから悪いって。あのさ、ミク達は5人姉弟なのか? まさか他にも兄弟が居たりしないよな?」
「ああ、他に兄弟はいないが。何でそんな事訊くんだ?」
「い、いや! そうなんだ! ははは……何でもないよ」
よ、良かった~!
これ以上人が増えたらどうしようかと思ったよ。
っていうか、もう人が増えたりしないよな? な?
つづく!
魔法のシンガー♪ネギっ子ミク 第五話 「ミクの涙」
今回はメイコさん登場です。
メイコさんは他の子達とは違って自分の中のイメージそのままで書いてみました。
優しいお姉さんって感じのキャラです(*´▽`*)
一人くらいまともな人が居ないとね(^^;
リンちゃんもまともですが萌え担当なのでw
さて、ネギ君があんな事言ってますが、もう一人ちゃんと出てきますよ!
次の投稿も近いうちにしたいですが、そう言って毎回間があいちゃうんですよね…;
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ブクマつながり
もっと見る最近どうにも家の中が騒がしい気がする。
いや、ミク達が来てから人数が多いのは確かなんだが、それ以上に人がいる気配がするんだ。
怪しいのはミクの部屋なんだが、ここにはリンちゃんもいる以上勝手に中に入るのも気が引ける。
しかし今日はミク達の部屋がいつになく騒がしい。
気になる……すっごい気にな...魔法のシンガー♪ネギっ子ミク 第八話 「ルカの失敗」
ぎんこ
メイコさんが家に来て1週間が経った。
彼女は一言で言うと頼りがいのあるお姉さんって感じで、サバサバしてて話しやすい。
そして懸念していた問題点も何も無い。
ミクやレン君、ルカさんがああだから今回も僕はすぐには気を許さなかった。
だけど蓋を開けたら本当に良く出来た人で逆にびっくりしたよ。
...魔法のシンガー♪ネギっ子ミク 第六話 「リンの想い人」
ぎんこ
メイコさんを部屋に送り届けて自分の部屋に戻る途中、レン君の部屋から拍手が聞こえた。
楽しそうな話し声も聞こえる。
そういえばリンちゃん、朝からずっとレン君の部屋に行ったままだな。
何してるんだ……?
部屋のドアをノックしてみる。
「はーい」
出て来たのはリンちゃんだ。
「あれ? お兄ちゃ...魔法のシンガー♪ネギっ子ミク 第九話 「メイコの思惑・前編」
ぎんこ
レン君と約束をしたはいいが、僕は廊下で頭を悩ませていた。
人の恋愛に踏み込むような行為ってどうなんだ?
もしこれでリンちゃんに嫌われでもしたら僕は立ち直れそうにない。
だが、約束は約束だ。僕は意を決してドアの前に立った。
「ネギ、何してるんだ?」
「どわっ!? な、何だミクか」
相変わらず...魔法のシンガー♪ネギっ子ミク 第七話 「王子とアイス」
ぎんこ
僕と王子、ミクとレン君の4人で早速王子の家に来た。
だが中に入ると突然驚かされる。
何だこれは……!?
廊下の壁に大きな穴が開いている。しかも中はまるで光が乱反射してるようにユラユラして見える。
「あの、王子。それは……?」
「ああ、これかい? 魔法の国に繋がっているんだけど、ボク以外は通れ...魔法のシンガー♪ネギっ子ミク 第十話 「メイコの思惑・後編」
ぎんこ
バイトに行っても、あれ以来ミクが来る事はなかった。
先輩に聞いても「そんな子知らない」って言われたじゃないか。
あの時のミクの行動は何だったんだ!
そんな事を考えながらバイトから帰ると、家の前に若い女性が立っていた。
ロングヘアで、かなりの美人。スタイルもめちゃめちゃいいその人は、何故か...魔法のシンガー♪ネギっ子ミク 第四話 「ゴスロリ美人にご用心」
ぎんこ
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ご意見・ご感想
瓶底眼鏡
ご意見・ご感想
お邪魔です!コメ遅れましてすみません!
おお、メイコ姉さんでしたか!!確かに押しの弱いリンちゃんだけではミクは止められなさそう←
5人兄弟だと末っ子って立場弱くなるんですね……うちは三人兄弟で俺が真ん中ですが弟が最強です←
さて、カイト兄さんの参加が楽しみです。どんな立場からの参戦なのでしょうか……メイコ姉さんの恋人とか?←
2011/08/15 22:08:44
ぎんこ
>瓶底眼鏡さん
コメントありがとうございます♪
はい、今回はメイコ姉さんでした!
ミクさんが強烈なので、ちゃんと押さえられる人がいないとねっていうw
リンちゃんはミクさんのやる事何でも見逃しそうですよねww
あ、うちも3人ですが一番下最強は一緒です!
私は一番上ですが弱いですよww
兄さんの役どころは…結構美味しいかも?ってかんじです!
兄弟じゃないのはどうしても兄さんしか出来ない役だったからなのですw
2011/08/15 22:20:57
是久楽 旧HidetoCMk2
ご意見・ご感想
ミクがねーさんに甘えるあたり、ねーさんの人柄が垣間見える気がしますね~
まさに、みんなの『おねーさん』って感じなのでしょうか( ´ー`)♪
2011/08/15 13:04:09
ぎんこ
>HidetoCMk2さん
コメントありがとうございます♪
いつもは強気なミクさんですが、お姉ちゃんの前では素直なのですw
メイコさんは皆から頼られる良いお姉さんなイメージですね(*´▽`*)
2011/08/15 20:24:06
enarin
ご意見・ご感想
ぎんこ様、今晩は! 残暑お見舞い申し上げます
さて、早速拝読させていただきました。ついにメイコ姐さん登場! メイコさんは、私が知る限り、
1)元アイドル設定だったり、そうじゃなかったり
2)酒好きだったり、そうじゃなかったり
3)怒りっぽい性格だったり、そうじゃなかったり
4)でも、優しさが常にある、素敵なお姉さん
という感じで、ねんどろいどのメイコさんのアイテム”酒瓶”が”?”と思っている人も多いそうです。
でも優しいお姉さんである事に代わりはなく、愛されてますよね。そういう固定で動くことのないキャラ付けが、ぎんこさんのメイコ姉さん像にあり、嬉しいです。
ということで、鬼の目にも涙、ではないですが、ミクさんの目にも涙。寂しかったんですね。呼び出しアイテムもスゴイですが、テンプテーション(魅了)媒体にされたネギ君も不憫な…
…ん? 不憫…、そういえば、説明欄にも書かれている通り、”ボカロ全員”設定なら、もう一人、不憫な方がいましたね。
「青いマフラーなびかせて~ アイスを片手にいざゆかん~ 不憫と卑怯は正義の道を~」
た の し み で す !
ではでは~♪
P.S 友人の友人のイラストレーターさんの手伝いでコミケに参加しました。やはり、あそこは”戦場”です。今回の夏は超暑かったので、”怒りのアフガン”、かなんかだと思いました。
2011/08/14 18:22:11
ぎんこ
>enarinさん
こんばんは♪
いつもコメントありがとうございます?!
こちらからも残暑お見舞い申し上げます!
メイコさんは優しいお姉さんというイメージが強くて、どうしてもミクさんやルカさんみたいにキャラ崩壊出来ませんでした(笑)
お酒好きは…うちのメイコさんはその設定はあてはまらないかもです。
でも色んなメイコさんがいていいと思います!
やっぱり一番頼りになりそうだなぁというイメージですよね♪
ミクさん泣いてしまいました。
メイコさんがミクさんの唯一の弱点なんじゃないかなという感じです。
ルカさんには「お姉ちゃん」って態度は取ってませんけどね(^^;
不憫なお方!
もう一人のあの彼は次回出てきますよ?
兄弟じゃありませんが、結構いい役どころではないかと…
>コミケ
おお、行かれましたか?(*´▽`*)
さぞ暑かったことでしょうね。お疲れさまです!
でも、私も久しぶりに行ってみたいなぁとか思ってしまいました。
もうずっと参加していないもので…;
ではでは、ありがとうございました?(*´▽`*)
2011/08/14 19:59:33