-過去-
 その声の震えは次第に大きくなり、最後には泣き出してしまうのではないかと思わせるほどになって行った。けれど、ルカは話すのをやめようとはしなかった。
「次の日、私の靴箱に彼からの手紙が入っていました。答えは、ふられました。でも、その文面からは、彼の誠意が垣間見られたような気がしました。便箋は何度も消した跡がありました。いつもは汚い字も、綺麗でした。言葉も選んで居てくれたようでした。綺麗に返そうと思ったのだと、私は解釈したのです。それから、私は少し落胆して教室へと向かいました。今すぐにでも大声を出してないてしまいたい気持ちでしたよ。けれど、スラスの空気は異様でした。私を見た瞬間に女子たちの目つきが変わったのです。放課後、私は大勢に女子に呼び出しを受けました。内容は、私が彼に告白した件についてでした。何故知っているのかと聞いてみると、女子のリーダー格だった一人が言いました。あの手紙を書いたのは私よ、と。彼は、私からの告白を受けた後、彼女にその話しをしたのだそうです。どう断ればいいのか、と。自分が何度も書き直した手紙を渡して、どうしたらいいのか相談していたそうです。そうして彼女はキレイな字で私への手紙を書きました。彼を装って。彼と彼女は付き合っていたようでした。それを知らないで、私は大変な間違いをしてしまったと思いました。女子たちからは無視されるようになりました。男子と話そうとすると、放課後呼び出されました。先生に話しても、保護者とのトラブルを避けようとしてカ、聞く耳を持とうとはしてくれませんでした。話を聞いてくれる人なんて、どこにもいませんでした。私はいつしか、人との係わり合いを避けるようになりました。それは進学しても同じでした。ずっと、ずっと一人ぼっちのような、深い孤独が、酷く怖かった」
 そこで、レンはドアからはなれ、もう一度ベッドの上に座ってリングノートを手に持った。それ以上はルカの震えた声を聞いてはいられなかった。声を振るわせるルカは、今にも泣き出してしまいそうなのだろうと考えると、レンにはそれを背中合わせに聞くことはできなかったのだ。
ベッドの上で開くリングノートに書かれた言葉と、ルカの少し低いキレイな声が、レンの脳内で交差した。
「けれど、一人だけ、私に手を差し伸べてくれました。一つ下の学年の、男の子でした。いつも一人でいて、全学年での交流会でも一人で隅によっていました。そうすると、その男の子が、どうしたんですか、気分でも悪いんですか、保健室いくならついていきましょうか、っていってくれたの。初めて会ったのに、いつも会っている人よりもずっとよくしてくれたわ。そのときから、その子は私と話そうとしてくれました。勿論、別の学年ですから、学校で話すことはないにしても、帰りに校門の前で待っていてくれました。そのうちに、私もその子に恩返しというのでしょうか?何かをしてあげたくなったのです。だから、甘いものがスキだという彼のために、チョコレートを沢山プレゼントしました。彼は、『バレンタインデーじゃないよ、今日』といいましたが、嬉しそうにありがとう、といってくれました」
 その言葉に、ふとレンはリングノートを開いた。

『カイトはまた食べきれないくらいのお菓子をもらってきて、「バレンタインじゃないのにね」と笑っていた。』

 どこか見覚えがあると思ったのだ。聞いたのではない、『みた』のだ。
 それをみて、レンはやっと気がついた。男の子とは、『カイトのこと』ではないのだろうか、ルカが気づいているのかどうかは別として、カイトがさりげなくルカになれなれしいのは、そのせいではないのか。
「それで…話が長くなったわね。つまり、我慢は報われるってことを言いたかったの。きっと、あなたががんばっていったことは、ずっと先にでも何倍もいいことになってかえってくるのよ。だから、今は流れに任せてみたら?リン様やランちゃんの移植がいやなら、私や主が止めてあげます。あなたは、一人ではないでしょう。孤独ではないでしょう。だったら、仲間を信頼して、いいことだけを考えましょう。私も協力します。あなたは今、現実から逃げているだけです。自分が気に入らないことを言うだけいって、相手の言い分を聴こうともしない。話を聞いて、話し合って、それから決めましょう。死に急ぐことはないのですよ」
 それはまるで、カミサマからのお告げのようだった。確かに天使ではあるが、それを越えたような、ルカには何かがあったのだ、悪魔であるレンにもわかるほどの何かが。
 強くリングノートを握り締め、話を終えたルカにレンが話しかけた。
「…ルカ」
「どうしたのかしら?」
「俺――」
 そこまでいって、レンの言葉は途切れた。代わりに口から流れ出したのは、咳がでる音だった。
「ゲホ…ッゲ…ホッ」
「レン、どうしたのですか?レンッ!」
 そうドアの向こうから問いかけるルカの声は、レンに届くことはない。その声は、レンを避けて通っていったかのように、レンには世界がスローモーションで無音になったように思えた。
 しばらくしてレンの声は止まった。しかし、ルカの問いに答えるような声は聞こえず、ドアの向こう側からは何も聞こえなくなっていた。
「レン、入りますよっ!」
 そういうと、ドアを魔法でこじ開け、ルカはその向こうへと足を踏み入れた。
 ベッドの上で、口に片手を当てて片手に古ぼけたリングノートを持ったレンが、倒れていた。口に当てた手の指の隙間から、鮮やかなほどに紅い液体が、つうと流れ出ていた。
「レン、レン、レン―――」
 声が、聞こえなくなった。

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  • 非営利目的に限ります

鏡の悪魔Ⅲ 23

こんばんは、リオンです。
早く寝ろ。とのお達しがヤバイです。
今日の要約いってみましょう。
「ルカ、話し長かったね」
一回ね、途中まで書いていたのが消えたんです。だから、こんなに遅くなったんです。私は悪くないんです。今日はパソコンの動作が妙に遅いだけなんです。だから、私は悪くないんです。絶対です。ハイ。
もう寝ます。寝ないと兄に怒られます。殺されそうです。{キャー!!)
それでは、また明日!!

閲覧数:469

投稿日:2009/08/28 23:55:07

文字数:2,342文字

カテゴリ:小説

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