第十一章 反乱 パート2
元部下達との殺し合いというものは心苦しいものだな。
一つ剣を振り、抵抗を続ける黄の国の兵士を薙ぎ棄てたメイコは、ふとその様なことを考えた。反乱は予想以上に上手く進んでいる。城下町は既にメイコ達の手により占領を完了させており、残るは王宮のみという状態であった。その王宮を守る兵はおそらく数千。
こちらは市民が多数とはいえ、数万人。数では圧倒しているな。
メイコはそう考えて、王宮へと向かって更にスピードを上げた。逃げ腰の兵士など、者の敵ではない。瞬く間に数名を切り裂いた時、メイコの瞳に懐かしい人物の姿が映った。
レン。まだ、戦うつもりなのか。
メイコがそう考えた時、レンはメイコに向かってこう叫んだ。
「反乱軍首謀者メイコ殿!この度リン女王陛下へのご恩を忘れて反乱を起こすなど、言語道断!天に変わり、僕があなたを裁いて見せましょう!」
「レン!道を開けろ!私はお前を殺したくない!」
「これは異なことを。確かにかつて僕はあなたに剣術を教わった。しかし、今はあなたより強いはずだ!大人しく罰を受けよ!」
レンはそう言うと、剣を抜き放った。
「仕方あるまい。剣を取った以上、私の敵!後悔するなよ!」
メイコはそう叫ぶとレンに突撃した。鋭い一撃をレンに叩き込む。それをレンはワンステップで避けると、重い横薙ぎをメイコに向かって放った。それをメイコは受け止める。
確かに、強くなっている。
メイコはレンの剣を受けながら、思わずそう考えた。戦を経験したことで、おそらく数段階実力が向上したのだろう、その剣には十分な殺意が込められていたのである。
しかし、負ける訳にはいかぬ。
腹に力を入れたメイコは、そのままレンの剣を押し返した。そして剣を振り上げる。レンも同じように剣を振り上げた。全く同じタイミングで振り下ろされた二つの刃は空中で激しい衝突音を響かせる。
「腕を上げたな、レン。」
鍔迫り合いを続けながら、メイコはレンに向かってそう言った。
「大切なものを守るためです。」
「それは女王のことか?」
「違います。妹のことです。」
「いつ知った?」
メイコは思わず、そう訊ねた。レンとリンは双子。国家機密に属するその情報は、メイコはアキテーヌ伯爵から聞いていたが、レンは知らないはずだった。
「先程、ルカ様より。」
「そうか。ならば、遠慮は不要だな。一族の罰は一族全員が受けなければならない。」
メイコがそう言って攻撃に移ろうとした時、重い声が二人の耳に届いた。
「レン殿!貴殿の役割はリン女王陛下をお守りすることだろう!メイコ殿との一騎打ちではございますまい!」
嫌な奴が来た。
攻撃の手を止めてレンとの間合いを取ったメイコは、一括りにした長髪を風になびかせているガクポの姿を確認して、ついそう考えた。
「ガクポ殿!しかし、ここでメイコ殿を倒しておかなければ我々に勝機はありません!」
少し怒った様に、レンはそう叫んだ。
「その役目は私が請け負いましょう。」
レンの隣まで歩いてきたガクポは、倭刀を抜き放ちながらそう言った。
「しかし。」
「ご心配無用、レン殿。私は大陸一の剣士と呼ばれている男です。」
ガクポはそう言うと、両手で倭刀を構えて、メイコに向き直った。
「・・分かりました。」
「そうして下さいませ。どうやら別働隊もいる様子。貴殿はリン女王陛下をお守りする最後の砦のはずです。今から、リン女王陛下の元にお走り下さい。」
「はい。ガクポ殿、ご武運を!」
レンはそう言うと、王宮の方向へと走り去っていった。残ったガクポが、メイコに向かって静かにこう告げる。
「さあ、どちらからでも。」
「余裕だな、ガクポ殿。」
メイコはそう言いながら、冷や汗が背中を伝わる感覚を味わった。
実力差は歴然としている。私で、ガクポ殿に敵うのだろうか。
それでも、戦わなければいけない。
周りで自らの身体を傷つけながら戦う市民達の為にも。
私と共に、裏切り者の汚名を被ることを選択してくれた兵士達の為にも。
「行くぞ。」
メイコはそう言うと、剣を振り上げてガクポに突撃して行った。鋭い一撃をガクポに放つ。その剣戟をはじいたガクポは、鋭い動きでメイコの胴を薙ごうとした。それを剣先で抑える。
もっと速く!
メイコはそう考えて、身を捩るように剣を繰り出した。
成程、これがメイコ殿の本気か。
メイコの刃を受け止めたガクポは思わずその様なことを考えた。
以前手合わせをした時に見られた剣の迷いがすっかり消えうせている。
以前と同じだと考えていると痛い目にあうな。少し、本気を出さなければ。
ガクポはそう考えて、使い慣れた倭刀を更に繰り出した。
何人かがメイコに加勢しようとしたが、誰もができなかった。二人の激しい剣戟はどんな人間の侵入を許さなかったのである。ただ、激しい金属音だけが王宮内に響き渡るだけであった。
そして何十回目かの打ち合いが終わった時、二人は自然と間合いを取った。
強い。
肩で息をしながら、メイコはガクポの表情を確認した。
僅かに息を切らせているだけか。
余裕の表情を見せているガクポの姿は、メイコに絶望を与えた。
勝てないの?
私では、ガクポに勝てないの?
メイコがそう考えた時である。ガクポが口を開いた。
「楽しい戦いでした。」
「何を・・。」
「もう少し貴女のお相手を務めたいのですが、余り時間をかけてはリン女王陛下がお怒りになられます。」
ガクポはそう言うと、倭刀を鞘に収めた。
何をする気だ?
戦いの最中に剣を収めるなど、メイコの剣術の常識には存在しない。
戦いを放棄する、ということではなさそうだ。
全く消える気配のない、むしろ強くなっている殺気を感じながら、メイコは油断なく剣を構えた。
「この技を使うのは数年ぶりです。」
左手で鞘を握り締めたガクポは、氷点下を超えるような冷たい声でメイコに向かってそう言った。
「それは光栄なことだな。」
「安心して下さい。たいていの人間が苦しまずに死ねる。」
ガクポはそう言うと、倭刀を収めたままメイコの間合いに飛び込んできた。そして次の瞬間、右手を倭刀の柄に掛ける。
抜きながら切り裂くつもりか!
コンマ以下の時間でそう判断したメイコは、無我夢中で剣をガクポの右手めがけて振り下ろした。その瞬間に、ガクポの右手が動く。強い光を放つ倭刀が、メイコの剣と衝突した。
無音。
一瞬の静寂の後、メイコは幸運にも無傷であることを確認した。無意識に足が震えだす。
「なんと・・抜刀術をかわした人間は貴女が初めてです。」
抜き身の倭刀を持ったガクポは、メイコに向かってそう言った。
「それが必殺技か。大したことはなかったな。」
心臓が破裂しそうな程の鼓動を放っていることを自覚しながら、メイコはそう答えた。声が震えている。今の攻撃がかわせたのは運が良かっただけだ。次はよけられない。
メイコがそう考えた時に、ガクポは薄く笑いながら、こう言った。
「そうでしょうか?」
「なんだと?」
メイコがそう言った時、異変は起こった。メイコの足元で重い落下音が響いたのである。
剣が・・粉砕された・・。
落下したものは剣の半分から先。メイコが持っているものは、柄を含めた剣の後ろだけだったのである。
「さて、その武器でどう戦われるのでしょうか。」
ガクポはそう言って一歩踏み出した。
この剣ではもう戦えない。
メイコはそう判断し、剣を捨てると腰に穿いていた短刀を抜き放った。
「その短い剣で私と戦うと?」
「短刀術も相当に鍛えた。舐めるな。」
といっても、できる技は相討ちしか残されていないが。
メイコはそう決意しながら、短刀を構えた。
「最後まで諦めない。美しい姿ですね。」
ガクポはそう言うと、上段に倭刀を振り上げてメイコに向かって振り下ろした。メイコがそれを体で受け止めようとした時、可憐な声が戦場に響いた。
「サンダー!」
グミであった。城下町の占領を進めていたグミが、ぎりぎりのタイミングで間に合ったのである。グミの放った雷魔法は一直線にガクポに向かい、そしてガクポの身体を焼く。
「むっ・・。」
雷魔法の直撃を受けたガクポは、一瞬動きを止めて身体をよじった。皮膚が焼ける臭気を感じたメイコは、無意識にガクポに突撃をかけた。
そして、隙のできたガクポの左胸に短刀を突き刺す。
短刀が全てガクポの身体に飲み込まれたことを確認したメイコは、強い瞳でガクポを見た。
信じられない、という表情でガクポはメイコを見た。その瞳から、急速に光が失われてゆく。膝が砕け、地面に伏したガクポを眺めて、メイコは思わず溜息をついた。
「メイコ殿、ご無事でしたか?」
駆けよって来たグミは、メイコに向かってそう訊ねた。
「なんとか。剣は一つ失ったが。」
「メイコ殿が無事なら問題ございません。これで、残るは王宮内に立てこもる兵士だけになります。」
「ああ。」
メイコはそう言って、王宮の最上階、リンの私室を見上げた。
レン、お前は本当に最後まで抵抗するのか?
かつての教え子を殺さなければならないと感じ、メイコは僅かに身震いをした。
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ご意見・ご感想
H_VOCALOID_l
ご意見・ご感想
いつも楽しく呼んでいます!
・・・・殿死んじゃった(泣)
レイジ様は素晴らしいです。
手に汗握るってこういうことを言うんだなぁ
と思いました。
2010/04/03 15:15:32
レイジ
有難うございます☆
二通もコメント頂けるなんて恐縮です!
この回は僕も気にいっているシーンなのでそう言って頂けると嬉しいです!
ガクポ殺してしまってすみません。。
ガクポにはどうしてもメイコの最大の壁になって欲しかったので、この様な形になりました。
主人公がリンレンなのかメイコなのか分からなくなる作品ですね
^^;
2010/04/03 18:18:52