茜コントラスト ※二次創作

1

「ラスト一周でーす!」
 そんな後輩の声を聞き流しながら、私は荒い息をついてトラックを駆ける。
 学校のグラウンドにあるトラックは競技場のそれより小さくて、一周三百メートルだ。千五百メートル走だと五周することになる。高校トップレベルなら四分二十秒台、インターハイに出るつもりなら、せめて三十秒台は出さなければならない。
 単純に計算すれば、百メートルを十八秒で駆け抜けないといけない。
 それは、私にとっては全力疾走とあまり変わらなくて、正直に言ってしまえば結構しんどい。
 私は短距離は向いていなくて、この千五百メートルとか三千メートルとかを走っている。
 しんどいのに、なんで私は走ってるんだろ……。
 彼も、もういないのに……。
 ピッ。
「初音先輩、――四分四十三秒です!」
 そんな、どうしようもないことを考えていたら、いつの間にか走り終えていたらしい。
 後輩の言葉に慌てて速度を落とし、立ち止まる。
 全身を支配する疲労感を前に、長くなってポニーテールにしている髪すら重たく感じてしまう。
「あっつ……」
 そんなことをつぶやきながら、グラウンドに面した校舎を見上げ、三階の一番はしの教室を眺める。
 雲間からさしこんでくるじりじりとした日差しに、手をかざした。陸上部で毎日外で走っているせいで、私の手はそれなりに日焼けをしてしまっている。
 日焼け止めを塗ってはいるけれど、そんなのは汗で簡単に流れ落ちていってしまう。
 そこまではっきり黒くなってしまう体質ではないけれど、それでも、昔はそうやって日に焼けた肌が好きじゃなかった。
 彼の「そーゆーところも、カッコイイと思うよ」という言葉がなかったら、高校に入っても陸上を続けたりはしなかったんじゃないかと思う。
 ……そう、あのころ、彼は三階の美術室から走ってる私を眺めてくれていた。走り終えたあと、こうやって見上げると彼は微笑みながら手を振って――。
「――んっ」
 ……また、やってしまった。
 そう思って、私は視線をそらす。
 もう、彼はいない。どころか、私が見上げたあそこは美術室ですらない。あれは、あれは……もう、中学のころのことなのに。高校の校舎は配置も形も違うから、全然違うのに。
 ……あのたった何週間かの思い出が、今でも習慣として残っちゃってるなんて。
 ……なんか、恥ずかしいことしてるな、私。
 そう思ったけど、止められなかった。
 三年前、中学二年の夏。
 仲良くなった男の子。
 ひと夏の思い出――なんて言いかたをすると、それはちょっと恥ずかしいけれど。
 毎年、この時期になると、切ない胸の痛みとともに思い出す、私の初恋。
 これは、そんなどこにでもある失恋話だ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

茜コントラスト 1 ※2次創作

お久しぶりの文吾です。

2次創作第6弾、doriko様の「茜コントラスト」をお送り致します。

第5弾の「神様なんていない僕らの」以降、ずっとオリジナル物を書いていたんです。
プロットを二本分書いて、それに沿ってまずは一本目から。
で、一本目のプロット上では半分、自分の文章量からするとだいたい三分の一まで書きながら、ふつふつと一つの思いがわき上がってくる訳です。

これ、くそつまらねぇ、と。

こりゃいかん、と思うものの、その思いはどうも払拭されなくてどうにもならなくなって……。
……仕方ないので、一旦息抜きに2次創作をしよう、という結論に達しました。
そんな訳で、初心に戻って「ロミオとシンデレラ」以来の純愛ものを書く事にしました。

最後までおつきあい戴ければ幸いです。

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投稿日:2014/09/04 22:07:52

文字数:1,148文字

カテゴリ:小説

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