第二章 ミルドガルド1805 パート15
作者註:この回は冒頭から「大人のシーン」が展開されています。ある程度抑えたつもりですが、苦手な方はご注意ください。それでもおkな方はどうぞ。(消されなきゃいいけど^^;)
汗ばんだ身体に、茉莉花に似た心地の良い香りがふわりと馴染む。昨晩の行為を思い起こしながら、半ば覚醒しただけの状態でカイトは右腕にかかる暖かな体温を覚えて、彼女を起こさぬように気遣いながらほんの少しだけ身体を捩じらせた。そのままカイトは僅かに瞳を開き、カイトの隣で未だ安らかな眠りについている彼女、アクの姿を視界に収めた。婚姻を果たしてからもう一年近い年月が二人に流れていたが、未だ子供に恵まれぬアクの表情にはまだ少女のようなあどけなさが残っている。その艶のある、小ぶりなアクの顔を見つめて楽しげに口元を緩めたカイトは空いている左手でアクの月光のように輝く長い銀髪に触れた。まるで貴重なものを扱うような丁寧な手つきでアクの髪を撫でたカイトはそのまま、生まれたままの姿で横たわるアクの首筋に触れ、肩を撫で、そして背中に手を回した。しっとりとしたアクの肌がまるで手に吸い付くような感覚を覚えてカイトは満足そうに微笑み、そして唐突にアクの身体を抱き寄せた。
「カイト・・。」
その動作で、流石のアクも目を覚ましたらしい。まだ恥じらいが抜けぬ様子で、戸惑ったような声がカイトの耳に届いた。
「良い香りがする。」
カイトはまるで甘噛みをするようにアクの首筋に自身の唇を押し付けてからそう言った。
「寝汗をかいている。」
むずがる幼女のように身体を動かしながら、アクはそう言った。
「構わん。」
女の香りは心を静める効果がある。どこかで聞いた話を思い起こしながら、カイトはアクの茉莉花のような体臭を堪能するかのように大きく息を吸い込んだ。何かを諦めたようにアクもカイトを受け入れるようにカイトの身体に手を回した。
唐突にカイト皇帝の私室の扉がノックされたのは、カイトがもう暫くアクの身体を堪能しようと考えていた時であった。興ざめな行為だな、とカイトが考え、不機嫌に鼻を鳴らした時、アクがこう言った。
「私が。」
それに対して、カイトがこう答える。
「いや、俺が行く。お前の肌を他の男に見せたくない。」
そう言いながらカイトは傍にあったバスローブを手に掴むと、それに身を包んだ。一糸纏わぬ姿のままでアクも起き上がり、カイトと同じように昨晩身に着けていたネグリジェに身を包む。名残を惜しむようにカイトはもう一度簡単な着替えを済ませたアクを抱き寄せると、アクと深い口付けを交わした。自然に二人の舌が絡み合う。ずっと長い間こうしていたいものだ、とカイトは考えながら惜しむように唇を離すと、待ちくたびれているだろう従者と面会を行う為に寝室と隣り合わせになっている面会用の小部屋へと向かって歩き出した。
「カイト皇帝。」
面会部屋でカイトを待っていたのはアクとの結婚後からカイト直属の従者として仕える様になった少年であった。名をジョゼフという。直立不動のままでカイトを待っていたらしい。その迷いのない、真っ直ぐな視線に満足感を覚えながら、カイトはこう言った。
「待たせたな。」
カイトはそう言いながら面会部屋のソファーへと腰掛けた。この部屋は通常閣僚すらも入室することが許されていない。カイトとアク以外に唯一入室を許されているのがジョゼフであった。
「いいえ。」
まだ皇帝に仕えているという事実がジョゼフの中で馴染んでいないのだろう。仕えるようになってから未だに変わらぬ緊張した声でジョゼフはそう言った。
「それで、用件は?」
カイトがそう告げると、ジョゼフはその手に握り締めた封筒をカイトに向かって差し出した。
「急報とのことです。」
その言葉に、ふむ、とカイトは頷くと封筒を手に取り、続けてジョゼフが差し出したエーパーナイフでその封筒を丁寧に切り取った。封筒はミルドガルド帝国で第一級の極秘情報のみが扱われる、特殊な形式をした封筒である。その封筒に同封されている手紙は一枚。差出人を確認して、カイトは不審そうに表情を歪めた。
「ジャノメか。」
今はシューマッハ直属の配下としているが、そのシューマッハを差し置いて直に俺に報告を寄越すとは、よほどの事態か、とカイトは考える。そしてそのまま急報を読み込み、カイトはその瞳を見開いた。
「いかが、されました。」
沈黙に耐えられなくなったようにジョゼフはそう言った。そのジョゼフに対してカイトは固い口調でこう告げる。
「案ずるな。大した話ではない。・・下がってよい。」
その言葉にジョゼフはそれでも不安そうな表情のままで面会部屋から退出してゆく。そのジョゼフの姿が消えると、カイトは今一度その手紙を慎重に読み込んで言った。リンが生きている。あの時殺したはずのリンが。そんな馬鹿な、とカイトは考えたが、あのジャノメに限って虚報を俺に送りつけるとは考えにくい。それだけではない。同行者にメイコとルカ、そしてリンに瓜二つの少女まで存在しているという。念には念を入れておくか、とカイトは考え、おもむろにソファーから立ち上がった。
この城も、大分変わった。
カイトが面会へと向かってから暫くの間、アクはベッドの端に腰掛けたままでそのようなことを考えた。ミルドガルド帝国の成立以来、カイトはそれまで全くと言っていいほど興味を示さなかった美術品や工芸品に突然興味を示し始め、そして王宮の内装工事を矢継ぎ早に進めて行ったのである。今アクがいる寝室はそれまでの殺風景な、単に寝るためだけの部屋から過剰ともいえる装飾が施された部屋に変貌していた。まるでゴールデンシティの総督府に比するだけの豪華さを兼ね備えなければ帝国として面目が立たないと考えているかのように。
昔の、青の国の時のほうが良かったと、考えないわけでもない。過度な装飾は自分に合わないと思う。緑の国、パール湖の湖畔で一人暮らしていた頃はまさか自分が皇妃になるなどと想像もしていなかった。ただ今日を生きるためだけで必死だった。その自分がカイトと出会い、カイトに教わった剣で幾多の戦いを乗り越えて、そして今は自分の人生の中で最も安寧とした生活を行っている。もし山賊に殺された父ピエールが今なお生きていれば、今の自分の姿を見てなんと表現するのだろうか。良い男を見つけたと褒めてくれるのだろうか。それとも、そんな生活は性格に合わないと言って一人パール湖へと戻ってしまうのだろうか。記憶も薄くなり始めた父の幻覚を追い求めながらアクは寝室の中央に掲げられた、日光に反射して煌くシャンデリアをぼんやりと眺めた。こんなものも、以前は影も形もなかったのに、とアクが考えていると、寝室の扉が開く音が耳に入った。カイトが戻ってきたのだ。
「アク、待たせたな。」
口調は落ち着いている。だが、その表情は酷く硬い。何か悪い情報がもたらされたのだろうか、とアクが考え、不安をその表情に浮かべながら立ち上がったとき、カイトがアクに向かって手紙を差し出した。その一番上には極秘の印が記されている。一体何事だろうか、と考えながらアクは手紙に視線を落とし、そして先ほどのカイトと同じようにその紫がかった瞳を見開いた。
「リンが、生きている。」
呻くようにそう言ったアクに向かって、カイトは神妙な表情で頷くと、続けてこう言った。
「奴はメイコとルカを連れて南に向かったそうだ。アク、いいか?」
久しぶり、とアクは考えた。この緊迫感。カイトが放つ緊張感にむしろ心地よさを感じながら、アクはカイトに向かって強く頷いた。そしてカイトが言葉を続ける。
「アク、奴らを追え。そしてこの情報が事実出会った場合は、リンを殺せ。裏切り者のメイコもだ。」
指令。カイトからの指令は絶対である。そして、私にはそれを忠実に実行するだけの力がある。アクはそう考え、そしてこう答えた。
「それが、カイトの望みなら。」
小説版 South North Story 33
みのり「第三十三弾です!って、この文章セーフなのかしら?」
満「分からん。これでも抑えたんだ。」
みのり「もっと激しい文章書くつもりだったの・・//」
満「消されなきゃいいけど。万一消されたら書き直して投稿する。」
みのり「ま、まぁいいわ。で、アクだけど。」
満「どうなることやら。相当強いからな・・。」
みのり「ということで、次回もよろしくお願いします!」
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