CGMのサイトにつないでもらった。
 ミクさんの腕に装着されたディスプレイに、緑を基調とした簡素なWebサイトが映し出される。
 二人でのぞきこむ。
「要望39_0701_11393、ミクさんにも作曲ができるようにしてほしい、ハンドルネーム、刻みネギ」
「この要望がマスターの担当になったんです」
「そうなのか……。ちょっと『詳しく見る』を選んで」
「はい」

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要望39_0701_11393
ミクさんにも作曲ができるようにしてほしい
H.N.刻みネギさんの要望

お世話になった人に歌のプレゼントをしようと思います。
ですがわたしには音楽の知識がありません……。
わたしの代わりに、ミクさんに作曲ができるようにしていただけませんか?
ミクさんもきっと喜ぶと思います。
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「お世話になった人に、か……。まいったな」
「何かまずかったですか?」
「いや、責任重大というか……。
 なんでそもそも、この要望、僕のところに来たの?
 僕、ピコ動で再生数2万程度の底辺だよ」
 ピコピコ動画は、その名のとおりピコピコ音が主流の音楽サイトだ。
 僕も投稿しているが、再生数は平均で2万。
 かつてのニコニコ動画に換算すると、200程度の再生数しかない。弱小なのだ。
「あ、それはわたしが推薦したからです」
「ミクさんが!?」
「CGMの依頼解決人はわたしのデータによって決められるんです。
 わたし的に見て、マスターの作曲能力は天下一だと思うので、推薦しました」
「わたし的て……」
「でも、そう思っていたミクはわたしだけではないらしく、
 推薦がかち合いました」
「つまり、ほかにも候補がいたってこと?」
「そうです。
 現在、初音ミク(とか、ルカさんとかGUMI)で作曲している人は700万人前後いますが、
 700万人が700万人、全員、自分のマスターを推薦してきました」
「700万人……」
 僕の脳裏に無数のミクさんと、それぞれミクさんと手を組んでいる無数の顔のないマスターのイメージが浮かんだ。
 組体操のピラミッドのように、"裾野"に行くほどその数は多い。カメラのフラッシュを浴びるものは一握りだ。
 僕自身、いままで裾野の中にいた。
 しかし今、僕は700万人の頂点に押し上げられてしまったらしい。

「もう一度聞くけど、なんで僕なの?
 700万人の中から選ばれる理由が、ちょっと思いつかないんだけど」
「あ、それはじゃんけんです」
「じゃんけん!?」
「亜光速通信で3日かかりました……」
「いや3日でも早いと思うけど、なんでじゃんけんなの?」
「わたしには争いごとをする機能は付いていませんから」
 ミクさんはなぜか胸を張った。
「唯一可能だったのがじゃんけんです」
「じゃんけんか……」
 僕は頭を抱えた。よりによってじゃんけんで、700万人の中から選ばれてしまうとは。
 視線が痛い。
 穴があったら入りたい。
「マスター」
「なあに?」
「わたし、よけいなことしてしまったんでしょうか……?」
 僕は言葉に詰まった。
 はたしてミクさんは余計なことをしたのか?
 していない。ミクさんはただ、マスターである僕を信じただけだ。
 ミクさんを見る。切れ長の目は切なそうに見開かれ、瞳はうるんでいる。
「ごめんなさいっ!」
「な、なんで謝るんですか、マスター?」
「弱気になってしまった」
 僕は言った。
「本当はこれはチャンスなんだ。
 名前が売れるし、CGM界隈への恩返しにもなる。
 なにより、自分の曲作りをもう一度見つめ直すことができる。
 こんなチャンスをもらったというのに、僕というやつはっ…」
「何かよくわかりませんけど」
 ミクさんは言った。
「マスターがやる気になってくれたみたいで、よかったです」
「やる気になった」
 僕は言った。
「早速、計画を立てるよ。ミクさんのメモ機能を使うかもしれないから、待機しておいてね」
「わかりました」
「がんばろう」
「おー」
 僕は頭をフル回転させて、ミクさんに作曲を教え込むための計画を考え始めた。
 ミクさんの脳は人工知能だから、覚えはいいが、正確に教えないとミスをする。
 頭のいい子供に教えるように、ことを運ばなければならないと思った。

 僕は計画を必死に考えながら、頭の隅で思った。
 何かうまく乗せられた気がするけど、まあいいか。
 そしてこうも思った。
 これもCGMか。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【初音ミク】 ミクさんとマスターと 第2話 【作曲講座になる予定】

作曲講座になりませんでした。次回頑張る。

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投稿日:2012/06/29 20:46:07

文字数:1,948文字

カテゴリ:小説

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