「愛されていたのは君じゃないよ」
声がする。今日も、昨日も。
いつもいつも私に語りかけてくる。
「愛されていたのは君じゃなくて、僕自身さ」
声の聞こえる方へ身体を向けてもそこには錆びた鉄の色をした空しかなく、誰もいない。
誰なのか、本当は解ってる。自分と同じ姿をした、ただのペテン師。
でも、だからといって、何もない。
ペテン師の存在も、語りかけてくる内容も、私にとってはどうでもいい。
空を見上げると、夕陽が沈んでいくところだった。
紅い夕焼けの空にくだらない願いをかける。
どうか、世界が終りますように。
本当にこの世界はくだらない。何もかも、全て。
でもそんなくだらない世界で醜く生きている私が一番、くだらない。
死にたいとか生きたいとか、志とか信念とか。何も持たずに、ただ、いる。
自分を飾る言葉も無い。別に必要無い。
ただこのくだらない世界ではそれはマヌケにしか見えないらしい。
どうでもいいけど。
どんどん錆びていく空を眺める。
錆きった夜はなかなか好きだ。しんとして、真っ暗で、全てを忘れていられる。
だからこそくだらない一日が始まる朝は大嫌いだ。
逃げたい。逃げたい。逃げなくちゃ。逃げよう。何所へ?
繰り返した会話。自問自答。
ああくだらない。


街中が錆びていくのを横目に歩く。
そこら中に溢れかえる奴らはバカばかりだ。
他人の不幸は蜜の味。よかったね、自分より不幸な奴がいて。
でもあいつばかり同情されるのは嫌だ。
だから自分の不幸を自慢する。
ほら自慢してごらんよ。安い不幸でお涙ちょーだいって。
あそこで何かわめいてるイイ人にでも言ってみたら?
泣いてくれるかもよ。だって皆に好かれようと頑張ってる人だもの。
イイ顔ばかりする善人さん。ホント人害だよね。
人害と言えば、この世界のトップの方々って何なの?
自分のやりたいように国を動かして崩して壊す。
ついておいで。
そんな風にあってないようなプライドを掲げてる。
語ればいいじゃない。どうせ誰も聞いてないけど。
宗教みたいに誰もが拝んでくれるわけないこと、気づくべきじゃない?
解らないからそんな醜態曝してるんでしょ?
まあ、関係ないけど。
――――都会に咲く花のように
不意に聞こえる音楽。流行りの、ありきたりなラブソング。
バカみたい。そんなの、気付かなければ無意味な存在。
だって愛なんて不確かなもの捜してる暇があったら、やらなきゃいけないこと、先にすべきよ。
私はそうとしか考えられなくて聴かない。
それでもこの曲が流行る理由が、私には理解出来ない。
他人と同じように考えられない私を、私は理解出来ない。
こんな醜い私。明後日にはいなくなって、忘れてしまえればいいのに。
本当に、くだらない。


適当につけたテレビ。去年話題になったホラー映画。
怖くも、面白くも、何ともない。
大体、こんなテレビ越しで何を怖がるの?
興味すらわかない。
つまらなくて、チャンネルを変える。
何処かの誰かが死んだ。そんなニュースをやっていた。
アナウンサーが何か言っている。
怖いですねーだなんて、どこまで本気か、信用ならない。
見知らぬ犯人よりもテレビを通じて喋ってるあんたの方がよっぽど怖いわよ。
結局テレビを消した。
どいつもこいつも。何が怖いっていうの?
テレビ越しのお化け。非現実な事件。
現実に起こるのを恐れているのかしら。
リアルが怖いのなら念仏でも唱えなさいな。
南無阿弥陀仏。なんてね。
そんなもの、縋ったって何の意味も無い。
蜘蛛の糸も切れたら終わり。堕ちるだけ。
青い鳥だって羽がもげればただのゴミ同然。
縋るだけ無駄なの。何で解らないかなぁ。
「騙される方も、騙す方も、どっちもアホだからだよ」
またペテン師の声がした。
バカバカしい。どっちも同じアホなら笑えばいいじゃない。
泣いて何かに縋るより、よっぽど建設的よ。
そう思わない?
声が私に語りかけてくる。



「夢から醒めた羊たちは、眠ることもできず」
「廻る、廻る」
「何時まで?何処まで?」
「迷子なら、さぁおいで」
「もっと愛せ。強くしゃぶれ」
「骨の髄まで」

ペテン師が歌っている。
ペテン師が踊っている。
ペテン師が、笑っている。


くだらない。
安い不幸自慢をするバカ。
くだらない。
わめく善人ぶった人害。
くだらない。
五分も記憶に残らない都会の花。
くだらない。
醜い身体を持つ、私。

「全部、くだらない」

声が、重なった。気がした。
ペテン師が笑っている。
鏡に映った顔は私のものには見えなくて。
貴方は、ペテン師?
それとも、私?
私が笑う。ペテン師も笑う。
あぁ、そうか。
最初からペテン師なんて、いなかったのね。
笑い声。
“ペテン師”が、笑う。
ねぇ、敬意ある君に、この言葉贈るわ。



「死ね。」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ペテン師が笑う頃に【個人解釈】

梨本中毒末期患者です。
どうしても書きたいシーンがあり、梨本様本人に許可をもらって書かせていただきました。
小説を書くつもりが、歌詞に肉付けしただけのようなものに…。
けどすごく楽しく書かせていただきました。
快く許可を下さった梨本様、本当にありがとうございます。


原曲「ペテン師が笑う頃に」
http://piapro.jp/content/xnsah3og740lccr4
素晴らしい曲です。梨本様の曲は全て大好きです。

閲覧数:5,253

投稿日:2009/07/06 23:29:39

文字数:1,996文字

カテゴリ:小説

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  • 神崎花鈴

    神崎花鈴

    ご意見・ご感想

    かっこいいです。
    思わず納得してしまいました^^
    読み返せるようもらっていきます

    2010/03/23 00:54:37

    • 霜降り五葉

      霜降り五葉

      神崎花鈴様
      閲覧ありがとうございますー。
      何だか全体的に消化不良な感じなので穴に入りたいのですが、納得していただけたなら嬉しいです。
      お持ち帰りもありがとうです。また機会があったら読んでやって下さいw

      2010/03/23 02:01:17

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