Zot qonwirr rit ziyu
唯一つだけを信じた少女
 
 
 部屋に戻って、椅子に座りながらこの後の用事はなんだっけ、と確かめようと思ったときだった。扉を叩く音。
 まだ、一息すらついてないのに。
「どうぞ。」
 扉に向かって、声をかける。正確には、扉の向こうにいる誰かへ。その誰かは、扉に手をかけ、ゆっくりと私に姿を見せてくれた。
「王様より、至急来てほしいとの事です。」
 メイドの子だ。
「……そう。場所はどこですか?」
「王様の自室です。」
「わかりました。すぐ行きますね。」
 用事は出来た。けどもう少しゆっくりしたかったな。……けど、彼が。
 貴方が私を求めているのならば、向かいましょう。誰よりも近い、その場所にいることが私の望みなのだから。
「こちらへ。」
 幸いというか、用意もせず出かける事ができる状態だったので、言葉通りにそそくさと部屋を後にして部屋へ来たときとは少し違う通路を通る。賢帝は、何を言うつもりかしら。
 
「雪菫様をお連れいたしました。」
 私の部屋よりも厚い扉を開けて、国王の自室に入る。部屋に入ってすぐ正面の1番奥。そこに彼はいた。後ろには、扉を閉めたメイドが立っている。
「すまないが外してもらえるか。」
 王は私よりも少し遠い位置を見つめながら言う。失礼します、と小さな声と共に、バタンという音がした。
 少し前まで、1人怒鳴り散らしていたはずなのに、そんな空気は一切ない。いたって平常だ。けれど、知ってる。内心は嵐が吹き荒れてることに。どうして、あんな女の子にそこまでするかわからないけど。
「お急ぎの用事と聞きました。」
 沢山お話できれば。でも、あの女の話は聞きたくない。矛盾。どうすればいいのか、わからなかった。こんな言い方では、沢山お話できないのになにをやってるんだろう。
「あぁ、本来は別の人物に任すべきとわかっているんだが…。向かってほしい場所があるんだ。」
 口調はちょっとだけ柔らかい。まだ、他人に気を使う余裕くらいは残ってるでいいのかな…。
「ベンゴロイ。西の方にある小さな村だ。そこに住む科学者に、これと共に伝えてほしい。」
 賢帝が差し出したのは手紙で、裏には国王のみが持つ指輪の押印がしてあった。つまり、国家レベルの機密文書。そんな物を、剣士が持つというのはどういうことか。
「これは、」
「中には、あるモノを造ってくれという事が書いてある。内容が内容だから、有名な雪菫の君に向かわせるのは危険なのだが。」
「…………。」
「伝えてほしい事は1つ。『決して、旅行などしないよう。』そう言っておいてくれ。」
「何が、書いてあるのですか。」
「……君の知るべきことじゃない。頼み事は以上だ。」
 もう話すことはない、だから出て行け。
 彼は、私のほうを見なかった。
 
 
Zot qonwirr rit ziyu
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或る詩謡い人形の記録 10 -雪菫の少女-

  ※この小説は青磁(即興電P)様の或る詩謡い人形の記録(http://tokusa.lix.jp/vocalo/menu.htm)を題材にした小説です。
 
ヤリタイホーダイ(http://blog.livedoor.jp/the_atogaki/)というブログでも同じものが公開されています。
こちらの方が多少公開が早いです。
 
 
始 http://piapro.jp/content/0ro2gtkntudm2ea8
前 http://piapro.jp/t/RiI6
次 まだ

閲覧数:77

投稿日:2011/03/01 01:22:45

文字数:1,224文字

カテゴリ:小説

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