『私の一番大切な人へ。

書こうか書くまいか散々迷ったあげく、この手紙を書くことにしました。
本当は口で直接伝えるのが一番なのだろうけれど、恥ずかしくてそれが出来ないので、手紙での形となります。そこは何とぞご容赦ください。

伝えたい事は、一つだけ。何年も前から私が思ってたこと。それを今、この手紙を通して君に伝えようと思う。
単刀直入に言うね。

「出会った時から、君が好きだった」

君は覚えてるかな。私と出会った時の事。
あの時、私いじめられてて、それを君が助けてくれたんだよね。
3対1なのに、勇敢にものを言う姿はかっこよかった。
見知らぬ私を助けてくれるなんて、この人は熱い性格なんだなって、あの時から思ってた。

あの日から、また私がいじめられないようにって、私の傍にいつも付いていてくれたっけ。
正直最初は恥ずかしかったよ。周りの知り合いからも、君は彼氏呼ばわりされるし。
でも、嬉しくもあった。私の事を本気で思ってくれているんだってことが、とても嬉しかった。

高校を卒業した頃から、私の病気が酷くなって入院してしまった時も、君はちゃんと毎日お見舞いに来てくれた。
君みたいな人に出会えて、私は十分幸せだと思う。
ベタな表現になるかもしれないけど、君さえいれば、他には何も要らなかった。本当だよ?

……まだ、もっと書きたい事はいっぱいあるんだけどね、それだとごちゃごちゃして伝えたい事さえも紛れてしまいそうだから、ここで書くのをやめておこうかな。


私に幸せをくれて、ありがとう。


P.S.
封筒にマーガレットの花も一緒に入れておきます。安っぽい造花で、ごめんね。部屋にでも飾ってくれればうれしいな。』


手紙にはそう書かれていた。
達筆な文字が、最初から最後までずらりと並んでいる。
丁寧に丁寧に、一番大切な人に向けてしたためられた、一枚の手紙。

けれど皮肉にもその手紙を最初に読んだのは、私の一番大切な人ではなかった。


―――――――――


――3月1日。PM0:20分。(過去)

ハクの病室にて。


「何書いてるの~?」

言うや否や、グミは私の書いていた手紙を取り上げた。
ちょうど、手紙の最後の文字を書き終わったところだった。

「え、ちょ、ちょっと止めて!ていうかいつの間に入ってきたの!?」
「やだなぁ、人を影の薄い幽霊みたいに言わないでよ。ドア、ちゃんとノックしたからね」

気づかなかった……。
いつのまにか、熱心に手紙を書いていたせいだろうか。
物音一つさえ、耳に届かなくなっていた。

病室はとても静かで、誰かが足音を立てようものならすぐに気付く。
それくらい静けさが溢れているはずなのに、グミが来た事には全く分からなかった。

「で、これは何?」
「いや、そ、それはその……とにかく返して!」
「やだもーん、ちょっと読ませて」
「それは絶対無理!!」

ハクは何とかグミを捕まえようとするが、グミはすばしっこくて中々捕まえられない。
しかも逃げながら器用に手紙を読んでいる。

そうしている内に、全部読み終わってしまったのか、急にグミが動きを止める。
すかさずグミから手紙をひったくった。

「ハクちゃん、なんか……痛いねコレ」
「うん……自分でも思う。まともな神経してたらこんなの普段は絶対書かないよ。でも、手紙だからありのままに自分の伝えたい事を書けるって言うか……書いたら結果的にこうなっちゃった」
「ピュアだねぇ、ハクちゃんって」

恋する女性は、好きな男性を意識するとみんな乙女になっちゃうものだよ。
と言ってやりたかったが、止めた。

「あのさ、この最初の『一番大切な人へ』って書いてあるけど、これは誰に宛てたもの?」
「ん……私の、中学の時からの親友、かな」
「その人、男だよね?」
「い、いや?女だよ?」
「見え見えの嘘つかないの。『出会った時から君が好きだった』とか『知り合いからも君は彼氏呼ばわりされるし』とか、これもう明らかに男じゃん」

やはりこの嘘は苦しすぎたようだ。
ハクは観念したように、がっくりと肩を落とす。

「その人の事、好きなんだ?」
「まぁ……うん」

グミはヒュウと口笛を吹く。

「それと、花も一緒に入れておくって書いてあるけど、なんでマーガレットなの?もしかして、二人の思い出の花だったりとか?」
「いや、そういうわけじゃないけど……女の子なら、多分その意味が分かると思う」
「え?」

グミはもう一度、手紙の文面を思い出そうとこめかみに人差し指を当てて考えるが、ついに真意が分からなかったようで、「教えてよ~」とねだる。

「んー、それはグミが相手でもダメかな」
「どうして?」
「本当に大切な想いって言うのはね、口にして伝えちゃダメなの。それに、物に隠された意味とか比喩から、自分なりに真意を想像するのもまた面白いじゃない?」

グミは今度は腕を組んで考え始める。

「なんか、今ハクちゃんがもの凄く難しい事言ったような気がする」
「ふふ、そんなに難しかった?要するに、この花には何らかの意味があるって事」
「ふぅん」

と、グミはつまらなそうに頷く。

「……じゃあ、そろそろ行こうかな」
「どこに?」
「1階の売店。マーガレットの造花売ってたはずだから、買いに行こうかなって」
「あ、じゃあ私も行く」

そうして、ハクとグミは病室から出て行った。


――……。


ねぇ、君には伝わるかな。この花に隠された意味。
女の子のグミでも分からないんだから、やっぱり分からないかな。

「心に秘めた愛」「真実の友情」

それがマーガレットの花言葉。
その想いが、君へと伝わりますように。


左手に持った100円玉を、ハクはぎゅっと握りしめた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

三月の雪 ―ハクの手紙 【おわり】

結局この手紙はデルの手に渡ったのか否か……そこが気になるところです。
ここまで読んで下さった方いるのかな。いたら、ありがとうございます!!感想とかくれれば嬉しいな。

閲覧数:211

投稿日:2011/05/10 17:48:01

文字数:2,378文字

カテゴリ:小説

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    ご意見・ご感想

    こんにちは、読ませて頂きました。
    うん、そうですね。良い作品だと思いますよ。
    確かにご自分でも自覚されてる通り、文章力とか構成とか、まだまだ改良の余地はあると思います。
    中学時代に知り合ったハクとの関係が幼なじみなら、それより以前から知り合いだったルカも幼なじみって事にならないか? とか。自然破壊に対する見方と考察がちょっと一方的で浅いかな? とか。ハクと知りあったキッカケがいじめっ子から助けてあげた事ってのは、ちょっとありきたりかな? とか。ツッコミ所はあると思います。
    でもですね、そんなのはこれからボチボチ勉強して行けば良い事。そんなに重要な事じゃないと僕は考えています。
    これは小説に限った事じゃないと思いますが、一番大事なことは、作品に自分の心を込める事だと思うんですよ。

    「根拠?あぁ、確かにないけどさ、そう言う時は己の自信に頼るんだよ。それしかないだろ?」

    作中でデルが言ったこのセリフ、†B†さんの持論でしょうか。もしどこかからの受け売りだとしても、それを†B†さんは信条としているって事ですよね。
    とても良いと思いました。作品をもって自分の思いを表現する事こそが大事だと僕は考えています。
    自分の本心をさらけ出すわけですから、何らかの作品を発表するのは、本来とても怖くて恥ずかしい事なんですよね。でも、うわべだけの作品に視聴者は共感も反発も感じません。「つまらない作品」だという事になってしまいます。
    技術的にまだまだ改良の余地はあるが、心のこもった良い作品だと思いました。なんか上から目線で申し訳ないですけど。(^ω^;)

    初コメでいきなり長文、失礼しました。
    これからもがんばって下さいね! ではでは。

    2011/05/12 09:17:03

    • †B†

      †B†

      メッセージどうもです。
      コメ長いっすね!こんな長いコメ+アドバイスしてくれた人、時給さんが初めてですよ!
      読み返してみると、確かにちょっとベタなところもありますね……うぅん。
      頑張って改善してみます!

      あとそのセリフは確かに私なりの考えです。
      冷静になって考えてみると、結構自暴自棄な感じになってると思いますが;;
      端から見ると結構無謀といえるセリフですw

      例えで言うとですね。
      試験の時、どうしても分からない問題があったとします。
      そういうのって空白で出すの、なんかもったいないなと思うじゃないですか。
      だから、己の自信と勘で、解いていくわけです。それで正解できるかって言うと、その確率は高くはない訳ですけれど。

      ホント、無謀すぎて呆れますよねw

      でも、そういう誰も助けてくれないような状況で頼れる存在って、やっぱ自分自身だと思うんですよ。試験中に限った事ではなく。

      私、小中学校の頃はあまり友達がいなくて、頼れる存在がいなかったから、無意識にそういった座右の銘みたいなものが出来上がってきちゃったのかもしれませんね。

      これからも、頑張ってみますよ。ただちょっと忙しいですけどw
      長文アドバイスありがとうございました!

      2011/05/12 22:04:21

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