VOiCE

投稿日:2009/01/19 17:51:41 | 文字数:3,433文字 | 閲覧数:292 | カテゴリ:小説

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にょほほさんのPVに感動してやってしまった。反省はしていない。

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TEXT
 

記録:1944/1/20 20:25 現状記録
 屋外。天候、降雪。ただし積雪なし、視界良好。
 45時間前の襲撃以来、防御拠点『お屋敷』への連合軍の攻撃が途絶。
 同盟軍側の公共放送と市街地外縁から聞こえる戦闘音から、同盟軍がこの都市の奪還作戦を行っていると推測する。
 成否に問わず、防衛拠点への同盟軍の攻勢は弱まると判断。
 この機会を利用して、700時間以上行っていなかった、思考プログラムの自己診断及び、内部記録の確認作業を行う。
 武装を保持しつつ、準戦闘待機。
 本来ならば、手にした「花」に類似したジャンクを放棄すべきだが、無意識下プログラムがそれは保持したままにしておくべきと、強い断定をしているので、そのままに。無意識下プログラムがそのような判断をする理由は不明。今回の自己診断でその理由が判明することを期待する。

―――自己診断開始。



VOiCE
原曲:ラブリーP
動画:にょほほ
文章:詞連




記録:1942/8/12 14:29 再生記録
 屋内。
 次世代主力人造歩兵選抜トライアル試験終了。私は選出から漏れる。製作者は選抜者に対して抗議。しかしコスト、思考プログラムの煩雑さ等を論拠に論破される。
 試験結果は良好であっただけに残念だと判断する。



記録:1942/8/13 18:03 再生記録
 屋内。
 製作者が私を引き取るという。私を制御する二つのプログラムの内、この記録を担当する意識上プログラムは、選考漏れしたとはいえ最新鋭機を外部に持ち出す判断に疑問を持つが、思考制御の外にある無意識下プログラムは、この出来事を肯定的に判断しているようだ。
 製作者にそのことを述べると、製作者は特異的な表情パターンを示しながら言った。
「それでいい」
 後に、その特異的な表情パターンを「笑顔」と呼ぶと教えられる。



記録:1942/9/1 10:17
 屋内。
 いくつかの改修を受けた私に、製作者は新しい任務を与えた。
 少女の世話兼護衛である。少女は製作者の子供のそのまた子供、つまりは孫。
 少女は記録当日が誕生日であり、私はそのプレゼントとして与えられるのだという。
 そのための改修だったのかと、私は自分に与えられたいくつかの機能、動作パターンについての必要性を納得すると同時に、新しい疑問を得る。
 回収されたとはいえ、私は人造歩兵であり、給仕、接客等の機能では、実際の人間や市販されている、それ専用の人造人間に比べはるかに劣っている。
 そのことを製作者に述べると、製作者はまた、例の「笑顔」という表情パターンを示しながら言う。
「最後に作った最高傑作だから、最愛の人に贈りたい」
 理解不能だった。前記したとおり私の執事としての能力は他の物に比べて劣り、戦闘用の機械としての能力も、トライアルに敗北したという結果からして明らかだ。
 疑問は尽きないが、まだ自分の分析が足りない可能性と、そして無意識下プログラムが製作者の返答に対して一定の満足を得ていることから、追及を中止した。



記録: 1942/9/1 12:10
 野外。晴天。
 製作者に連れられて少女と会う。その少女こそが、製作者の孫だった。すぐに護衛対象として登録する。
 屋敷の扉を開けた瞬間、護衛対象はこちらに「笑顔」を向けたが、私の姿を見るとすぐに表情パターンを変化させた。増設されたプログラムからその表情の意味を検証。
 その結果、その表情は「膨れ面」「しかめ面」という物に該当した。不機嫌、と呼ばれる精神状態に置かれた人間がするものらしい。
 私に対して警戒心、不快感を持ったのかと判断したが、すぐにそれが私の判断ミスであることが判明した。
 護衛対象は製作者に母親の不在の理由と、その不在の理由を尋ねた。
 製作者は明瞭とは言い難い口調と、不要に難解かつ迂遠な物言いで、彼女の母親が仕事により不在であることを告げた。
 それにより護衛対象の表情はより深い不機嫌を示すパターンとなっていった。
 護衛対象の不機嫌が、行動になって現れたのは、製作者が私を護衛対象に紹介した瞬間だった。
 護衛対象は膝に抱いていた物体を私に投げつけた。
 それはクマのぬいぐるみと呼ばれるものだった。本質的には布の袋に綿を詰めた物体であるため、損傷はなかった。しかし、無意識下プログラムは強い反応を示した。それは迫撃砲の砲撃を受けたときにも似た、強く激しい危機反応だった。
 ぬいぐるみが足元に落ちていくのを目で追う内に、護衛対象は椅子から立ち上がり、私と製作者のいるのとは別の方向に走り出していた。
 このような事態に対する対応パターンを私は保有していない。
 しかし、なぜか無意識下プログラムは、まるであらかじめプログラムを受けていたかのように、ぬいぐるみを持って追跡するべきという判断を呈し続けている。
 結果として、私は足もとに落下したぬいぐるみを持ちあげて、護衛対象の後を追った。
 
記録: 1942/9/1 12:17
 護衛対象の発見は容易だった。
 花壇の影でうずくまるようにしていた護衛対象。体調不良かとも思ったが、その呼吸や声音から、単に泣いているだけだと判断した。しかしその判断がつくと、私の無意識下プログラムは、護衛対象が体調不良なのではないかと推測した時と同レベルの危機反応だった。
 私は護衛対象から警戒をされないように静穏モードで接近。護衛対象が私の存在に気づいたのは、私が彼女の2メートル程の位置に近づいた時点だった。
 護衛対象の表情は目を見開き強張ったパターンとなる。驚愕と警戒であると判断した。
 警戒を解くべきかもしれないが、私には有効な手段はない。
 仕方なく、護衛対象の警戒を解くのをあきらめ、私はそのまま手にしたぬいぐるみを差し出した。
 護衛対象は一度だけためらうような挙措動作を見せたものの、そのぬいぐるみを受け取った。
 受け取った彼女は、ぬいぐるみに顔をうずめるようにして、沈黙する。
 当初の行動目標を終え、しかし他に命令も何も受けていない私は、ただその場に立ち尽くす。
 その私に、護衛対象が言葉を投げかけてきた。
 最初の言葉は謝罪だった。続いて、その謝罪はぬいぐるみを投げつけたことに対するものだと説明し、さらにその行動は、自分の誕生部に来るはずだった母親が来なかったことに対する八つ当たりだったという説明につながった。
 判明した、不当な理由で攻撃されたという事実に、しかし私は不満を覚えることはなかった。ただ無意識下プログラムが、まるで暴れるかのように、護衛対象の為に何かをしようとしていた。
 しかし、私の意識上プログラムでいくら思考をめぐらせても、友好な解決策は見出されない。護衛対象は母親を欲しており、母親はここにいない。連れてくることもできない。だからどうしようもないのだ。
 そう結論をつけて、思考を終えようとしたとき、まるで無意識下プログラムがまるで我慢の限界を超えたかのように、体の制御を乗っ取った。
「私がここにいます」
 ただ一言を発しただけで、無意識下プログラムは制御権を意識上プログラムに戻した。
 わずかな一言だけのことたが、それは本来あり得ないことだ。体の制御に関しては、意識上プログラムが優先される。意識下プログラムはただそれに対して別視点から意見を述べるだけの、補助システムにすぎない。
護衛対象はぬいぐるみから顔をあげて、戸惑う私に顔を向けてきた。
護衛対象の表情には驚きに類するパターンが浮かんでいた。しかしそれは、先ほどの驚きに比べ、険のとれたパターンのものだった。
無言で佇む私に対して、護衛対象は二度の瞬きをしてから言った。
「ありがとう」
 護衛対象が浮かべた表情は笑顔。
 すべてが、私の理解の範疇を超えたいた。
 なぜ、無意識下プログラムが機体のコントロールに介入できたのか?
 なぜ、護衛対象は「私がここいいる」という言葉で笑顔を作ったのか?
 何度も論理演算を行うが、回答は出ない。
 まだ、結論を出すための思考材料が不足している。そう判断した私は、疑問を一時凍結して、メモリーの隅に追いやった。
 何もわからないまま、無意識下プログラムは、機体のコントロールを奪うことなく、ただ護衛対象の反応を、良いものだと判断した。

(プロフィールはありません)

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