ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、
なんとコラボで書けることになった。「野良犬疾走日和」をモチーフにしていますが、
ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてP本人とはまったく関係ございません。
パラレル設定・カイメイ風味です、苦手な方は注意!

コラボ相手はかの心情描写の魔術師、+KKさんです!

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【独自解釈】 野良犬疾走日和 【紅猫編#04】



「どういうつもりなの」
 珍しく私から話しかけると、相手は一瞬だけ意外そうな顔をして、それから、またいつもの貼りついたようなきもちのわるい笑みを浮かべた。
「なんのことかな」
「とぼけないで。なんのつもりでこんなにいきなり話が進むのか、説明をいただきたいわ」
 ぎっと意思をこめて睨むと、そんな怖い顔をしないでおくれよ、とやわらかく制された。いや、口調こそ柔らかいが、目が笑っていない。
「いきなりではないよ、何度も話題に上がっていたじゃないか」
「それにしても、こういう話って、当人の同意なしに進むものなのかしら」
 普通、ここに至る前に――結納だの何だのというまえに、ひとつ確認程度の話は、父なり母なりからあるはずだ。しかし、そんな話をされた覚えはない。だから、まったく青天の霹靂だった――いや、まったく、というわけではない。どこかで、なにかの思惟の働いている気配はあった。気付かないふりをして野放しにしておいたのが私の敗因だ。
「父さまに、なにを言ったの」
 自分で言うのもなんだが、詰問、という形容が良く似合う、張りのある声が廊下に響いた。
 相手は、気持ちのわるい笑みはくずさないまま、たっぷりと間をおいて、とくになにも、と、静かな声で言った(そのもったいぶった態度が、とても気に障る)。
「めいこさんとは仲良くさせていただいています、というようなことは言ったかな」
「……『というようなこと』、というからには、もっと別の言い方だったのでしょうね」
 私は、追撃をやめない。やめてたまるものか。この男の手の入った縁談だということは、端からわかっているのだ。だんだんといらつきが募るが、ここは抑えて、あくまでも冷静に。熱くなればなるほど、足元をすくわれてしまう。
 この男は狡猾だ。侮っていては、付け込まれる。冷静さを欠けば、それだけで負けが見えてしまう。
「――そうだったかも知れないね」
 落ち着くのよ、めいこ。ここで怒りを露わにしては、相手の思うつぼだわ。ひたすら自分に言い聞かせるが、嫌悪と憤怒がおさまるわけでもなく。
 きっと、この結婚には私も同意していて、おおむね好意的である、というような、もしくは、それに近く解釈できるような言い回しで、父に話をしたに違いない。お互いの事業のためには悪い話でもない、くらいの甘言を添えたのだろう。でなければ、これほど急に話がすすむはずはないのだ。
 経営地を移してから――私が幼いころ、こちらに引っ越してきてから――、順調だった父の事業は、最近になって傾き始めていたことを知っている。新興企業が台頭してきたという噂もあるし、弱い新興企業をうまく丸めこんで肥大化してきている同業の財閥が増えつつある、というような話も聞いた。咲音の家は、元をただせば前者に該当する。年月を経て中堅どころ、といわれるようにはなったが、経営が傾けばその地位も転落するだろう。そして、由緒正しき神威の家は、あきらかに後者に該当する。
「ようするに、咲音のおうちへの影響力が欲しいのね、神威のおうちは」
 吐き捨てるように言った言葉は、私の勇ましくあろうとするきもちに反して、心の底にある弱気を反映した響きをもっていた。私に対していた紫の男は、やっとその気持ちのわるい笑みをやめる。
 これは、ただの政略婚だ。なんて時代遅れな。しかし、それが経営の手段として確立されているのも事実。父は、私がここまで学をつけていると知っていて、このような暴挙に出るのだろうか。何も思わないと思っているのか。
 無表情のままの男が、無感動な口調で言う。
「――家の事情に踊らされているのは、あなただけではないのだよ」
 どういう意味だろう。そう問う前に、男の顔は、例のにやついた顔に戻っていた。
「まあ、咲音の家の事情や神威の経営事情は置いておいても、私個人として、貴女はとても魅力的だと思うし、ぜひとも妻に迎えたいと思うよ?」
「あなたみたいな、変に誤魔化しの上手なひとを、主人とは呼びたくないものね」
 反吐が出るわ。そこまでは言ってやらなかったが、代わりに奥歯を噛みしめると、ぎちり、と、いやな痛みが走った。
「その強情なところも、好もしいと思うよ、咲音のお嬢さん」
 それでは失礼するよ、と、まだ余裕の残っている風の男は、私に背を向けた。
 戦いの最中、相手に背を向けることは敗北か降伏を意味する。けれど、この舌戦に負けたのは、あきらかに私の方だった。

 そのあとはもう、気もそぞろでなにも手につかず、やや混乱したまま夜を迎え、そして次の朝を迎えてしまった。それから昼になる今の今まで、私は書斎に籠っていた。以前よりも確実に部屋に籠る時間が長くなったと思う。もうなんだか、誰も信用できない気がして、できるだけひととの接触を避けたいきぶんだ。それでもふと、いいようのない心細さを覚えるのだから、私は結構さみしがりなのかもしれない。雨が上がったばかりの曇天を睨みつけ、私はため息をついた。
 不安なきもちになる時は、筆を執れば落ち着ける――はずなのに、今日はいっこうに筆がすすまない。それでもなんとか文のかたちにはなった。もう3度も書き損じてしまった便箋を、ぞんざいに畳んで屑籠に放る。封筒に宛名と自分の名前を添えて、今しがた書いたばかりの文を読みなおす。

 拝啓
 そろそろ暑くなってきたかと思えば、こちらはまたぐずぐずと雨が降っています。お友達のところに行くにも、着物の裾がぬれてしまってたいへんです。
 雨はきらいでないですが、外に出るときはこまりものですね。でも、このあいだの雨の日にお友達からお茶を振舞ってもらいましたが、すこしだけ風味がちがっておもしろいものでした。
 雨と言えば、いつか雨の日にふたりで仔猫を拾いましたね。とつぜんの夕立で、瀬戸物屋さんの隣の空き地から、たばこ屋さんの裏の空き家まで走ったときの話です。そういえば、あの時は近くに生えていた蕗を傘にして家に帰りましたが、例の空き家のあたりに、まだ蕗は生えていますか?
 そうそう、お手紙で野良犬に懐かれている、ときいて、そういえば貴方は昔から動物に好かれるたちだったな、と思いだしました。相変わらずのようですね。いつか、その野良の子も見てみたいものです。
 それでは、くれぐれも、働きすぎには気をつけて。暑い時こそ、調子に乗ってしまいやすいものですからね。
                                           かしこ

 ……いつもより脈絡に欠けるかしら。でも、これ以上書いてしまっては、いろいろと――弱音とか、彼には知られたくないようなこちらの事情なんかを――吐露してしまいそうで、書けなかった。たまにはこんな日もあるのよ、と、無理やり自分を納得させて、すっかり墨の乾いた封筒に便箋を収めた。湿気の多い日は、封をする糊の匂いがつよくなる気がする。
 雨が降りそうで降らない、どんよりとした空を見上げる。せっかくだから、降ってこないうちに手紙を出しに行ってしまおう、と、私は重い腰をあげた。

 次の朝、外に出ると、女中の一人が声を上げてなにかを追いかけていた。
「――こら、待ちなさい!」
 一瞬、自分のことを言っているのかと思って身構えたが、彼女の視線は、私ではないものに注がれていた。彼女の見ている視線の先を辿ると、一匹の猫が――え、こっちに向かってくる?
「ああっ、お譲様! その子っ、捕まえて下さいー!」
「え、ええ!?」
 突然なにを、という前に、その茶色の毛玉は私の足元を走り抜け――ようとして、失敗した。私が寸での差でかかとを上げ、猫の行く先を封じ、それに戸惑い減速した仔猫をひょいと抱え上げたから。
 改めてその茶色の毛玉を見る。すこしだけ汚れた茶色の毛なみ、琥珀色の綺麗な瞳――いつか雨の日に拾った猫にそっくりなその仔猫は、私の腕の中でおとなしくなった。ただし、いかにも恨めしそうな眼光だけは衰えなかった。
 やっと私のところまで追い付いてきた女中が、肩で息をしている。はい、と猫を差し出すと、女中はとぎれとぎれに感謝の言を口にした。女中がようやく呼吸を落ち着かせたころ、私は、未だ咎めるような目で私を見ている猫を見ながら、訊いた。
「あなたの猫?」
「はい……ああ、でも、もとはお譲様が拾ってきた子ですよ?」
「私が?」
 私が猫を拾ったことなど、そう何度もない。というか、そのように動物を家に連れて来たことは、あの雨の日だけだった。
「……覚えがないわ」
「お譲様もお小さかったから、覚えてらっしゃらないかも知れませんね。この子の母猫は、めいこお譲様が連れてきたのですよ」
 ああ、そういうことか、と合点がいった。
 あの雨の日の仔猫は、なりゆきで私が家に連れ帰ったのだが、濡れて帰って来たことで母から酷い叱責を受けてしまい、その場で「もとの場所に捨てて来なさい」というお決まりの宣告をされたのだ。そうして、ぐずぐず泣いているところに、家に仕えていちばん旧い女中がやってきた。どうしたのかと問うその老女中に、仔猫のことを話すと、老女中は何かをたくらんだようなはにかんだ笑顔を浮かべて言った。それなら、私どもがないしょで飼いますわ、めいこお譲様はこの毛むくじゃらに会いたいときに会いにくればよろしい。その言葉に安心して、老女中に猫を預けた後、しかし、老女中は病で床に伏せてしまい、とうとう猫どころではなくなってしまったのだったけれど。
「まだ、ないしょで飼っていてくれたの?」
「半ノラですけれどね、母も、こどもたちも」
 とくに母猫なんか、5日に1度うちに帰ってくればいい方で、と、女中は笑った。そして、また謝辞を述べてから、猫と一緒に屋敷へ戻って行った。

 散歩がてらに道を歩きながら、ふと、猫がうらやましくなった。
 自分の意志で、家を出ていきたいときに出ていける猫。5日も家に居ないのだ、きっとほかにねぐらをもっているのだろう。それに比べて、自分の意志ですら、家を出ていけない私。
 家じゃない場所に、安らぎがあるのは私も猫と同じなのに。私は人間だというだけで、猫のようにそこへ行けない。かいとのところへ、行けない。

 ――行けないのだろうか。本当に。

 いつも手紙を投函するポスト、その目と鼻の先には、汽車のたちよる駅があった。駅員があわただしく働いている。もしかして、そろそろ汽車が来るのだろうか。
 とっさに、持ち合わせを確認する。辺りを見回しても、家の者がついてきている気配はない(当然だ、散歩にでただけなのに、従者は必要ない)。ぼうっ――と、汽車の近づく音が聞こえた。

 ――行けないのだろうか、本当に?

 その問いの答えを出す前に、私の身体は、吸い寄せられるように駅へと向かって走った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

【独自解釈】 野良犬疾走日和 【紅猫編#04】

ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、書こうとおもったら、
なんとコラボで書けることになった。コラボ相手の大物っぷりにぷるぷるしてます。

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めいこさん、手紙をしたため、そして走るの巻。

私の書くモノに登場するキャラには、口げんかばっかりさせてる気がします。
口げんかって、疲れる……殴り合いのけんかのなんと書きやすいこと!
今回がっくんのキャラづくりは、ほとんどたすけさんのアイディアです。
たすけさんはいちいちキャラを男前に動かすから素敵です……その能力分けて下さい!

このあたり、メールで性別の話をしてましたが、私はたすけさんの性別を勘違いしてました。
なんという失礼千万な子……! あ、あとここでは公開できないようなちょめちょめな
感じのカイメイが送られてきて悶えていたのはこのあたりです。たからもの!

青犬編では、かいとくんがわんこともふもふしてるみたいなので、こちらもどうぞ!

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かいと視点の【青犬編】はたすけさんこと+KKさんが担当してらっしゃいます!
+KKさんのページはこちら⇒http://piapro.jp/slow_story

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あ、そうだ! 8月7日企画で投下した「The Seventh Night of August」ですが、
全話加筆修正&楽屋追加しました! よろしければぜひ間違い探しなどどうぞ。

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つづくよ!

閲覧数:627

投稿日:2009/08/14 20:40:17

文字数:4,634文字

カテゴリ:小説

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