レンカちゃんが熱を出しました。
ともかくインフルエンザじゃなかったから良かったものの、レンカちゃんの熱は非常に高く、別部屋で確保し、絶対安静ということになりました。
私、ミクアペントが心配しているのは、もちろんレンカちゃんのことも心配ですが、彼のことです。
彼は、いつもレンカちゃんのそばにいた人、―もちろんお分かりだと思いますが言っておきます―リント君です。





約束―我が家のボーカロイドさんたちの中で、一つの誓いが生まれました―




「レンカちゃん、大丈夫かなぁ。」
「ひとまず大丈夫ではないわよ。体温が40度あるんですもの。」
「大丈夫だといいなぁ。」
「…話聞いてないでしょ。」
リンたちの間でコントが起こっていますが無視。問題はそこじゃないのです。
キッチンが非常に騒がしくなっていることと、男子たちがやる気がなさそうなのとおろおろとしているのがいるのと普通に心配してるのがいるのも問題ですが、そこはともかくいいとして。
リビングやキッチンにいる人たちの中で―買い出しに行っているミクオとグミは除いて―いない人。リント君が部屋に閉じこもっているのです。
レンカちゃんの具合が悪くなってしまってショックを受けたのか、それとも熱が移ったのか、もしくは身体的疲労なのか、詳細は分かりませんがリント君に何かあったのは間違いがありません。
とは言っても、こんな騒ぎの中、レンカちゃんの一大事のときに抜けるわけにはいけません。
とりあえずメイコさんに言われた、リンゴジュースの作り方を思い出し、りんごのすりおろしにかかりました。







夜。もう夜中の十時を過ぎてますから、皆寝ています。皆、疲れているらしく、私以外に今起きている人はいないはず。
リント君を除いては。
リント君の部屋から音楽が聞こえます。あれはきっと――
リント君の部屋の扉を叩く。
コンコン、と音がした。返事なし。
コンコンコン。またもや返事なし。
コンコンコンコン、コンコンコン。それでも返事なし。
コンコンコン、コンコンコン、コンコンコン!返事なし。
私はイラついて、扉を蹴り開け、部屋に入りました。
いきなり入ってきた私に驚いたらしく、リント君は椅子から転げ落ちました。
「えっと、何?」
リント君は聞いてきました。
「どうして部屋に閉じこもってるのですか?」
私は質問には答えず、問いました。
「えっと、何にも…ないです。」
私はムカつきました。
「何にも無いはずがありません!もし何にも無いのに引きこもっているなら、レンカちゃんの看病に忙しいときに皆に心配かけて迷惑です!そんな風に迷惑かけて楽しいですか!?さっさと部屋から出てきて、さっさとレンカちゃんの看病に精を出してください!そして、皆に『迷惑をかけてすみませんでした』と謝りなさい!」
肩を上下させる私にリント君は驚いている。当たり前だ。こんな声今まで出したことがない。疲れた。扉を閉めていたからまだ良かったものの、安眠妨害だろうなぁ、と私は思った。
「分かり…ました。」
私は満足して、深くうなずきました。
「さっきの曲…」
リント「はい。『約束の花』です。」
『約束の花』――将来結婚をする約束を幼少期にして、まだ覚えている少女と忘れてしまった少年の話だった。
「…何か、心につっかかったものがあったんです。この曲の話によく似ていて…。忘れてしまったんですけどね。」
リント君はそう言って、悲しそうな微笑を浮かべた。
「――かします。」
「え?」
「明日までにそのことを思い出すことが出来たら、レンカちゃんの部屋へ入ることを許可します。」
「え、そんなこと…」
「構いません。明日までにそのことを思い出すことが出来たら、です。思い出せなかったら部屋へ入ることは許しません。」
私は部屋を出ようとし、扉の前で立ち止まり、
「明日の午後四時。この部屋の前に来て。」








翌日。
「思い出すことが出来ましたか?」
「…はい。」
「何かは聞きません。十分間です。それまでに戻ってきてください。」
俺は、レンカの部屋に入ることができた。
レンカはベットに横たわり、スースーと規則正しい寝息を立てている。
レンカの手は冷たかった。それでもどこか暖かくて――
「…リント君、どうしたの?」
「起きてたのか?」
「今起きたの。それより、どうしたの?」
「アペントのミクさんに許可もらった。少し話し合おう。」
「うん、分かった。」
レンカが起き上がろうとしたので、俺は止めた。体に悪い。
「俺たちってさ、いつも一緒にいたよな。」
「うん。」
「時々喧嘩したりしてさ。」
「うん。」
「でもさ。結局次の日には仲直りしたよな。」
「…うん。」
「のくせにさ、お互いの具合の悪いときとかは全然気付かなくて。」
「うん。」
「だから、いつもお前に無理させちまって。」
「…」
「いつもゴメン。」
「…私は、リント君に助けてもらってるよ。話すときとか、すごく楽しいもん。」
「…そうか。」
「うん。」
「前にさ、大喧嘩したときあったよな。」
「数週間くらい続いてたよね。でもあれはリント君が悪かった。」
「…まぁ、そうだけど。」
「ふふ」
「そのときにさ、約束したよね。『これからは、迷惑をかけない。』って。」
「うん。」
「その約束さ、すっかり忘れててさ…。」
「私は忘れて無かったよ。迷惑はかけたけど。」
「その約束にさ、一つ付け足したいことがあって…」
「何?」
「『これからもずっと一緒にいる』駄目かな?」
レンカは、やわらかく笑って、
「いいよ。っていうか、いつものことじゃん。」
「これからは、俺が一緒にいて、レンカのこと護るから。」
「うん…。ありがとう」
そして、二人で目を合わせて、笑った。





アペントのミクさんは何も聞いてこなかった。唯一つ、
「きちんと話し合えましたか?」
それだけ。俺はうなずいた。ミクさんは、
「ならよかったです。」
微笑んだ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

約束 ―我が家のボーカロイドさんたちの中で、一つの誓いが生まれました―

こんにちわ。今回は、アペミク視線とリント視線でやって見ました。『約束の花』はいい曲なので、聴いてみて下さい!URLは解釈の方にありますので。メッセお待ちしています。

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投稿日:2013/03/30 20:45:37

文字数:2,460文字

カテゴリ:小説

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