『まじょとやじゅう』 その7

作:四方山 噺(のんす)





14 眠れる魔女と起きてる獅子



 状況が飲み込めないリンちゃんたちを尻目に、魔女のメイコさんの茶飲み相手をしていたのだ、とレンくんは語ります。さらっと。以下は例によって要約。


 いつものようにバナナを買いに農園へと向かったレンくん。街道をまっすぐ東に向かいます。

 道中はなにごともなく平穏。…とおもいきや、上空に何やら赤い飛行物体が。おもわず見上げて、手を振ってみます。

 するとそのアンアイデンティファイドでフライングなオブジェクトはするすると降りて来て、レンくんの前で着地しました。

 降りてきたのは、赤くてちょっと露出の激しい服を着た、しかしそれに負けないくらい綺麗なご婦人でした。手には、乗り心地よさげな鞍を搭載したほうき。

 聞くに、魔女とかいう一種のエンジニアの方だそう。


 レンくんも男の子ですから、エンジニアとかメカニックとか、そういうあれこれに憧れるのもむべなるかな。

 しかも、空を飛んでいたのは、手にしたほうきの機能で、さらになんと、それも自作だと言うではありませんか。

 これはもう、一度仕事場を見学させてほしい、と頼むしかないレンくん。

 仕事で煮詰まって散歩していたところだから、話し相手になってくれるなら、と快諾する魔女のおねぃさん。

 タンデムでほうきにまたがり、この森までやってきました。


 案の定、魔女のメイコさんの仕事場は、はちきれんばかりにワクワクを詰め込んだおもちゃばこのようです。思わず拝んでしまいます。

 それに気を良くしたのか、メイコさんはいろいろと不思議な道具を見せてくれました。

 こちらの命令を認識して働くちっさい人形とか、自律して動き、勝手に混ざって勝手に配られるトランプとか、そんなアレコレ。

 テンションあがりっぱなしのレンくんでしたが、そろそろ帰らないと、と思います。名残惜しいけれど…。


 それとほぼタイミングを同じくしてメイコさん宛に、伝書鳩でお手紙が届きました。

 どうやらご実家からのお便りだそう。なんとなく帰るタイミングを失うレンくん。

 メイコさんは苦笑しながら、ごめん、ちょっと待って、と言ってしばらく無言でお手紙に没頭します。

 ビリィッ! …と。

 突然手紙を破り捨てるメイコさん。ど、どうしたんですか? 驚いて問うレンくん。

 急所をえぐる一文でも手紙にあったのかつい我を忘れてしまったメイコさんは、レンくんの前でさらす醜態に気まずい感じがしたものの、答えます。

 二十歳も何年かすぎるとね、色々あるのよ、大人は…とだけ。


 そんなこんなで、意気消沈の極みにあるメイコさんを放っておけず、ここで付き添って代わりに家事やらをこなしていた。時間も遅かったから泊めてもらったんだよ。


 …とのこと。
 う~ん…。 心配かけて何考えてんの! と怒るべきなのか、 困ってる人を放っておかなかった弟を褒めるべきなのか、いまいち判断のつかないリンちゃん。…なんかもういいや。無事だったんだし。


 ミクさんは今の話に感情移入してしまったのか、かるくうるっときている様子。…泣くところありましたっけ?
 カイトさんは、戸棚に並んだお酒を見て回っています。
 リリィさんは相変わらずリンちゃんの肩の上でうとうと。飛ぶと疲れるんですかね?


 で、肝心のメイコさんは、というと、深酒してしまったらしく、朝から寝ていらっしゃるそうです。


 そういうことでしたら困りましたね。
 昨日メイコさんに何があったかのかは存じ上げませんが、弟がお世話になった方をほっといて帰るわけにも参りませんし…。


 …と、噂をすればなんとやら。メイコさんが起きてこられたようです。足音から察せられました。


 引き戸がスライドして、まだ多少寝ぼけてらっしゃるメイコさんが顔を出します。ルカさんと同じくヒト型のようです。


「レンくんおはよぉ…おみずちょうだい…」
 そしてずらりとガンクビを揃える皆さんに軽くびっくり。




 …ええと………こんにちは。
 …いえいえこちらこそ。



15 おかえりなさい



 以降の流れはとても簡単でした。ゆえに簡単に語りましょう。


 まず、苦笑しながら水を取りに行くレンくん。
 そこで、おや、珍しくカイトさんが率先して自己紹介と状況説明を行います。


 そして彼の目論見は正しく作用したのでしょう。
 メイコさんは同業のルカさんから、折にふれてはアイス好きのアルマジロのお話を聞いていたそうで、割と簡単に通じることができました。


 そして、弟さんを連れ出したようになってしまいすまなかった、と苦笑いを浮かべながらも、リンちゃんに本気で申し訳なさそうに謝罪するメイコさん。


 いえいえ、無事だったことですし、とリンちゃん。こちらこそ弟がお世話になりました。
 こちらこそ。いえいえこちらこそ。いやむしろ私がお世話になりまして。い~え、うちの弟こそが真にお世話になりし者。


 …などと不毛なやりとりに救世主、お茶を入れたレンくんが戻ってまいります。皆さんにはお茶、メイコさんには氷水。
 お茶請けに、と出されたのは、戸棚にあったらしいクッキーでした。


 そこでリンちゃんとミクさんが同時に声を上げます。
 そうでした、帰りにルカさん宅に寄ってご相伴にあずかる予定でした。お茶はともかく、クッキーで腹を埋めるのは考えものでしょう。


 とりあえず、クッキーは缶に戻してもらって、お茶だけで頃合いまで談笑。
 話してみると、メイコさんはずいぶん気さくで、ルカさんとは方向性こそ異なるものの、大人っぽい方のようで好感が持てます。
 ルカさんを『姉』としたら、メイコさんは『姐』でしょうか。印象としてはそんな感じ。


 …陽も落ちるころになって、メイコさんが例のほうきを使って送ってくださることに。
 さすがに一本のほうきに、五人と一輪(リリィさんです)はきついそうで、簡単に乗り方を教えて貰って三本に分乗。夕と宵のはざまを飛んでゆきます。
 リリィさんは、おもしろそうだからあたしも、と付いてくるようです。


 行きはあんなに苦労したというのに、帰りは半刻もかからずルカさん宅が見えてきます。


 ずっとそうしていたのか、頃合いを見たのか。
 ルカさんは玄関に背をつけたまま空を見上げています。どうやらリンちゃんたちの帰りを待っていてくれたようです。


 三本のほうきは、夜の黒を掃きながら降りてゆきます。
 ルカさんが、微笑みながら手元で小さく手を振ります。


 無事、着地した五人と一輪にこう言いました。



「おかえりなさい。 暖かいスープが待ってるわよ」



 その夜はみんなでそろって、ルカさんの手料理を食べました。

 リンちゃんがレンくんを叱り、レンくんは頬を掻き、ミクさんはネギのバター焼きに舌鼓を打ち、カイトさんはお酒に酔ってまるくなります。

 リリィさんは、リンちゃんの頭の上でルカさんにもらった栄養剤をちゅうちゅう吸って、リンちゃんたちをおもしろそうに見守っています。

 メイコさんはルカさんに愚痴を聴いてもらい、ルカさんはそれを慰めながら、穏やかに笑っています。


 今日は疲れました。とても大変な一日でした。
 でも、とリンちゃんは心の中でひとりごちます。
 

 でも、とっても楽しかった。素敵な出会いも、たくさんあった。
 いえ、今だってすごく楽しい、と。


 きっと、と思います。

 きっと、起きていられれば今日は終わらず、生きていられればこの喜びは絶えないのでしょう。




 だからリンちゃんは、姉の説教にうんざりしている様子の、困った弟に、心の中でこう付け加えます。

〝おかえりなさい!〟











(おしまい)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

『まじょとやじゅう』 その7(完結)   ※キャラ崩壊注意

 コラボ【遊スタ】でのふとした一言から書いてみました。

 童話っぽい世界観を取り入れた、メルヘンな小説です。

 少しでも楽しんで頂けたら幸いです。よければ読んでみてください。

 これでこのタイトルはおしまいです。
 読んで下さった方、ありがとうございました^^

閲覧数:186

投稿日:2010/08/31 20:47:07

文字数:3,270文字

カテゴリ:小説

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