『I am my beloved's. His desire is toward me.』





「今日から君の担当になる神威だ」



それは偶然か必然か。

教育実習としてやってきた学校で、私は先輩と再会した。



彼は私の高校時代の先輩。

私と入れ違いに学校を卒業し、私の入っていた美術部にOBとして度々顔を出していた彼。

何回か教えてもらったりしたんだけど、たった数回会っただけだから覚えてないだろう。

お互いに名乗っていなかったし、私は飛びぬけて絵が上手いわけでもなく平凡な生徒だった。


ここで再会できたなんて夢のような話だった。

まさか教師になっていたなんて思っていなかったし、もう会えないとも考えていたから。

喜んでるのはきっと私だけ。




先輩の授業を見学して勉強し、ときには生徒達に自分も教えたりして。

たくさんの雑用をこなして、生徒達と楽しく喋ったりして。


無邪気な生徒達を見てふと思った。

そういえば、私は恋愛をしたことがない。

幼い頃からそれほど興味もなかったし、気にすることもなかった。

子供の突発的な恋愛はただの『思い違い』。そう考えていたからすることもなかった。



だけど今はどうだろうか。

昔に比べれば随分大人になったとは思うけど、本当に自分の気持ちを理解できているとも思えない。

本当に興味がない?それはどうだろうか。





「明日で実習は終了だな」



数週間がすぎ、明日が実習最終日という日になった。

夜はもう一時をすぎ、残業で残っているのは先輩と手伝う私の二人だけ。



「ありがとうございました。とても勉強になりました」

「そうか。君に役立てたのなら嬉しいな」



互いに社交辞令を口に、てきぱきと片付けを済ませて帰る準備をする。

本当にこのまま終わっていいのだろうか。普段から何かを感じてはいた。

昔からずっと憧れだった。ずっと喋りたくてずっと近くに行きたくて。

その人が今、すぐ傍にいる。



「君は昔から、物事を最後までやり通していたね。何事にも一生懸命な姿、今でも変わってないんだな」



鞄を持とうとしたとき、彼がぽつりとそんな言葉を漏らす。

…昔から?今でも変わってない?

ずっと見ていてくれたの?覚えていてくれたの?何も表に出さず、ずっと指導者として私を?




「安心したよ。君がいい教師になるのを心から願ってるよ」



だとしたら。

ずっと見ていてくれたのならば、その先の未来まであなたに見ていてほしい。

私が学んでいく様を、これからもずっと。


なんだ。

そういうことだったんだ。




「――あの、私」


咄嗟に手を握って引きとめ、何事かと振り返った彼の瞳を見つめる。

伝えるんだ。後悔して泣き出してしまう前に。



「昔からあなたのことを――」



ずっと感じていた胸の感情は。

昔から大切に育ててきた、彼を尊敬する気持ちは。



「――ずっとずっと、恋い慕っていました」



“あなたをずっと慕っていたから”

そんな単純な、子供のような理由だけど。


全部、未来に繋がる、小さな恋の始まりだったんだ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【がくルカ】Respect

超短いし雑ですが。
どうもゆるりーです。

冒頭は旧約聖書『雅歌』第七章十節より。
『わたしはわが愛する人のもの、彼はわたしを恋い慕う』


今日は告白の日らしいので急いで書きました。
過去のお蔵入りのネタから「教師と教育実習生の恋」を。
なかなか見ないですよね。教育実習生も先生に恋したっていいじゃないかという勝手な妄想でございます。
あとルカさんに「先輩」って言わせたかっただけです。
私変態ですね。

とりあえずがっくんを先生にするのはとても楽しいです。
本当はもっとストーリー練りたかった。
でも時間がなかったっていうね。解せぬ。

閲覧数:620

投稿日:2014/06/01 21:29:06

文字数:1,336文字

カテゴリ:小説

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