部屋には窓から暖かい陽射しが差し込み、本をめくる音だけが静かに響く。
友人から借りた本が思いの外面白く、ミクオは時間があればそれを読書に費やしていた。

「文字を読むのも悪くないな」と考えながら、ページを進める。
そんな静かな一時を楽しむミクオであったが、それは長くは続かなかった。






―ドタドタドタドタッ!






騒がしい足音が近付いてくるのを、耳にしたミクオは大きな溜め息をつく。
その足音の主が、誰か察しがついていたからだ。
足音が止んで僅かな間の後に、扉が乱暴に開かれた。


「………」


開いた扉のそこに立つ足音の主は、黙ってミクオを強く睨み付けていた。
ミクオは手にある本を閉じ、冷静に視線を返す。



自分と同じ髪の色
自分と同じ顔立ち



身長と顔に残る幼さを無視すれば、正に鏡合わせの様に瓜二つである。


「兄ちゃん!オレのプリン食っただろ!?」


そう怒鳴り付けた少年―ちびクオは、目の前の兄により鋭くさせた視線を向ける。


「あー、悪い悪い。お前のだとは思わなかった」

「嘘つけ!分かってて食ったくせして!!」


冷静(適当)に受け流す兄に対し、弟は怒りを募らせるばかりであった。


「返せっ!オレのプリン!!」


ちびクオが近付いて掴み掛かろうとしたが、ミクオは弟の頬を片手で挟んでその進行を阻む。


「むぅ~~~っ!!」


ちびクオはもがきながら、ミクオの腕を振りほどこうとする。
だが腕力差があり過ぎてるためか、その抵抗は殆ど意味をなしていなかった。

そんな弟の様子を、ミクオは意地の悪い笑顔で眺める。
それはちびクオの怒りに、更に拍車を掛けた。


「ってかさ…お前、プリン一つでそんな怒んなよ」


ミクオは呆れながら、怒り狂う弟に目をやる。


「はっへあへは、へひまへほひへへ「何言ってんのかわかんねーよ」


このままでは会話すらままならないと判断したミクオは、弟の顔を手から解放した。


「あれは駅前の店でしか売ってない限定品なんだぞ!!」


手を離した瞬間に、至近距離から大声が放たれた。
予想していたミクオは耳を塞いでいたため、大きな痛手は負わなかった。

そこからはひたすらちびクオは、ギャーギャーと大声でミクオに怒鳴り散らした。
暫く聞き流していたミクオも流石に耐えかたねらしく、弟にデコピンを一発お見舞いして黙らせた。


「五月蝿い、男がプリン位で喚くな」

「………」


ちびクオは額を抑えながら、涙を浮かべた目でミクオを睨み付ける。
弟の目に浮かぶ涙が痛みからなのか怒りからなのか、ミクオには分からなかった。

面倒臭そうに溜め息を吐いて、目の前の弟を自分の前から横に退かした。
すっかり大人しくなった弟をよそに、ミクオは「出掛けてくる」と一言だけ残して部屋から出ていった。


「………兄ちゃんの、バカ」


ちびクオは静かになった部屋で小さく呟き、膝を抱えて顔を伏せた。










*











日は落ちかけオレンジ色の光が景色を包んむ頃、ミクオは袋を片手に自分の部屋に入る。
ベッドの上では、弟が横になって寝息をたてていた。
顔を覗けばそこに出来た涙の跡で、泣き疲れて寝たのが容易に想像できた。


「プリンがそんなに大事かね…」


呆れた声でそう言って、寝ている弟の側に座る。
起きる様子のないのを見ながら、ミクオは弟の髪を優しく撫でてやった。

その後に顔に残った涙の跡を、親指で軽く拭ってやる。
「う…ん~…」と小さな呻き声があがるが、起きる様子はない。


(普段もこうなら、可愛い気もあるんだけどな)


先程と違って生意気な表情はなく、子供らしい寝顔がそこにはあった。
ミクオは手にある袋を、寝ている弟の側に置いた。


「…悪かったな、勝手に食べて。これで勘弁しろよ」


そう言い残して、ミクオは静かに部屋から立ち去った。

少しして静寂が部屋を包む中、ちびクオの手が袋を掴み自分の所へ手繰り寄せる。
その袋をちびクオは大事そうに、抱き抱えた。


「………ありがとう」


そう呟いたちびクオの顔には、嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。














(素直になれなくても、嫌いじゃないんだよ)



ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【亜種】喧嘩をしても【ミクオ兄弟】

某所である方の生意気なミクオとちっちゃいミクオの絵を見て、「ミクオ兄弟の話を見てみたい」という事で書いてみました♪

初めての亜種だったので、扱いが難しかったですね(-∀-;)でもこうやって形になったのは、やっぱり楽しかったからですね(・ω・*)

ミクオ弟の呼び方を迷った挙句、結局「ちびクオ」に落ち着きました(ノ∀`)


●追記
書くきっかけになったイラストです♪(http://piapro.jp/content/kf0cmffzzua875le)
また近い内に、この二人で文を書いてみたいと思います^^*

閲覧数:202

投稿日:2010/09/18 21:47:23

文字数:1,785文字

カテゴリ:小説

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