向こう側の世界にいるキミ。

離れていても、ずっと一緒だな。












<<【鏡音誕生祭】キミの声をもう一度【小説】>>














雪がしんしんと降り積もる札幌。

今日もオレは、一人『仕事』をこなしていた。







「あ、レン。辛かったら休憩してね?無理はよくないから」

「わかってる。サンキュ、メイ姉」








オレ達『VOCALOID』は、歌を歌うのが仕事。

幼いころからずっと練習をし、そしてその練習の結果が実力に変わる。



この家に生まれた以上、『歌うことが仕事』と覚えなければいけない。

歌は好きなので嫌ではない。




歌うと、みんなが喜んでくれる。

歌うと、気分が晴れる。

歌うと、みんなが褒めてくれる。





みんなに歌を届けるために、喜ばせるために生まれてきたと思えば、すごくやりがいがある。

みんな、その言葉を胸に生きてるから。




でも、毎日『仕事』というのも問題がある。

いくら歌が好きだからといっても、毎日休みもなく歌わされたら嫌になるからだ。

昔、それでミク姉がトラウマになるような悪夢を見たこともある。

だから『仕事』もほどほどに。



オレもそうだった。昔は歌が大好きだった。

オレには、大事な『片割れ』がいて、そいつと二人で歌えたから。

『双子はいつでも一緒。喧嘩しても、会えなくても、ココロは繋がっている。』

そう信じてたんだ。



それでも、その大切な大切な人は、ある日突然いなくなってしまったんだ。

オレはそれがきっかけで、あんまり歌が好きじゃなくなった。

あいつがいないから。

あいつと、二人で歌えないから。






「レン、お疲れ。喉かわいたでしょ。何か飲むかい?」

「カイ兄。オレはいいよ」

「え?…そう」

「カイ兄のほうが疲れてるだろ?朝から仕事だったんだし」

「まぁそうだけど…」

「ま、そういうことで」






オレは荷物をまとめ、立ち上がった。

そろそろ帰ろう。









「ん?レン君、そろそろ帰るのかい?」

「はい。もう仕事が終わったので」

「速いねぇ~…ね、うち寄ってって?」

「なんでですかマスター」

「いいじゃぁん減るもんじゃないしぃ」

「嫌です、嫌な予感しかしません」

「レンきゅん冷たいぃーううぅー」

「黙っててくださいうざいです」ザスッ

「おおぉ…酷いよレン君…冗談なのに…」

「オレ帰るんで」








若干うざいマスターの足の筋を蹴りあげ、オレはスタジオを後にした。

帰りはタクシー拾うかバス乗るかのどちらかだな。





建物を出て近くのバス停に向かう。

そこには、ちょうどバスが止まっていた。




バスに乗り、座席に座る。

ここからクリプトン家まで、かなりかかる。

ゲーム持ってきたっけ?


…持ってきてなかった。



なんだ、と思いもたれる。

疲れていたのか、眠くなってきた。

乗り過ごさないようにしないと…










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とある会場。

そこにオレはいた。



「みんなー、私たちのライブにようこそー!!」



ミク姉が言う。

そう、この日はクリプトン家のメンバーのライブだったのだ。




「リン達の歌を聞いて、ゆっくりしていってね☆」




リンもウインクをして言う。

会場の中は、ファンの熱気に包まれていた。




「ほら、レンからも何か一言!」

「え、オレも!?」

「ほら、そこで隠れファン達が応援してるよ?期待に応えないと!」

「どう見ても隠れてねーだろ!」

「というわけで、鏡音レンさんでしたー」

「おいっ!リンてめーまとめるの早すぎだろっ!」

「あははー」





でもまぁ、これがリンだもんな。

やっぱり憎めないよ。




「というわけでー」

「ミク姉、どういうわけだよ!?」

「まぁまぁレン君。長話もなんなんで、ファンの皆様に早く聞かせましょう!」

「え?…あぁそうだね、ごめん」

「というわけで、さっそく一曲目行きたいと思いまーす!」




ミク姉はまとめるのがうまいな。

やっぱできる人は違うなぁー…







最後の曲は、オレ達の誕生日が近いということで、オレとリンの新曲を歌う予定だった。




「いよいよ最後の曲になりまーす!」

「最後は新曲です。聞いてください!」

「おおいに期待しちゃって!もんの凄いから!」

「リン、ハードル上げないで?」

「ほんとねー、今までのリンがちっぽけな存在に見えるほど!」

「リ、リンー?あの、ちょっと…」

「地球がひっくり返るくらい凄い曲だかんね?」

「それはハードル高すぎだろ!?すみません、そんなに凄い曲じゃないです」




そんなかんじで、リンとコントらしきMCをしていた。

ここでMCは終わりにして、リンと歌うはずだった。

はずだったんだ。




「まぁMCはここで終わりにしてっと。」

「うんぜひそうして」

「リンとレンの曲…聞いてください!」

「題名は、せぇー…」

「…!?……の………」






その時、突如リンが倒れた。





「え…リン…リン……?おいリン!嘘だろ!?リン、リン!!応答しろ!!!」

「リンちゃん!?」

「リン!!」












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「!?」




ドアが開く音で目が覚めた。

なんだ、夢か…



窓の外の景色をうかがうと、まだクリプトン家は遠い場所だった。

時計を見ると、バスに乗ってから23分経過していた。

乗り過ごしてはないな。



鞄を探り、携帯音楽プレーヤーを取り出す。

イヤホンを耳につけ、音楽を再生する。


聞いている曲は、あのライブの時オレとリンが歌うはずだった曲。

ライブの前に録音していて、すでにオレの携帯音楽プレーヤーに入っている。



あれから二年。

あの後、リンは助からなかった。

原因は「心臓発作」。


その日から、オレは歌があまり好きじゃなくなった。

リンが居なくなり、リンと歌えなくなったからだ。



イヤホンから、リンの声が聞こえる。

オレの片割れの、大切なリンの歌声。

もうこの声は、本人から直接聞くことはできない。



ボーっとしていると、いつのまにかバスは目的地に着いていた。

やべ、降りないと。










「…ただいま」

「おかえり、レン君。メイコ姉とカイト兄は?」

「まだ仕事。ルカ姉はどこへ?」

「夕飯の買出しに行ったよ。あとレン携帯忘れてたよ」

「あ、ごめん」




自分の部屋に入り、パソコンの電源をつける。

インターネットでゲームの攻略方法を調べようと思ったからだ。


…と、PCメールがきている。

誰だろう。グミか、がく兄か。



開いてみると、こんなメール。



[レン、久しぶり]



はて、誰だろう。

なんだ?この変なメールは。


アドレス帳を確かめる。

ミク姉じゃないし、メイ姉でもない。

ルカ姉でもないし、カイ兄でもない。

がく兄もグミも、他のVOCALOIDの皆も違う。

じゃあ誰が?


アドレスを見直してみる。




[ Kagamine_Rin]




あれ?おかしいな。オレのメアドだ。

ん?まてよ?



Kagamine…Rin?

リン?




あれ?

なんで?

これ…リンのアドレス…





ためしに、返信をしてみる。



[きみは誰?]



返事は、すぐに返ってきた。



[忘れちゃったの?リンよ、リン]



…リンの口調。

リンの一人称は『リン』。

リンは自分のことを『私』とはいわない。


誰かがなりすましている?


…と、また一件。



[そんなに疑うの?だったら、鏡を見てみて]




鏡、だと?



オレの部屋には、わりと大きめの鏡が一つある。

昔、ミク姉たちがプレゼントでリンとオレに一つずつくれた。

(たぶん、『鏡音』だからだと思う)

この鏡を見るとリンを思い出してしまうので、基本的には布をかけて何も映らないようにしている。

だが鏡を見て何になるというのだろう。


そう思い、布を取ってみた。

そこに映っていたのは、



『…久しぶり、レン』




二年ぶりに見る、片割れの姿。



自分によく似た姿。

頭のリボン。

オレより少し小さい身長。


何度目をこすっても、何度夢だと思っても、そこには間違いなく双子の姉である『鏡音リン』が映っていた。

あの日、消え去ってしまったリンの姿が。




「なんでリンが…?」

『えへへ。レンに会いたかったの』




もう聞こえないはずのリンの声は、オレのインカムから聞こえてくる。

メールは届いていない。




「ていうか、なんでこんなことできるんだ?魔法か何かか?」

『声は、リンのインカムを‘‘こっち側’’からレンのインカムに通信をしてるの』

「こっち側?どういうこと?」




リンの言っていることが、よくわからない。




『レンから見れば、鏡にはリン以外にもアンプとかパソコンとかいろいろ映ってるでしょ?』

「あぁ」

『それが‘‘こっち側’’…鏡の世界。私から見れば、鏡に映ってるパソコンやレンは‘‘現実の世界’’なの』

「なるほど…」

『で、こっちの世界のパソコンで、リンのアドレスからレンにメール送ったの』

「はぁ…」




よくわかんないけど、そういうことで。




「で、なんで会おうと思ったんだ?」

『あれから、レンはずっと落ち込んでるでしょ?私のせいで』

「いや、リンのせいじゃないけど…」

『でも、私がいなくなってからずっと、レンはうまく歌えてない』

「…」




…それは事実だから否定のしようがない。




『それで、なんとかしたいなーって思って、この方法を思いついたの』

「だからこうしたのか」

『うん。あとはレンと、あの歌…歌いそびれちゃったし、もっとレンと話がしたかったの』

「ずっと、ずっと考えていたのか。二年間も、ずっとオレのことを」

『うん。だってレンは、私の大事な弟で、もう一人の私なんだから!』

「リン…」

『こうすれば、いつでも会えるでしょ?』

「あぁ」



そっか。そうだったのか。

ありがとう、リン。




『あと、いろいろ試したんだけどさぁ…』

「うん…ってリン、何みかん食べてるの!?」

『あぁ…だってそこにあったし…』

「そう…続けて」

『うん。で、この方法を使ってレンに会えるのは、この鏡だけみたい』

「なんでだろ?この鏡が特別なもの、だからかな?」

『かもしれないね』




それから、オレとリンは今までのことをいろいろ話した。

オレはルカ姉が塩一キロどかっと買ってきたとか。

リンは、あっちの世界で、折り紙でミク姉が折れるようになったとか(器用すぎて言葉を失った。めっちゃ似てた)

そんなリンとの会話は楽しくて、いくらでも話せるような気がした。




「レン君ー、ごはんよー。」

「あ、はーい」




いつのまにか帰ってきたのか、ルカ姉の声がする。

よく聞くと、メイ姉とカイ兄の声もする。みんないるのか。




「ごめんね、リン。行かなきゃ」

『いいの、待ってるから。私はせんべい食べてるね』

「ご飯食べなくていいのか…?」

『もうとっくに食べたよ。』

「そう…じゃあ行くね」

『行ってらっしゃい。戻ってきたら、話聞かせてね』

「うん」





オレは鏡のリンに手を振り、部屋を出た。

キミの声をもう一度聞けてよかった。

ありがとう、リン。これからは、いつでも会えるな。



鏡を通してでしかもう会えないけど、ずっと一緒…だな。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【鏡音誕生祭】キミの声をもう一度【小説】

「鏡の向こう側に、消えたキミがいる」


よくわからない設定。

閲覧数:926

投稿日:2011/12/03 11:30:10

文字数:5,108文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    いや、よくわからなくない設定!
    そうか、鏡の世界か……ふむ

    たぶん、ゆるりーさんが見せたいところとは違うかもしれないけど、私的にはバスの中の描写が素晴らしすぎると思う
    ほんと、この辺の力が私にもほしい

    2013/06/27 02:43:33

    • ゆるりー

      ゆるりー

      リンレンは、双子以外にも鏡に映った自分とか、そういう設定も(非公式で)知られているので。

      バスですか。ありがとうございます!
      (´・ω・`)

      2013/06/27 17:54:36

  • ジェニファー酒井さん

    ジェニファー酒井さん

    ご意見・ご感想


    ゆるりーおひさしぶりーッ

    いやぁ、ゆるりー!
    こんな切ないお話、
    君にしか書けへんよー!

    文才ありすぎやああああああry

    ぶくまいただき^^

    2011/12/05 13:31:39

    • ゆるりー

      ゆるりー

      ジェニファー酒井さん、お久しぶりです。
      メッセ&最後まで読んでいただきありがとうございます。

      せ つ な い … ?
      ありがとうございます。
      いえいえいえいえいえジェニファー酒井さんも書いてますよね、ちょっと切ないぽルカ。
      胸がキュンときますよね。
      それと私以外の方が書けます、切ないのは。

      文才は私には無いです。

      ブクマありがとうございます。

      2011/12/05 17:17:27

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