あの人の笑った顔が好きだ

アイスを食べてる時の緩みきった顔 とか
メイコ姉に目茶苦茶な注文をつけられた時の苦笑 とか
オレら年少組の仕出かした悪戯の被害を被った時の困りきった笑い方 とか
言動の端々で生まれる笑み だとか

全部全部ひっくるめて、あの人の笑顔が好きだ

 あの人が 好きだ


「…って何考えてんだよ、オレ」

散歩の途中でたまたま見付けた空き地。
具合良く転がっていた木片に腰掛けて、気付けば結構な時間が経っていてしまったらしく、晴れ渡っていた空は雲で覆われ、辺りは薄暗くなってきていた。

嫌だな、と思う。
天候に文句を言うのもどうかと思うのだけれど、今日の綺麗だった青空が見えなくなってしまったのは、本当に嫌だなと思った。

あの人の、サラサラとした指通りの良さそうな青い髪に似た
(想像だけどな。だって触れたことなんてない)
慈しみに溢れてやわらかく緩む蒼い瞳に似た
(こっちは実像。いつも見ているから。あの人はオレらキョウダイを本当に大切にしているから)
そんな空だったから。

だったというのに、灰色に曇ってしまっていて、すごくイヤだ。
黒が濃く薄く入り混じっているこの空は、グチャグチャなオレの心中みたいで、
(オレがカイト兄を汚してしまったみたいだ…)

そんな馬鹿みたいなことが頭をよぎった瞬間、地面に雫がポタリと落ちた。
強くなる雨はあっという間にオレを濡らして、
頬を流れる水滴はナミダが流れているみたいだ。

それとも本当に泣いているのかな。
もうわからないや…

傘なんかもちろん持ってなかったから、叩き付ける水滴に身を任せて。
びしょ濡れなんて表現じゃあ足りない位に濡れてしまった。
熱を奪われ冷えていく身体が雨に同化していく様だった。

(あぁけれど、このまま消えてしまうのもいいかもしれない)

だって最近のオレはおかしい。どんどんおかしくなっていく。


カイト兄が好きで堪らない。好き過ぎてどうかなってしまいそうだ。

「早く…帰らなくちゃ…な」
こんな事を考えているくせに、口から出るのは別の言葉。

だってあの人は、キョウダイを愛しているから。
早く帰らないと、今頃きっともの凄く心配している。

だから、冷えて強張る身体をギクシャクと動かして歩き出す。

家に帰り着いたら、びしょ濡れのオレを見てカイト兄は面白いほど慌てるんだろうな。
早く暖かくしないと風邪引いちゃうよ、なんていう声まで浮かんでくる。
それにオレは、んな軟じゃねーよって返すんだ。
オレを心配する顔も、オレの言葉に苦笑する様もた易く想像できる。

想像の中ですらその顔は俺の心を抉る。
それはキョウダイに向けるものだから、オレの欲しいものじゃないから。
あの人がオレに向けるのは、オトウトとしてのオレに対する愛情。
オレがあの人に求めているのは、鏡音レンという個人に対する愛情。

心がイタイ。

求めても求めても得られない愛にココロが痛む。
与えられているその愛に胸が痛む。

(あなたが見ているのがオレだけじゃないことがイタイ)

ズキズキとココロが痛みを訴えるたび、八つ当たりに似た感情がオレを支配する。

――そう、ニクイ、と…

何でだろうな…何でオレはこんな風になっちまったんだ?
こんなに、カイト兄を好きになっちまったんだろう?
オレじゃなくなっちまったみたいだ。

オカシイって判ってる…でも、あなたを死ぬほど、アイシテル。

 もうイヤだよ。苦しいよ。
雨が周りの音を奪っていく。
 あなたはドウシテ…
正常な思考も雨音、それともこれはノイズか、に消されていく。
 ドウシテ、オレを
もう、ナニも聴こえない。
 オレだけを見てくれないの―…
聴こえるのはウチから響く誰かの声。
 オレだけ見ててよ 見ててくれないなら
誰か?チガウ、これは…
 こわしてしまおうか?
オレの声……?


思考が深く落ちてしまっていても体は忠実にオレを家へと運んでいたようで、気付けば見慣れた通りまで来ていて。

慣れ親しんだ風景にハッと我に返る。

オレは何を考えていたんだ!?
あの人をこわしてしまう? なんてことをオレは…

もう駄目だ このままじゃオレは  あの人を傷つけてしまう

そうなる前に誰か、 オレを止めて、消し去って!!

誰でもいいんだっ!!

ふらふらと歩いて、家の門までたどり着いて、ゆっくりとそれを開ける。

どうしよう。帰り着いちゃったけど、今あの人にあって大丈夫かな?
この気持ちに気付かれないかな?
いつものようにキョウダイとして笑えるかな?

ぐずぐずと悩んでいると玄関の戸が開いた。
きっと門の開く音が聞こえたんだろうな…。

とか考えながら顔を上げると、目に入った鮮やかな青。

「レン君!?何やってるの!?早く家に入って暖かくしないとっ」

焦ったように言うとカイト兄は雨の中に飛び出してきて、オレが戸惑っていた数歩の距離を容易く埋めた。

「レン君?大丈夫?」

ぼんやりとして、反応を返さないオレを不審に思ってだろう。
カイト兄がオレを覗き込んだ。

澄んだ青がうつしたオレは…酷い顔をしていた。

生気をなくした瞳、ぼんやりと表情をなくしてしまったオレ。


それを見た瞬間、プツリと何かの切れる音が聞こえた気がした。
ガクリと膝が折れる。視界がかすんでいく。

「レン君!?……レン!!」
カイト兄の声が遠のく。


「カイ、ト…兄…助けて」

もう オレは あなたの側に  いられない


そのままオレの意識は深く、闇へと沈んだ。


END

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

オチテユク

レンオリジナル曲の『ヤンデ恋歌』を聴いて、みなぎった勢いで書いたものです。
これが記念すべき初投稿ってどういうことのなの自分(・ω・。)


ところで、こういった曲をモチーフにした作品は原作者様への連絡がいるのでしょうか?
良くわからないまま投稿してしまったのですが・・・
わかる方がいらっしゃったらコメントしていただけるとありがたいです><

閲覧数:264

投稿日:2009/12/23 01:44:29

文字数:2,310文字

カテゴリ:小説

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  • 茶猫次郎

    茶猫次郎

    ご意見・ご感想

    レンカイ大好きですww
    萌えのどつぼの小説でグッ☆ときました!
    次回作ものすごく楽しみにしてます!!

    2010/05/05 21:46:20

    • 慧兎

      慧兎

      >茶猫次郎様
        メッセージありがとうございました!!めちゃめちゃ嬉しいです(≧∀≦)
        次回作・・ちょっと滞ってますけどレン君幸せにしたい願望もあるんでがんばります!

      2010/05/08 23:20:20

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