「ちょっと遅いわよ男!」
「るせえな、お前らが速いんだろうが」
「お前はゆったり歩きすぎだマク」
「私たちもゆっくり歩きますから…」
そんなバラバラの会話が飛び交う午前10時頃。
彼ら、柔音クルリ、舌尾マク、銀音カナデ、罵声アビスは珍しく4人で外出していた。
映画を見たいと言うクルリの提案で始まった外出は、あっという間に4人ともバラバラになってしまっていた。
先導して先を歩いていくクルリに、悪態を吐くマク。そんな彼にピシャリと一言いうアビス、クルリの後を歩きながらも忙しなく後ろの二人の機嫌を伺うカナデ。
こうも性格が違うというのも珍しい。
「そもそも、なんで映画なんて見に行くんだよ。再放送で十分だろうが」
「あんた映画館で見る楽しさを知らないのよ!それにあんたなんかを誘ったのだって4人以上から安くなるからなの!」
「んだとテメっ、友達いねーのかバーカ!」
「なんですってぇ?!」
いつの間にか再びクルリとマクの口論が始まり、どちらかと言うと保護者組のアビスとカナデはため息を吐いた。
「まあまあ、喧嘩してないで楽しく映画見ましょうよ」
「カナデ君の言う通りだ。静かにしろ。置いていくぞ」
立ち止まってまでくだらない小学生のような口論を続ける彼らを背にアビスはスタスタと映画館に入っていく。
それを追うようにカナデも映画館に消えれば、マク達は慌ててそれを追いかけた。
入った室内は休日ということもあり、中々の人数で賑わっている。
十数人ほど並ぶチケット売り場に並べば、マクが映画のタイトルが並ぶ売り場の上の電光掲示板のようなものに目を向ける。
しばらく見つめたあとに、何かに気づいて眉を上げてクルリに視線を切り替えた。
「なあ、そう言えば何見るんだよ?」
「そんなのアレに決まってるでしょ?」
クルリがさも当然のように指差した先には、洋画のラブストーリー。カナデは分かっていたし、アビスも納得したような顔をしている中、マクだけは眉をしかめて酷い形相で固まっていた。
クルリはそんな彼の様子が気に入らないようで、、キッと眉を吊り上げる。
「何よその顔!」
「んな他人の色恋沙汰見てる暇あんなら男作れってんだ」
「ちょ、アイツ浪漫も何もないわよ!カナデ!」
「まあ、男の人はあんまり興味ないかもね…」
「どんなジャンルでも楽しめるのが大人だ」
「てめ、俺が餓鬼っていいてえのか?」
朝からずっと喧嘩腰のマクの腰に一発膝蹴りを食らわせると、アビスは五月蝿い、と一言いった。
意外に痛みが強かったらしくマクは腰を抑えて無言になる。
「あの、アビスさん、本当にあの映画でいいですか?」
「ん?君たちが見たいんだろう?」
「いや、見たいですけど…。あんまり見たくないのを無理やり付き合わせちゃっても悪いかな、とか」
さっきから少し口数が少なかったのはそれをずっと考えていたからだろうか、と何となく思いながらアビスは首を緩く振った。
「いや、マクは何にしろ、俺は大丈夫だ。普段見ないものをみるのもいいかもしれないからな」
「そうですか」
「なーにカナデちょっといい雰囲気じゃない」
そんな会話をしていたらマクが押し黙って暇になったのかクルリがカナデの背後で小声で呟いた。
その突然の言葉に、ひゃあっ!と悲鳴を上げいかり肩になってしまったカナデをヒッ捕まえてクルリは楽しげに笑う。
「びびびびっくりするじゃない!」
「もう言っちゃえば?」
「ば、馬鹿!そんなのクルリちゃんもでしょ!」
「あ、あたしはいいのよ別に!」
なんて似たり寄ったりのガールズトークをしている間にマクは復活して、並んだ列も大分前に来ていた。
前方のカップルがチケットを買えば、店員は人の良い笑顔でどうぞ、とマク達に声をかける。
クルリが人数分頼んで買ったチケットを見ればまだ上映時間まで少しばかり時間があった。
取り敢えず化粧室に行きたいと言う女性陣に、男性陣が了承すれば早々と二人は化粧室へと駆けていく。
女の子たるもの、髪型や化粧はチェックしないと気がすまない。
「はあ~、もう緊張するよー」
「何いってんの!これからでしょこれから!」
「クルリちゃんはなんだかんだでマクさんと話せてるでしょ?アビスさんとは何話したらいいか、テンパっちゃって…」
「何で?あんた結構話してるじゃない」
「内心すっごく緊張してるの」
鏡を前に手櫛で髪を整えながらそんな会話をする二人。
なにやらひそひそと背後で話している声が聞こえる。
なんとなしに聞き耳を立てれば、少し鮮明に聞こえるようになった声。
「あれ、テレビで――」
「カナデちゃんとクルリちゃん―…」
「何でこんな所に?」
どうやら芸能人だと気づかれたらしい。
まだ二人はアイドルといっても新人。やっとテレビにも出るようになった頃なのに、もうそこそこ知っている人間もいるらしい。
やはりテレビの力は膨大だ。しかしそうともなればとくに二人を知らなくても騒ぎを駆けつけてくるやつはいるもので。
各スクリーンに入ってしまえば一先ず安心だろう。早めに出たほうがいい、そう二人は思って足早に化粧室を出る。
知名度が上がったのは嬉しいことだが、やはり今日ばかりはゆっくりしたい。
彼らが待っているであろう休憩所に行こうとしたとき、不意に足元が誰かの影で暗くなった。
「すっげ、クルリちゃんにカナデちゃん。本物だ!」
「やっぱ実物のがかわいーね」
男数人が二人の行く手を阻むように立っていた。
恐々と男を見上げるカナデに、強気に睨み付けるクルリ。
そんな様子も男たちには関係のないようで、一人が遠慮もせずにカナデの肩を掴んだ。
「やっ…、」
「ちょっと!カナデに気安く触んないでよ!」
「いーじゃん。奢るからさ、どっか食べにでも行かない?」
初めは軽いナンパのようなものだと思っていたら、存外、中々しつこそうな男たちに周囲にいた女性たちは離れたところで見守っているばかりだ。
クルリの手首も掴まれて、振り払おうにも中々上手くいかない。
「クルリちゃんを放してください!」
あまりのしつこさに少し焦りを覚え始めたその時、目の前の男の左肩を誰かの手が掴んだ。
そのまま、ミシミシと音がするほどに肩を握り締めれば男は声を上げてクルリから手を離す。
カナデの肩を掴んでいた男は、その手首をギリギリと掴まれていた。
「いっでぇっ、何しやがんだ!」
掴まれた肩を抑えて、目じりには涙を溜めながら男は自分の肩を掴んでいたマクに怒鳴った。
マクの眉間の皺が深くなる。
男の手首をひねりながらアビスはマクの眉間の皺にこの後の事態を想像してため息を吐いた。
「…何しやがんだはこっちの台詞だ馬鹿野郎が!!テメエらがこいつらにうだうだうだうだ構ってっから俺様がずっと待たされてんじゃねえか!ああ?!」
ふざけんじゃねーよ!!と吼えながら男の胸倉を掴みがくがくと揺さぶる。
頭が激しく揺れ、既に男は軽く伸びていた。
だがマクはその手を止めない。
「マク、もういいだろう。その辺に…」
「大体な!そこの桃色クルクル女は顔はちいーっとマシかもしんねえけど性格激悪だぞ!止めとけ!」
「ちょ!あんたどっちの味方なのよ!!」
「俺様は俺様の味方だ!」
アビスがそんなくだらない会話に気をとられていると、男はカナデの腕を掴む。
「マク!もう彼らを痛めつけてもしょうがな…」
「じゃあさ、カナデちゃんだけでも遊びにっでででででで!!!」
カナデをどうしても諦め切れないのか再度口説こうとした男の手首を限界までひねり上げるアビスは、薄ら笑いを浮かべていた。
その彼の姿にマクは手を止めて青ざめる。
「…やべ、キレてる」
「あででででで!!悪かった!もう帰るからよ!放しっいだだだだ!!!」
「お前のような愚民の吐く言葉など信じると思うか?二度とその汚い手で彼女に触るな。これは命令だ。分かったな?」
「…はい」
男がそう言って、仲間と逃げていくのを見ていたが、思い出したようにカナデを振り向く。
「無事か?怪我はないか?」
「あ、はい。あ、ありがとうございます…っ」
「つーかよ、とっとと映画いこーぜ(アビスこええ…)」
「あんたもあれくらい優しい言葉かけなさいよ!クルクル女とか言ったでしょ!」
「言ってねーよ空耳だ空耳」
「言ってたわよ!!このオレンジハゲ!!」
「はっ?!はげてねーよ!バッカじゃねえの?!」
「そんなずっと前髪上げてたらいつかおでこからはげるんだから!」
「…はげる」
「し、心配しなくてもアビスさん達は大丈夫ですって!!」
そんなこんなで、何とか映画を見ることになった4人。
相変わらず進展しないクルリ達と、少し進展しつつあるカナデ達。
まばらな反応をしながらも、チケットに書いたスクリーンの場所へ歩いていく。
女の子二人はちょっぴり嬉しそうだった。
コメント3
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ご意見・ご感想
チャバ
ご意見・ご感想
由希ちゃん
由希ちゃんも王道好きかい!
いいよね、王道ww
やっぱり分かりやすいのが一番だ@
アビスはすっごい怖いよww
確かにカナデちゃん出すのに緊張してたww
わかった後編はもっとリラックスして書く!
ありがとう><
私も由希ちゃんの文の雰囲気好きだぜぇ!←
大丈夫!マクは殺さない。
たぶん好きだとしても全然気づいてないねww
ありがとう!カナデちゃんにつりあうようにがんばるよ!!
猫ちゃん
いいねえ。青春だねえ←
展開速いww
夫婦か…、いいひびきや←
アビス楽しいw
切れアビス楽しいよ!!w
2009/09/28 20:54:00
黒猫
ご意見・ご感想
Wドゥェートだね?わかります←←←
甘々やないかいっ(´∀`〃)!
なんだ、恋人通り越して夫婦になっtry←←←
アビスがアビスがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!←黙
かっこよすギル( ̄w ̄)ξwww
よし、皆まとめてうちの子になろうか(爆)
2009/09/25 21:45:16
由希@時間がなければ余裕もない
ご意見・ご感想
か…かっわええ…!なんか少しずつ進展してる!?
昔の少女漫画とか、王道大好きな人間にはたまらないものがあります。
女の子かわいいよう。男の子格好良いよう。
そしてアビスさんは怒らせてはいけないという。うん。怖い。笑
若干カナデ贔屓に書いてくれてるような気がするんだけどいいのよ!?
もう人キャラとか思わないで書いちゃってください。
チャバさんの文章の雰囲気だいすきだ。みんなあったかいよ。
クルリちゃんをナンパしたいけどマクさんに殺されそうなのでやめておきます。←
チャバさんの描くクルリちゃんは可愛いよっ!ブクマの皆様も勿論素敵だけど!
2009/09/25 02:45:18