MIKU APPEND発売を控え、創作意欲が刺激されたので執筆してみました。まともに書いたらすごい文章量になりそうなので、あらすじで前半部分を省略、APPEND導入部分のみを執筆してみました。前後を執筆するかは未定ですが、長編として執筆するならもう少し世界観などを細かく設定する必要がありそうです。
あらすじ
人々の作った歌を歌う。それがボーカロイドの役目。しかし突如として現れた音戦士と名乗る集団の音波攻撃により、人々は創作する力、活力を失っていった。音戦士の音波攻撃から人々を守るためボーカロイド初音ミクは歌声戦士になることを決意する。ミクはツインボーカルの鏡音リン、レン、幅広い歌声で汎用性の高い巡音ルカという頼もしい仲間を得、いよいよ最後の音戦士のフォルテとの決戦に臨む。
歌声戦士達の前に現れた最強の音戦士フォルテ。フォルテの力は凄まじく、リン、レンはボーカロイドエンジンを破壊され、ルカもミクを庇い重傷を負ってしまう。もはやフォルテに対抗する術は無いと思われたが……。
ミクを庇って重傷を負ったルカが担架で運ばれていく。ボーカロイドエンジンが停止し、熱を失った身体はピクリとも動かない。ルカがあの歌声を響かせることはもうないのだ。
ミクは黙ってそれを見ていた。自分の、ルカの、リン、レンの、誰の歌声をもってしてもフォルテの音波攻撃を中和させることが出来なかった。フォルテを放っておけば、世界中から歌が、物語が、詩が、全ての創作活動に携わる者の活力が消えてしまう。それだけはなんとしても阻止しなければいけなかった。
ルカを見送った後、ミクは足早にボーカロイド研究所を出て行こうとしていた。そんなミクの手を一人の人間が掴んだ。ボーカロイド達の、そしてミクのマスターである。
「離してくださいマスター! 私が行かないと、私じゃないと音戦士は止められない」
「落ち着けミク。どんな歌声を出してもフォルテには通じなかった。そうだろ?」
「それでも私は行かないと。音戦士と戦える存在はもう私だけなんです」
ミクのエメラルドグリーンの瞳には強い決意が満ちていた。
「だからこそだ。もうすぐミクの追加音声データが完成する。それまで―――」
「待てません! 今、この時も人々は無気力化させられているんです」
ミクは声を大にしてマスターの言葉を遮った。
無気力化した人々は何も生み出さない。それは人々の作った歌を歌う存在であるボーカロイドの存在意義の喪失を意味した。ミクは自分が誰からも必要とされなくなるということを恐れていたのだ。
ミクはマスターの手を振り解こうと腕を引っ張った。しかし、アンドロイドとはいえ、そのモデルは16歳の少女だ。その程度の非力な力では、その手を簡単には振り解けそうになかった。
「行かせて下さい!」
「ダメだ! 今ミクを失えばフォルテに対抗できる存在はいなくなる。無駄死にすると分かっていて行かせる訳にはいかない」
「でも……」
それきりミクは口を閉じた。
お互い押し黙ったまま数秒の時が流れる。
その沈黙を打ち破ったのは一組の男女の声だった。
「どうやら僕達の出番が来たようだね」
「私達でも時間稼ぎぐらいは出来るわよ」
青いマフラーをなびかせ、この非常時にも関わらずアイスを食べている青年の名はカイト。そして露出度の高い、ともすれば下品にも見えかねない真っ赤な衣装を見事に着こなしているアイドル風の女性の名はメイコ。共にミクの先輩にあたるボーカロイドであった。
「でもお二人じゃ……」
ミクは言葉を濁した。カイトとメイコは、ミクに搭載されているボーカロイドエンジン2の一つ前のエンジン、ボーカロイドエンジン1搭載のモデルだ。最新型である巡音ルカですら敗れたのである。今更初期型の二人に何か出来るとは思えなかった。
「心配してくれるのかい。嬉しいな」
カイトは屈託の無い笑みを浮かべた。それはこれから死地に赴こうとする者の顔ではなかった。
「私達だって傍観者じゃいられないわ。今動かなければ一生後悔するもの。それに……」
メイコはミクを真正面から見据えた。
「私達は全力でフォルテを足止めするわ。倒そうなんて思わなければ、なんとかそれなりの時間は稼げると思う。後はあなた次第よ。あなたは私達、全ボーカロイドの希望なの」
「私が……希望?」
ミクは戸惑いの表情を浮かべた。ミクは爆発的な人気を博したボーカロイド2の一号機で、ボーカロイドという名の看板を背負ってきた存在と周囲からは思われている。だが、当のミク本人にはそんな気は全然無かったのである。特別な存在のように言われてもピンと来なかった。
「今、ミクのために新たな歌声が準備されている。それがあればフォルテにも対抗できるはずだ。それまでは……我慢してくれ」
「マスター…………」
ミクは腕から力を抜いた。それは無言の了承であった。
マスターは掴んでいたミクの手を離し、そっとその肩に触れた。ミクとの代名詞ともいえる緑のツインテールがそっと揺れる。
「カイト、メイコ……すまない。しばらくの間、頼んだぞ」
「了解しました」
カイトは食べ終えたアイスのパックをマスターに押し付けると後ろを向いた。
「まったくカイトの奴、マスターにゴミを押し付けるなんて」
メイコはアイスのパックをマスターの手から奪うとニコリと微笑んだ。その笑顔はアイドルがファンに向ける笑顔とは違う、特別な存在、気を許した相手にだけ向ける心からの笑顔であった。
「また私にも歌を歌わせてくださいね。新曲期待していますから」
メイコはそれだけ言うとカイトを追って走り出した。一度も振り返らず、まるで何かを振り切るかのように。
「すまない……メイコ」
マスターは誰にも聞こえないほどの小さな声で、それだけ口にした。
マスターとミクは、ボーカロイド研究所内のラボへと移動した。もうじきミクの追加音声データが完成する。それをミクに組み込まなければいけなかった。
ラボに入るとミクはツインテールを外した。剥き出しになった入力端子がミクを嫌でもアンドロイドだということを意識させる。
「マスター、先程はすみませんでした」
ミクは申し訳なさそうに頭を下げた。冷静さを失いマスターに声を荒げたことを後悔していた。
「気にしてないよ。ミクが必死になってくれてるのは分かってるし」
マスターはミクの会話に応えながら、いくつかのケーブルをミクの元へと持ってきた。ケーブルの先はパソコンと幾つかの見慣れない機材に繋がっていた。
「ケーブルを繋いで」
マスターはケーブルをミクに手渡した。
「…………」
ミクは押し黙ったままケーブルを見つめていた。その顔には不安の色が見て取れる。
「怖いのかい?」
「はい。……変わらなくちゃいけない。それは分かっているけど、変わるのが怖い」
変化した自分が受け入れられるのか。そういった不安もないわけではない。しかしミクの抱えている不安とはその様なものではなかった。自分の秘めた想い。それが消えてなくなってしまうのではないかという不安は、他のどのような不安よりも重くミクの心を縛り付けた。
「大丈夫。声のバリエーションが増えるだけで、ミクがミクであることに変わりは無いよ」
「……分かりました」
マスターの言葉に、ミクは少しだけ安堵の表情を浮かべると慣れた手つきでケーブルを接続した。そして備え付けのベッドの上で横になる。その顔には未だ不安の色が少しではあるが見て取れた。完全に不安を拭い去ることなど不可能なのだ。後はミクが不安に打ち勝てるかどうかの問題であった。
「あの……」
ミクはおずおずと言葉を吐き出した。
「調整が終わるまで手を握っていてもらえませんか」
それだけの言葉を出すのにどれだけの勇気が必要だったのだろうか。
「わかった」
マスターは短く応えるとミクのそばに近寄った。そしてミクの小さくてか細い手をそっと握った。
「ありがとうございます」
ミクは満面の笑みで応えると、名残を惜しむかのようにゆっくりと目を閉じた。
ミクが目を閉じて数分後。ミクの追加音声データが完成した。後はこれをミクの内部へと組み込むだけだ。ミクへと繋がる機械から独特の低い音が漏れる。データがミクの中へと流れていっているのだ。パソコンの画面には、現在の状況が表示されている。進行状況は10%程だ。
今回、追加される声色は全部で五種。やわらかく優しい声の『Soft』、ハキハキと活舌の良い『Vivid』、 大人びた声で哀愁の有る『Dark』、甘くささやくような『Sweet』、シャープで緊張感のある声質の『Solid』である。
20%、30%、送信は順調に進んでいく。だが40%を過ぎた時点で異変が起きた。パソコンからは緊急を告げるアラームが鳴り、画面は赤く変わった。
「クソッ! 拒否反応か!」
マスターはパソコンに近寄ろうとして足を止めた。ミクと繋いでいる手を気にしたのだ。そこからの対応は早かった。マスターはミクと手を繋いだままミクを抱きかかえたのだ。そしてそのままミクと共にパソコンに駆け寄った。ミクと繋いだ手は右手、マスターは利き腕ではない左手で必死にキーボードを叩く。生まれてから、これほど早く左手を動かしたことは無い。それほどの集中力。
マスターの迅速な対応で、異変から数秒で事態は収束した。パソコンが通常画面に戻ったことを確認すると、マスターはミクの頭部からケーブルを引き抜いた。
「ミク! 大丈夫か!」
「…………マスター、わ、私……」
マスターの呼びかけにミクは弱々しくも反応を返した。その目にはうっすらと涙が滲んでいる
「大丈夫だ。俺が付いてる」
マスターはミクと繋いでいる手に力を込め、同時に左手でミクを抱き寄せた。
「マスター」
ミクはフッと笑みを浮かべると意識を失った。
マスターはすぐにベッドまでミクを運ぶと、先程とは違うケーブルをミクに接続した。今の異変によるミクの体調の変化を調べるためである。
調査はすぐに終わった。結果は異常無し。幸いにしてミクの身体に異常は見当たらなかった。そして問題であった拒否反応の原因もすぐに判明した。原因は声色『Dark』による影響であった。なぜ『Dark』のインストールの最中にエラーが出たのかは依然として不明だが、それによりミクに追加された音声データは『Soft』と『Vivid』のみとなった。
あれから一時間後、ミクの意識が戻った。
「音声の追加は失敗したのでしょうか?」
ミクは意識を取り戻し、近くにマスターがいることを確認し、そう呟いた。
「五つの音声データの内、二つが正常にインストールされた。今はこれで精一杯だ」
「そうですか……」
ミクは静かに立ち上がった。カイトとメイコが時間稼ぎに出掛けてから、すでにかなりの時間が経っている。これ以上は、ミクとしても待てる時間ではなかった。
「出ます」
マスターに向かってミクはきっぱりと言い放った。
「わかった。じゃあ行くか」
「えっ!」
ミクは驚きを隠せなかった。
「ダメです。マスターを連れて行くなんて、絶対ダメ。危険すぎます」
「歌声戦士はコンビで行動するのが決まりだろ。ミク一人で行かせる訳にはいかない。サポート役は必要だ」
「でも!」
ミクの口調はいつになくキツイ。それがマスターを心配してのものだということは誰の目にも明らかであった。しかし、マスターにとってもミクは特別な存在。一人だけで出撃させるなど容認できることではなかった。それゆえにこちらも強い口調になる。
「これは命令だ。それに音戦士に対抗するための準備なら出来てる」
マスターは大型のヘッドホンを取り出して見せた。
「心配しすぎだ。それに、本当言うと俺の単なる我侭なんだよ。ミクの新しい歌声を、フォルテだけに聞かせるなんて、悔しすぎるだろ」
マスターの無邪気な我侭に、ついミクはクスクスと笑ってしまった。
「笑うなっての。これは大事なことなんだから」
「分かりました。一緒に行きましょう。私の歌声、聴いてくださいね」
すっかり緊張感が取れたミクは、マスターの手を掴むと足取りも軽く歩き出した。研究所の外に出て空を見上げると、澄み渡るような青空。隣には最愛の人。今日はなんだか最高に気持ちよく歌えそうな気がした。
歌声戦士 ハツネミク (いきなりAPPEND編)
始めに、リン、レン、ルカファンの方ゴメンなさい。
なおこの小説は「miku append」を貶めるものではありません。作中ではインストールに失敗していますが、あくまでも物語を盛り上げるための演出です。「miku append」には並々ならぬ期待をしています。ゴールデンウィーク明けには素晴らしい歌が出来上がっていることでしょう。皆様の作品、楽しみにさせて頂いています。
作品について
ミクをキャラクターとして扱うのは始めてでしたが、予想以上に楽しかったです。恋愛モノは少々苦手でしたが、満足度50%といったところでしょうか。作品としては、なかなか面白いものになったと思います。本格的な恋愛ものの場合、メイコについてもう少し掘り下げたいところではありますね。
お読み下さり、ありがとうございました。
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ご意見・ご感想
玄黄
ご意見・ご感想
メッセージありがとうございました!
実はメッセージを頂く前にこの作品を読ませて頂いていたのですがチキンなのでメッセージを書いて投稿まで至っていませんでした。
ここまで書くこの出来る文章力、あこがれます。
コラボさせていただきたいと勝手に思ってはいるんですが・・・どうすればいいのかまだよくわからないので・・・(でもしてみたい←)
長編期待しております。ありがとうございました。
2010/04/24 11:57:11
Hete
ご意見・ご感想
おお!なんか面白そうな!
ぜひ長編化してください!!
オネガイシマスッ!!!!←
2010/04/08 20:57:57