あたしは、その日夕食の後、カイトさんの部屋に行って、いろいろな話をした。
カイトさんの過去の話。あたしのデビューのきっかけ。今まで歌ってきた曲について。カイトさんのマフラーと、あたしのゴーグルの意味。
「カイトでいいよ。あと敬語つかわなくていいから。」
カイトさんは、しばらく話した後そう言ってくれたけれど、やっぱりあたしはどうしてもカイトさんって呼んでしまう。時折思い出したようにカイトって呼んでみるけど、嬉しそうに笑うカイトさんを見て、いつも俯いてしまう。
そして話が一段落ついたときに時計を見たらもう十時で。…あたしは、急激にカイトさんが男性であることを意識した。
「あ…カイトさんっ!その、もうあたし帰りますっ!じゃなくて帰るっ!」
「えー帰るの?この時間、夜歩くの危ないでしょ。」
「え…だって…」
「ん?」
首を傾げたカイトさんを見て、あたしは真っ赤になって俯いた。
「男の人の…部屋に…泊まるのって…その…」
そこまで言うと、カイトさんの頬も紅く染まった。
「あ、…そういうことか、うん、か、帰った方が、いいのかな…」
あたしが頷くと、カイトさんも頷きかけて、そして首を横に振った。
「やっぱダメ。寮の部屋って一人だし、隣がっくんでしょ。何もしないとは思うけどなんかあったらやだ。泊まっていきなよ。」
「え…でも部屋鍵ついてるし、がくぽさんだし、その、」
カイトさんはため息をついてベッドに座った。手で示され、あたしもおそるおそるそこに腰掛ける。
「俺とそういうことになるの、嫌?」
突然聞かれて、目を覗き込まれる。あたしの顔はこれ以上無いぐらい赤くなった。
「嫌、じゃない…けど、今そのっ…まだ、心の準備、が…」
できるだけ正直に思ったことを言う。…恥ずかしくて、口を開くのがやっとで、まともな言葉になってなくても。
それを聞いて、カイトさんも赤くなった。そして小さく笑う。
「…別に嫌じゃなければいい。いいよ、泊まってきな。俺なんもしないからさ。心配なら俺ソファーで寝るけど。」
「…ほんとになんもしない?」
カイトさんの目を覗き込むと、カイトさんは笑顔で頷いた。
「なら、ベッドに寝てもいい…」
俯きがちにそういうと、カイトさんは笑ってあたしの横に寝転がった。
すっごいドキドキしてるのに、不思議とカイトさんの横はリラックスできて、あたしは数分後には眠りについていた。
次の朝、服を軽く整えて、カイトさんと一緒に食堂に向かうと、みんなが意味ありげな目でこっちを見ていた。あたしは小さく首を傾げる。カイトさんに至っては、みんながこっちを見ていることにも気がつかない。
そしてメイコさんが作った朝食を、珍しくマスターも一緒に食べはじめたとき、リンが口を開いた。
「ねえ、もうしたの?」
あたしはその場に突っ伏した。カイトさんがぎょっとする。
「何を一体…」
「してないっ!」
慌ててあたしは叫んだ。一瞬にして頬が熱を持つ。
みんなが突然つまらなそうな顔になった。
「えーだって昨日グミ、カイトの部屋に泊まったんでしょ?」
「カイト、彼女一人ものにできないとかヘタレ~」
「うわ…正真正銘のバカイト…」
あたしはしばらく押し黙った。
「ねえ、昨日から気になってたんだけど、なんであたしがカイトさんに告ったことや付き合いはじめたことがみんなに筒抜けなの?」
「え…あ、それは…その、みんな、グミが俺のこと好きだっての知ってたからいろいろ詮索されて…ゆ、誘導尋問が…あ…いや…えっと…うん、俺が言った。」
あたしの顔はまた真っ赤になった。
「この…バカイトっ!」
叫んだ瞬間手が痛くなって、…それはあたしがカイトさんをひっぱたいたからだっていうのがわかったのは頬を押さえているカイトさんを見たあとだった。
「「「「「グミ!?」」」」」
「うわ、ごめんなさい、ごめんなさいカイトさんっ!ごめんなさいっ!」
慌てて保冷剤を持ってくると、カイトさんが苦笑いした。
「大丈夫大丈夫。めーちゃんとかリンとかミクの暴力になれてるから。…しかし初めてグミにバカイトって呼ばれた気が…」
「ごめんなさい、ほんとごめんなさい!」
「いやいやいいよ。こっちこそ勝手に話してごめんね。」
あたしが俯いていると、カイトさんに優しく頭を撫でられた。それを見ていたみんなが冷やかす。
がくぽさんは安心したようにあたしに笑いかけた。
そしてマスターは、ふっと笑って、その後肩をすくめて部屋を出ていった。
あたしとカイトさんのデュエット三曲は、全てミリオンを突破したことをその日、報告された。
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