『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:11


「「オーーーワーーーターーー!!! 」」
「おつかれさま~」
「拍大丈夫? 」
「はは、どうにかぁ・・・」
「留佳、何処行くんだよ」
「舞台からおっちゃん達見えたからちょっと顔出してくる」
「ちょっ、せめて着替えてから出なさいよ」
「おーおー、終わったってぇのに元気いいなぁ、お前達」
終わったよろこびにそれぞれが息をついた頃、表舞台ではすでに別の出し物で盛り上がっていた。
「まぁ折角だ。制服で祭り気分ってのもあれだろう。そのままで行ってこい」
「岳兄ちゃん、指導する羽目になるから嫌なだけでしょう」
「一応20時がリミットだからな。それを守れば後はいい、問題さえ起こさなければなー」
その面倒を起こした時に制服を着られていたら厄介だという含みがある事は敢えて言わない岳歩だった。そして凛が勢いよく久美に抱きついてきて、久美がその場から去ると、未来がいつの間にか岳歩の横におり、無言で手を差し出す。岳歩も無言で未来から預かってたデジカメを手渡し、交換に何やら封筒を受け取っていた。
「未来ちゃん、またどんな交渉したの? 」
岳歩が去った後でその一部始終を見ていた拍が未来に尋ねた。
「いんや、今日のは普通にただの物々交換みたいなもんかな」
そう言った後、思い出したかの様に未来はにんまり面白そうに笑った。その後ろから岳歩が「片付けてからじゃねぇと自由行動にはさせないからな」と檄を飛ばしていた。

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「レェーンーっ、あれ買ってぇー! 」
「自分で買えよ~、大体オマエ大喰らいなんだから付き合ってたらボクが何も買えなくなるじゃんか」
「蜜柑飴~~~、チョコバナナ~~~っ! 」
「どうせそれにたこ焼きと焼きそばと焼き鳥もくっついてるんだろ」
「当然! 」
「それ全部食べるの、凛」
「へ、それでもまだイケるよ? 」
さすがの久美もその半端なさにゾッとした。漣は慣れているためか呆れて溜息を吐いている。
「そういえばさっき留佳先輩、おじいちゃん達に囲まれて何か凄かったねぇ」
「あのカリスマ性は何処から来るんだ? 」
「凄い貢ぎ物の数だったもんねー」
片付けを終え、祭りに誘ってくれたおじいさんの下へと向かうと留佳は手厚くもてなされた。それこそ孫に手を尽くす様な勢いでである。舞台を見て留佳に声をかけてきた老人達も話をするにつれて段々虜にされ、気付けば山と積まれた差し入れが留佳の周りに広がっていたのである。
「ちょうどめーちゃん先輩達も離れた場所に居たの見えたけど、呆然としてたや」
「そりゃぁオマエ、あんなの見ちゃ言葉もねぇだろ」
「だよねぇー」
色んな意味でジャマ研の破天荒さに違和感を感じなくなり始めた辺りがすでに染まりつつある証拠であるということを、1年達はまだ知らない。
「ねぇ、そろそろ聞こうかなぁと思ってたんだけどさー。グミっちゃんって櫂人先輩のこと好きだよねぇ? 」
凛の唐突さに久美は思わずかき氷を噴き出しかけた。
「凛、もう少し歯に衣着せろよ」
「何ソレ、お歯黒のこと? 」
壊滅的に意思の疎通がなされないこの寂しさをどうしたら良いのかと、さすがの漣も頭を抱えた。そういった問題でもない気はするが、気にしても無駄なので漣は無視した。
「まぁ馬鹿な凛のことは放っておいて・・・」
抗議する凛を横に漣は続けた。
「多分部活で気付いてないのは当人くらいじゃねぇの。多分先輩達も知ってるよ」
さすがの久美もこれにはどう返していいのか解らずただただ顔を赤くした。
「・・・グミっちゃん可愛い~~~っ!!! 」
それを見て凛が勢いよく抱きついた。
「ちょっ、凛~~~っ!? 」
「はいはいはいはい。まぁグミっちゃんがどうするかは知んないけど、ガンバレ」
双子は取り敢えず、応援がしたかっただけらしい。元々どう相談していいか解らない性質の久美のことを慮ったのだろう。その意に気付いて久美は複雑な表情ながらも笑って二人に「有難う」と言葉を返した。

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その頃、芽衣子と櫂人は当初の約束通り、祭りを見て回っていた。
「お前本当祭りとか好きだよな」
「いきなり何言い出すのよ」
「まぁ出だしの凛達みたいにハメ外す様な感じがしなかったから助かったんだけどさ」
「・・・だから最初にああ言ったのね」
「当たり前だ。あいつらを俺1人でまとめるのは正直無理だっ」
「解らなくはないけどね・・・」
それでもそういう時に、自分が頼りにされるというのは存外うれしいものである。芽衣子はブツクサと言いながら内心そう思っていた。
「そういや、あれから少しは何か考えまとまったか? 」
櫂人が買った林檎飴を芽衣子に手渡しながら尋ねた。先日の進路の話になる。
「今にすがっちゃってるのかなぁ、自分でもどうしたいのかよく解んなくて。後輩とかも入ってきて、色々あって楽しいし、勉強だって別にそこまで好きでも嫌いでもないし普通だし」
「まぁ今は今しかないからそれなりに思いっきし過ごしたい気持ちも解らないではないけど、すぐに決めろって訳でもないしな。先生達も良く『取り敢えず大学に入っておいて、そこで見つけるのも手だ』とか言うけど、入る場所次第で決まるってトコも否めないしな」
「だよねぇ・・・」
「そう思ってんだったら取り敢えずは今目の前の祭りを楽しめ、何堅苦しい話をしてるんだお前達は」
急に二人の肩に手をかけて寄りかかってきた人物がいた。びっくりして振り向くとそこには焼き鳥串一本口にくわえて飄々とした表情の岳歩が居た。
「先生・・・」
「何してるんですか・・・」
「見ての通りだ、解らないか? 楽しんでるんだよ」
「節度ある行動をと言って自由行動を許した人と同一人物とは思えません」
「言うようになったなぁ、斉藤も」
そのままなし崩し的に3人は一緒に祭りを見て回ることになった。

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ちょうど岳歩が2人の間に割って入った頃、それを遠目に見ている人物が1人。
「未来ちゃん、さっきからデジカメでメンバー撮りまくってるけど・・・また売るの? 」
「いやぁ、これは売れるわよぉ~っ☆ 『ジャマ研メンバー魅惑のお祭りショット』学校じゃ見れない彼らの活動に迫るっ! 」
「何処のワイドショー風なの」
そういって未来は3人それぞれのショットと2人組み合わせのショットをデジカメに堂々とおさめていった。自分で撮った2枚の写真をボタンで交互に見直しながら、未来は遠くに居るその2人を見る。
「・・・未来ちゃん、また何か面白そうなこと思い付いたんでしょ」
その満面の笑みを知るのは拍だけである。

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約束の時間になり、一同は待ち合わせの境内裏に集まった。今からまた着替えに場所を貸してもらうのも悪いので、結局そのままで帰ることにする。
「今日は本当に有難うね、留佳ちゃん」
「いやいや、礼には及ばん。こんなに色々貰ってしまってむしろ申し訳ない」
留佳の周りには先程留佳を取り囲んでいた老人達が見送りにやってきた。口調がぞんざいで失礼にあたる様な感じであるのに、それを周りに享受させる辺りが留佳の凄さでもあった。そして返した言葉の通り、車の荷台には楽器や荷物と共に差し入れが山と積まれていた。しばらくはお菓子を買う必要はないなと思うくらいの量である。
「こちらこそ、今日は本当に有り難う御座居ました」
岳歩が一応教師らしく礼をすると、誘ってくれたおじいちゃんもうれしそうにそれに返した。そして見送られる中一同はその場を後にした。

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後部座席のスペースを全部平たくして荷物を詰め、空いてるスペースに半ばすし詰め状態で皆乗り込み、そのまま一度学校に戻る。
降りて開口一番に櫂人が、
「先生、8人乗りのワゴンでもさすがにこれは違反に引っかかりやしませんかね」
「夜はいいよなぁ~。ネズミ取りにさえ捕まらなきゃどうってことねぇんだから。後部座席がスモーク使用で助かったわ」
相変わらずの不良ぶりに櫂人はもう何も言うまいと深く溜息を吐いた。それから皆で部室に楽器を片付けに部室まで足を運ぶ。差し入れも全部運び込んで日持ちしそうなものはしまっておいて、持たなそうなものはその場で分けた。それから制服に着替えてやっと一息吐けた。
「いやぁ、日本の祭りは楽しいなっ! こんなことなら毎年何処ぞの祭りを探して参加しておくべきだったな」
「今更でしょ。それにしても留佳、アンタまぁよくあそこまで人を集める才能に長けてるわね」
「ん、私は別に長けている訳じゃないぞ? 普通にしてるだけで周りが勝手に寄ってくるんだ」
それが天性のカリスマ性だということなんだろうなぁと思わずにはいられない芽衣子だった。
「おい、お前ら。もう21時回ってんぞ、送ってやるからさっさと出ろ」
「「わぁーーーっい!!! 」」
車の鍵をちらつかせながら岳歩が急かす、双子は両手をあげてよろこんだ。それを聴いて全員で部室を出て再び駐車場まで戻る。座席を戻すのも面倒だったのでそのままあがりこむ。全員乗った事を確認してから岳歩が運転席に周りエンジンを入れ学校を出た。まずは一番近い寮生組から送る。
「櫂人先輩、取り敢えず明日は昼からでいんですかぁ? 」
デジカメを確認しながら未来が尋ねる、その横から凛と芽衣子がそれを覗き込んでいた。
「あぁ、さすがに今日は疲れたしな。休みにしようとも思ったんだが片付けとか反省とか、色々後回しにするのもあれだったし」
「なら明後日休みにしたらいいじゃない、それなら留佳も問題ないでしょう」
「おぅ、さしもの私もそこまで鬼部長ではないぞ」
「まともに部長の機能を果たしてない人間が威張るな」
「やるか、櫂人? 」
「謹んで遠慮する」
明日の予定が大体決まり、後は今日のお祭りの事で盛り上がった。そうこうしているうちに男子寮の前に着く。「じゃぁまた明日」と言って、皆に見送られながら櫂人は寮の方に向かって歩いていった。そのままUターンして次に女子寮で芽衣子を降ろす。
「じゃぁな、芽衣子」
「うん、また明日ね」
「「またねー、めーちゃん先輩ー」」
先の櫂人と同じように皆が送り出す。助手席の窓を開いて岳歩もそれに倣う。
「先生、煙草くわえながらは危ないですよ」
「一応マナーとして吸ってないだけマシだろう」
「「やぁーい、ガッポイ怒られたー」」
「うっせぇ」
「はい、これ」
差し出されたのは先程皆で分けたお菓子の1つで棒付きの飴だった。
「オレはガキか」
「櫂人が居たら問答無用で「そうでしょう」って返してますよ」
投げやりに返して岳歩はそれを受け取った。芽衣子が寮の敷地内に入ったのを確認してから車を出す。去る車に芽衣子は手を振って応える。それを見送って小さく息を吐いた。
―――今年の夏はどんな風に終わるのかしらねぇ。
空に浮かぶ満月を見上げながら、芽衣子は高校最後の夏の余韻に浸った。

to be continued...

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • オリジナルライセンス

『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:11

原案者:七指P 様
お預かりした設定を元に書かせて頂いております。
拙いながらではありますが、楽しんで頂けたなら幸いです

続けてあげましたは前回の続き
地味にボカロ小ネタを挟んでたりします、本当少ないけど
どうしても少ない双子を出したかったっ、留佳も比較的で番少ないんだけどあれはアク強いから大丈夫かなぁという変な安心感が・・・
次回は久美ターンでいけたらいいなぁ
それと、全体的にと考えちゃうからどうしても全員出そうとして変になってる感がある気がするので、次回は人を絞ってやろうかとも考え中
取り敢えず、誰出そうwww

閲覧数:113

投稿日:2012/08/19 01:29:28

文字数:4,560文字

カテゴリ:小説

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