ザーザーと音を立てて雨が降り続いている。
空は灰色で、太陽はどこにも見当たらない…

永遠に続くコンクリートの大地、降り続ける雨
少し寒くて、冷たい世界。


「今日モ世界各地デ、ドシャ降リノ雨ガ降ッテイマス」

雨でびしょ濡れのテレビから、いつものようにそんな声がながれる。
そして少年もいつものように応えた。

「ほらきた、僕の出番だ。」



●晴れと雨のハザマ●



茶色コートと帽子を身につけた少年は、真っ赤な傘をさして、雨の中立っていた。
天気予報は、雨マーク、雨マーク……
雨マークばかりが目立つ。

それもいつものことで、もう当たり前のことだった。

「さぁ、行こうかな…今行くから、みんな待っててね。」

少年は地面に置いてあった大きなカバンを背負って、テレビの電源を消した。

カバンには、赤い折りたたみ傘が大量に詰め込まれ、持ち手の部分があちらこちらからはみ出している。

この傘を配るのが少年の仕事であり、哀しいけど…存在理由でもある。

この世界には、雨を怖れて閉じ籠ってしまう人がいる。
太陽のある場所を知っているのに、外に出られない人がいる…

そんなのは哀しいすぎると思う。
晴れた場所に行けるのにこんな世界に閉じ籠ってしまうなんて…

永遠に続くコンクリートと雨の世界を少年は歩きだした。


*******************


しばらくすると、あるはずのないバス停が見えてきた。

目を凝らすと…
男の人がバス停の屋根の下で座り込んでいる。

バス停に駆け寄っていくと光のない瞳が少年を見つめた。

「バスが、いくら待っても来ないんです。」

「バスは来ませんよ。」

そう。バスは来ない。
だってこの世界にバスは走ってないし、バス停だってあるはずのないものだから。

男性は、ため息をついた。

「はぁ…雨はやだなあ、なんだか哀しくなってくるよ。」

そう言ってまた、ため息をつく。

少年は片手で自分の傘をさしながら、カバンから傘を1つ取り出した。

「これ、使ってください。」

真っ赤な傘を男性に差し出す。

「おぉ、傘だ!!これなら雨に濡れずに移動できるな」

男性が目を輝かせて立ち上がった。

「お役に立てて光栄です。」

折りたたみ傘が開かれて、男性は雨の中に入っていく…
少年はそれを笑顔で見送った。





*****************





こんなことを繰り返して、どれだけたっただろうか…

朝も夜もない雨の降り続ける世界。

少しだけ、疲れたかも…
頭の中をよぎる景色がそんな思いにさせた

眩しくて目が眩む、温かい…温かい……
あれはそう、太陽だ。

いつ見たかもわからない、もしかしたらただの幻想かもしれない景色

いつもは感じない雨の冷たさが身に染みた。



そんなことを考えていた、そのときだった。
ふと、前を見ると目の前に小さな少女が倒れている。

少年は急いで駆け寄って、雨でびしょ濡れの少女を自分の傘の中に一緒に入れた。

「大丈夫??」

肩を叩くと少女は弱々しく呟いた。

「お母さん……どこ??」

「………………。」

少女に触れた指先から少年に少女の淋しさが伝わってきた。
哀しい記憶が伝わってきた。

それは大切な人の死の記憶…

信じられなくて…恐くなって
ずっと探してた。

少女は体を起こして少年を見つめる。

「お兄ちゃん、知っている??」


雨の音だけがいつものように響いていた。

…大切な人の死が理由でここに来てしまう人はたくさんいる。
ちゃんと帰れる人もいるしここで消えてしまう人もいる。

自分ができるのは、傘をあげることだけ…

「お母さんは、空の上にいるんだよ。」

「空の上??」

少年は笑顔でうなずいた。

「そうだよ。でも、空を見てみてよ」

上を指差すと少女は空を見上げた。

「雲がいっぱい!!」

「だよね。これじゃあお母さん、君が見えなくて哀しいね…」

「えっ……」

少女は急に不安そうな顔をして、少年のコートの裾を握りしめた。

「どうしよう!!お母さん哀しいのやだよ…どうしよう…………。」

そんな少女に少年は笑顔を向けた。

「大丈夫だよ。」

いつものように片手でカバンの中を探る。

…………あれ??

どこを探しても、傘が…ない。

奥に手を突っ込んでみても、横のポケットを叩いてみても…

ない。
傘がない。

「お兄ちゃん??」

不安そうな目が少年を見つめた。

いつも、いくら配っても、傘は無くなることはなかった。
それが当たり前のことだと思っていた。

…どうしたらいい??


急に自分が情けなくなった。

やっぱり自分には
傘をあげることしかできないんだ。

傘がなければ、自分の存在理由は…ない。


……でも、その時気付いた。
もう1つだけ、傘があるじゃないか。

少しだけ怖いけど、これが自分にできることだ…

少年は、いつものように笑顔を浮かべた。

「はい、どうぞ。」

自分がさしていた、とっておき大きな傘を差し出す。

「いいの??」

少女が笑顔になった。

「もちろんだよ。道はわかるよね??」

「うん!!大丈夫だよ!!ありがとうお兄ちゃん!!!!」

少女は小さな手で傘を受けとると走り出した。

「この傘、太陽みたいだね!!」

少女が一度だけ、振り返って叫んだ。
その小さな背中に少年は笑顔で手を振る。

なんだか、いつもより清々しい気分だ。
顔をあげるといつものように灰色の雲が立ち込めた空。
永遠に雨が降り続ける世界。

雨は降り続けて、なんだか寒くなってきた…

どんどん淋しさが込み上げてきて、心臓を握りしめられているような…
そんな気持ちになった。

…いつも独りだった。

どんなに探しても晴れは、見つからなかった…

何故なら自分は、この世界でしか存在できないから。


急に力が抜けて、少年はコンクリートの地面に倒れた。

このまま消えるのかな??

まぁそれもいいか…

傘がなくなったってことは、僕の存在理由がなくなったってこと。

ってことは…
世界から哀しみがなくなったのかな??

じゃあいいじゃないか。

でも込み上げてくるのは、喜びじゃなくて、切なさ…

なんでこんなに自分よがりなんだろう…

思い出すのはあの景色。

眩しくて温かい…太陽。
照らされて微笑むんだ。

そんな場所に、行きたいだけなんだ……ずっと

それだけなんだ



***************



雨に打たれてた

寂しくて、切なくて…


誰かが僕にやさしい笑顔で、なにかを差し出してる。

真っ赤ななにか…
でも、目が眩んでよく見えない。

眩しいんだ…それに、なんだか温かいな。

目を擦ると真っ赤な傘が差し出されているのがわかった。


それよりも…僕は目の前に広がる景色に目を奪われた。

太陽の光、やさしく降り続ける雨…
これはなんて言うんだっけ??

とても綺麗だった。雨の一粒一粒が宝石みたいにキラキラと輝いている。

微笑む少女は、なんだか知っている気がした。

そう、この景色にはいつも君がいたんだ。

差し出された傘を受けとって…僕は 微笑んだ。



でもやっぱり
僕の手は…君には届かない。





End…

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

晴れと雨のハザマ 【小説】

ねこじたです。
今、制作中の曲が少しストーリー性のある曲なので
短い小説にしてみました!!
でもあんまり小説は書かないので…かなり読みにくいかもしれないです…。
短編で、これで完結してます。
あんまり明るい内容ではないですが
よかったら、暇つぶしに読んでください。

曲は来週中にアップする予定です。
そちらも聴いていただけたらとてもうれしいです!!

閲覧数:110

投稿日:2013/03/17 19:00:19

文字数:3,028文字

カテゴリ:小説

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