【小説】夏到来、死なない冷やし中華始めました。

投稿日:2016/04/17 13:25:35 | 文字数:2,140文字 | 閲覧数:84 | カテゴリ:小説

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2010年8月、某文庫のお題「○○始めました」に投稿して見事爆死。

文字数制限との死闘で連日唸ってできた作品ですが、そのせいか「なんか考えすぎですよねー…」って感じが出てしまった。
ラノベでも小説は難しい。


文字数多めですが、ご一読いただくだけで恵まれない作者が救われます。
と言いながら内容的には食材をけっこう無駄にしてて不謹慎。
ごめんなさい。

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 拝啓 親父殿

 晴れ間が多くなってきたな。この長梅雨もじきに明けるだろう。
 店は繁盛しているか? 晴れた日はちゃんと換気しろよ。カビは見えないところにいるんだからな。味が悪いんだから、店の中くらい清潔にしろよ。
 そうそう、終業式は来週だそうだ。夏の間、またしばらく厄介になる。お隣のモモも親父殿に会いたがっていたから、二・三日はうるさくなるだろう。
 おう、噂をすればなんとやらだ。ようやくあのノロマが五限の実習終わらせて――

「――へあっ!」

 という警告(警告だ)をばっちり耳にしながら俺は直後に飛来したドンブリ型飛翔体をよけきれずもつれ込んだ襲撃者とともに昇降口のすのこ板と仲良くするはめになる。中身の麺類が盛大に降りかかり俺の頭でびちゃびちゃと祝祭的な音をたてる。
 どうしてこうなった。俺はきちんとよけたはずなのだ。いつもの「へあっ」で始まるモモ式急襲弾は今回で五〇三号を数えるモモの通常兵装である。警戒はしていた。姿も見えた。必殺のモモガードは遅延なく展開されたはずだった。
 その結果がこれだ。恐るべしモモ弾。
 と、俺ははっと我に返り迎撃姿勢をとる。追撃がないとはかぎらない。
 しかし襲撃者は見たところ俺の膝の上で存分にのびていた。どうやらこの昇降口入口でつまづいてモモ弾を放ったらしい。俺がモモ弾五〇三号のフルコンボでずぶ濡れなのに膝上のモモが一滴のつゆも浴びていないのはなぜなのか。謎だ。あるいはこれこそがモモ弾の真髄か。
「ええい、邪魔だ、どけっ」
 俺はモモをどかしにかかる。襲撃後のこいつが邪魔っくるしいのはいつものことだ。
「ふえ……えぐー」
「ん? なに泣いてんだモモ」
「えぐー」
 分からん! とここで癇癪を起こすのは素人で、対モモ戦闘を一から十まで知りつくした俺のモモ語通訳によるとどうやらモモは先ほど俺にぶっかけたモモ弾の死を悼んでいるらしい。いい度胸だ。俺様を差し置いてこんな、こんな、
「……なんだ、これは?」
 俺はモモ弾(残骸)を検分した。
 ドス黒い液体が服に染みこんでピリピリする。腕に吸着したセロリ(輪切り)から変な煙が出ている。飛び散った極太のうどんは勝手に動いているように見える。ちょっとしたバイオハザードだ。というかお前はここまでやらかしてなお俺よりこの実験生物の方を心配するのか。
 と呆れていたのも束の間。
「わたしの冷やし中華……」
 その一言は俺の全身を震撼させた。モモ警報がびーびー鳴る。
 冷やし中華は料理である。
 料理とは食物である。
 そして食物とは、人の口に入るものだ。
「えぐ、もう一回――」
「も、モモ!」
 俺は立ち上がった。正義のために、そして人類のために。
「……練習しよう。人に出す前に」

   ◇

 それは殺人である。
 殺人は止めなくてはならない。
 だからそれは止めなくてはならない。
 見事な三段論法のできあがりである。

「というわけで、冷やし中華を作る」
 俺は台所で宣言した。
 昔は親父殿に料理を教えていたから、うちの調理器具は充実している。
「お、お願いしますー」
 と頭を下げるモモは落ちつかなげにキョロキョロ。武器でも探しているのか。
「ね、トウヤくんのお母さん今日もいないね」
「ああ、家庭の事情でな」
 ネグレクトってやつだ。小五の独り暮らし、社会は歪んでいる。
「でも俺は料理に関しては軽い天才だからな。これくらい簡単だよ」
 と言うと同時に俺の頭には冷やし中華の食材が浮かぶ。それからそれをモモがどう変質させるかを考える。
 特に危険なのは卵殻だ。他の材料とどう反応するか分かったもんじゃない。もやしも遺伝子を組み換えられる可能性がある。五〇三号の具材も本当にセロリだったのか疑わしい。元はパセリだったのかもしれない。卵黄と海苔の組合せも怖い。
 しかし玉子焼きさえ俺が作ってしまえばなんとか致死的な事態は免れそうだということに俺は気づく。さすがは俺だ。あとは切って茹でて盛るだけなのだ。希望の光がそこにある。だがそれを掴むのはモモの手だ。
「よしモモ、今から俺の言う通りに作れ。寸分違わずだ」
「がんばるー」
 頑張れモモ。
 俺は心からそう思った。モモだってやればできるのだ。

 一週間後、それは完成した。
 盛り上がった麺。彩りのよい短冊状の具。もやしと海苔を頂上に抱き、眼下には香り高い醤油スープ。
 文句なしの冷やし中華である。
 無論、人体に無害とはいくまい。口に入れれば目眩や腹痛は避けられない。倒れる者も出るだろう。環境にも悪い。
 それでもこれはもうモモ弾ではないのだ。もうこの冷やし中華は人を殺さないのだ。やっぱり冷やし中華はこうでなくてはならない。
 そしてそれを成し遂げたモモの努力。
 俺達は熱い抱擁を交わした。俺は感動していた。
「よくやったモモ、これでお前も一人前だ!」
「うん、これで、これで……」
 モモは泣いていた。
 俺も泣いていた。
「これでトウヤくんにご飯作ってあげられるっ……!」

 俺は泣いていた。



 拝啓 親父殿

 今年の夏祭り、お袋を誘ってみようと思うんだが。








 

したびーと読みます
小説・作詞制作してました(過去形)
不採用タグ付いてる詞は、他曲で使ってくださると救われます

現在UTAUカバーを勉強中
twitter → https://twitter.com/shita_b

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