聖夜！！
聖夜と書いてクリスマス。
こんな事言ったらしばかれてリンチに遭うかも知らんが、僕はリア充である。
ツイッターで非リア充共が「おれらの聖夜」「リア充爆破！用意！」「嫁と現実逃避」などと呟くのを横目で見ながら、余裕を持って準備。フッ、可哀想な奴らだ。
壁にかかった時計を見上げる。
待ち合わせは１７時半――
ハイブランドのスーツ、豪華なディナー、素敵な夜景、愛の台詞。うん、バッチリだ。
今夜囁く（つもりの）愛の台詞を頭の中で復唱しながら、僕は玄関のノブに手をかけた。
と。

「がた！どか！」

何かが絡まる音がする。
なんだ？なんだ？何があった？愛犬が何かしたか？
水をこぼすとか、コードに躓くとか――
ま、なんにしても、余裕はある。余裕を持って準備したからね。
リビングのドアを開ける。


詰まってますけど！？
犬がビデオデッキに詰まってますけどおおおおお！？！？！？！？


せっかくのクリスマスにお前は何をしてるんだ！？
ねえこれどゆこと！？ねえ何これ、ねえ！
なんでビデオデッキに入ろうと思ったんだお前！何故入ったしお前！何故入れたしお前はあああ！
くりくりの目が僕を見つめる。いつもなら愛しいそれも、今はウザいだけの代物だ。
ん？何故目がこっちを？何で前足がこっちに突き出してんだ？

あ、あれか？
そうかそうか、慎重に後ろ歩きで入ったっていうんだな！？

どうせアホなら――
どうせアホなら、アホらしく頭から突っ込んじまえよ！もういい！突っ込んでしまえばよかった！

…落ち着こう。落ち着け僕。
このままで解決する訳では無いんだ。
さて…どう解決するかだが、…
犬を見つめる。
なんでこいつは呻くとかもがくとか喚くとか吼えるとかしないんだ？
あれか？こいつは望んでここに入ったのか？
ねえなんなのこいつ、もう５分経過してるよ！？
…いや、望んだとしたらやけに寂しそうな目をしている。沈みきっている。
巻き戻しボタンを見つめている。
お前、一体何を巻き戻そうっていうんだい？
時間か？こんなビデオデッキで時間を巻き戻したいのか？
んなアクロバティックなタイムマシーンがあるか！！
お前は過去に一体何をした！？何をやり直そうというんだ！？

「ブルルルル」

不意に、携帯のバイブが鳴る。着信は…彼女。
時計の分針は真下を指していて…え！？嘘！もう！？

――ここは優先席なんだ。電車の優先席近くなんだ。携帯の電源は切ってあるんだ。

そう自分に言い聞かせる。
さて、…
やっぱり、解決策はあれしか無いのか……


せっかくのクリスマス。
ビデオデッキを分解。
残念そうな顔をする犬。…お前の為にやってんだよぉぉぉ！
犬！そもそもこいつがビデオデッキをタイムマシーンだと思わなければ！
ええい、ハイブランドのスーツが…くっそおおおおお。


「ブルルルル」

バイブ。

「ブルルルル」

バイブ。

「ブルルルル」

バイブ。

分かってるんだ！分かってるんだよ！！
出れないんだよ！この、犬のせいで！
くっそ、なんて言い訳しよう…


「ごめん！」
「何でこんなに遅かったの！？」
「犬がビデオデッキに詰まったんだ！ホントごめん！」
「なんてスタイリッシュな虐待なの！？」


いやいやいや、これは有り得ない。


「ごめん！」
「何でこんなに遅かったの！？」
「犬が時空を歪めようとしたんだ！ホントごめん！」
「」


いや、これは厨二病臭すぎるだろ。つーか彼女答えてもくれなくなっちゃったよ！？


「ごめん！」
「何でこんなに遅かったの！？」
「ビデオデッキを分解してて…前に進めなかったんだ！ホントごめん！」
「」


想像力、枯渇。ダメだ、もっとちゃんと授業聞いとけばよかった…
なんの授業だよとか言わないでね、僕だって分からないんだ。思考回路がぐちゃぐちゃ。
サンタさーん、僕に言い訳を下さ～い。
いやそれより、「なんてスタイリッシュな虐待！」とか言わないレスキュー隊を下さ～い。





バイブが鳴り続けている。
非リア充らからの罵倒が聴こえる。
走馬灯が見える。

バイブが鳴り続けている。