「ハジメテノオト」 二次創作小説 2

投稿日:2010/01/27 22:44:30 | 文字数:3,267文字 | 閲覧数:57 | カテゴリ:小説

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 ※曲のイメージとは異なる内容です。
 ※ミクの擬人化、軽い猟奇的要素を含みます。

 それらに大丈夫な方のみお読み下さい。

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TEXT
 

 私は、誰の協力も借りずにひたすらCDを探し続けた。
 その日も、会社が終わると近くにある大手中古販売ショップへと向かった。二番目の歌詞まで書かれている歌詞カード入りのアルバムを見つけた店である。
 ミクのCDを見かけるのは、その性質上いつもワゴンセールなどの超特価売り場だ。私は、新着分の中古CDを端から順に確認していく。
 今日こそはという期待とは裏腹に、やはり今日も見付からなかった。私は、店を後にすると地下鉄に乗り込み帰路についた。

 地下鉄は、それなりに混み合ってはいたが、私は何とか座席を確保することが出来た。私が座席に腰を下ろし、前を向いたその時であった。目の前を一人の女性が横切った。

「えっ!」

 私は、何度も目を瞬かせた。その女性は、初音ミクに瓜二つであったのだ。
 私の視線を余所に、その女性は前の車両へと歩いて行ってしまう。
 ミクは、死んでしまっていない。他人のそら似に決まっている。そんなことは分かりきっているのに、私は後を追わずにはいられなかった。私は、急いで立ち上がると後を追った。座席は、すぐに誰かに取られてしまったが、もうそんなことどうでもよかった。
 次の車両、そのまた次の車両。ミクそっくりの女性は前の車両、前の車両に歩いて行く。私は、人混みを掻き分けながら彼女を追って前へ前へと地下鉄の中を移動した。
 座っているときは感じなかったが、予想以上に人が多く感じる。私は、その人の多さに何度も足を止めながらも必死に彼女を追った。

 電車の動きが緩やかになる。ホームに到着したのだ。
 私は、先頭車両へと移動した彼女に追いつくため、歩く速度を少しだけ上げた。しかし、この駅で降りるであろう人が何人か立ち上がり、私はすぐに足を止めざるをえなくなった。ほんの少し足止めをくらっただけであったが、そのせいで私は彼女に追いつくことが出来なかった。彼女は、この駅で降りてしまったのだ。
 私は、尚も彼女を追いかけた。今まで通り過ぎるだけだった駅、その駅へと降り立った。

 降りてすぐ彼女を探す。・・・いた!
 彼女は、階段を上がっていく途中であった。私は、走って彼女を追いかけた。それがいけなかった。急に走り出したせいで人にぶつかってしまったのだ。
「す、すみません」
 私は、謝罪の言葉を述べると、すぐに階段を駆け上り、改札を飛び出した。
 今まで来た事も無い知らない町だ。左右を見渡しても、もうミクらしき人影は影も形も見えない。
 途方に暮れる私。その時、奇妙な音が聞こえた。微かに、だがはっきりとその音は私の耳に届いた。
 その音は、口笛の様でも有り、木々が風にざわめく音の様でも有り、私にとっては生まれて初めて聞く音であった。私は、何かに導かれるように、その音のする方へと歩き出した。

 奇妙な音に導かれ知らない町を歩き続ける。時間帯のせいもあるのだろう、人気はどんどん無くなっていく。
 道に迷ってしまうのではないのかとか、何をやっているのかとか、そんなことは一切考えず、私は音のする方へと歩き続けた。

 どれだけの時間歩いたのだろうか。10分とも1時間とも知れず歩き続け、私はようやく立ち止まった。
 
 音が・・・止んだのだ。
 
 音が止んだ場所。そこには古ぼけてボロボロのライブハウスがあった。
 ぽっかり空いた地下へと通じる階段。私の足は、無意識にライブハウスの中へと続く、その階段を下りていた。

 ライブハウスの中は、シーンと静まり返り、辺りには埃が積もっていた。もう何年もここでライブなど行われていないのだろう。このライブハウスは、既に廃墟と化していた。

 私は、一体何を期待していたのだろう。神秘的な力で何か奇跡でも起こると思っていたのだろうか。私は、廃墟と化したライブハウスを目にして、急速に冷静さを取り戻していった。戻ろう、そう思ったとき私は背後に気配を感じた。私は、次の瞬間パッと振り向いていた。

「っ!」

思わず叫びそうになった。なぜなら、そこにミクがいたからだ。しかし、私がミクだと思ったのは、ミクの映ったポスターであった。
 暗いとはいえ、ポスターを人間と間違えるなんて、やはり私は少し過敏になり過ぎている。だが、一瞬確かな気配を感じたのも確かであった。

 私は、もう一度誰かいないか慎重に辺りを探り始めた。
 しかし、やはり誰もいない。
 今度こそここから去る。そう決意を固め、私は最後にミクのポスターの前まで歩いていった。
 かつてここでミクのライブでも行われたのだろうか。この廃墟とミクの末路が重なる。
 
 ん!?

 私はポスターの左手前に馴染みのある四角い物体を発見した。CDケースである。これは・・・。
 埃を払い手に取ると、それは私が持っている二番までの歌詞が書かれた『ハジメテノオト』の完全版が収録されているCDであった。
 驚きも興奮も無い。私はただ黙々と鞄の中から携帯CDプレイヤーを取り出し、完全版のCDをセットした。

 そこには確かに、二番までを完全に歌っているミクがいた。
 ようやく・・・。私は、万感の思いでただじっと耳を澄ませた。歌が終わる、それでも私はじっと耳を欹てていた。携帯CDプレイヤーのトラック表示がまだ変わっていないためだ。

 ・・・・・・・・・・・・。

 待つこと1分ほど、ミクの声が聞こえてきた。

「この歌を聞いてくれたあなた。本当にありがとうございます」

 こちらに語りかけてくるミクの声は歌っているときとは違い、いかにも普通の女の子といった感じで、まさに素の声といった感じだ。

「今の私は、言葉を言えません。けれど、こうして歌を残すことが出来ました。この歌を聞いてくれる人は多くないかもしれません。それでも私は、この歌を残せて良かったと思います」

 ミクは短命な人だった。確かな実績を残す間もなく死んでしまった。この歌を聞く人は、ミクの思っている通り少ないだろう。

「初めての音、あなたは見付けられましたか? 私は、見付けられました。初めての曲、初めての街、初めての出会い、そして・・・ハジメテノオト」

 ・・・・・・

 私は、ただじっとミクの言葉の続きを待つ。ミクの声、私にとってはこれも初めての音だ。

「時の流れも 傷の痛みも
愛の深さも あなたの声も
私は知らない だけど歌は
歌はうたえるわ だから・・・聴いて」

 二番目の歌詞のサビの部分をミクが歌うように喋る。
 私も当たり前だがミクのことはまったく知らない。調べられることは調べたのだが、それは一般の人が知り得るレベルのアイドルの情報だった。

 「・・・今まで付き合ってくださって、ありがとうございます。ですが、もうお別れです。本当に、本当にありがとうございました――――さん」

 い、今、確かに私の名前を!
 
 もう一度、巻き戻しのボタンを押そうとした私を突如猛烈な睡魔が襲った。い、今のは一体・・・。朦朧とする意識と共に、私はその場に倒れこんだ。


「・・・ん」

「お・・・さん」
 
「お客さん、終点ですよ」
「ん・・・・・・えっ、終点!?」
 気が付くと私は地下鉄の座席に座っていた。車掌の話によると、どうやらここは終点らしい。
「私はかなり前の駅で降りたはずなんですが・・・」
「あー。疲れているんですよ。分かります。この不況ですもんねぇ」
 車掌は、一人で勝手に納得し、私に降りるよう告げてどこかへと消えていった。
 廃墟と化したライブハウス、CD、ミクの声、あれは・・・夢だったのだろうか・・・。

 数日後、私はもう一度あの駅で下車し、記憶を頼りにあのライブハウスを探してみた。しかし、どれだけ探してもあのライブハウスを見付けることは出来なかった。
 私は、今も完全版のCDを探している。そして、あの時聴いた不思議な音も。
 私は、今も探している。

『ハジメテノオト』を・・・。

活動停止中。

もうダメ。疲れてしまった。

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