僕には心待ちにしてる 手紙があったんです
たった一通の 十二年も前の僕が
今の僕に宛てて書いた手紙
浮かれたモードの教室で 静かに僕は提出した
「大人になったみんなに届けます」
先生はへらりと笑っていた
やがて手紙の内容を 上手い具合に忘れた頃
僕の元に幼い僕が 遊びに来るようになった

ねえねえ僕に何を書いたの?
ダメダメそれは秘密なのだよ
口元を指でなぞり 幼い僕は笑ってた
スミレの花咲く路肩で 少し古い電柱の影で
ランドセルと制服の二人の待ち合わせ


あれから時は流れ流れ 勿忘草が揺れる
カレンダーめくる 手も大きくなりました
みんなどんな大人になったかな
あの教室で書いた手紙 今日もポストには無かったな
「大人になったみんなに届けます」
僕はまだ大人になれてないの?
影を落とした僕の顔 覗き込むあどけない瞳
変わらない幼い僕が またひょっこり遊びに来た

ねえねえ僕は幼稚なままか?
いやいやそんな悩まないでよ
成長してないはずの 幼い僕が寂しそう
満員電車の中で 新しく建つカフェ予定地で
ランドセルと作業着の二人の待ち合わせ


懐かしい匂いの黒板 小さくなった机
スーツの友達 綺麗になった女の子
思い出が飛び交う同窓会
浮かれたモードの教室で 手紙の話題を出したんだ
「そんなこと誰も覚えてないよ」
カラカラと笑い飛ばされたのさ
喧騒から逃げるように ひとりぼっちの廊下の果て
僕の影に幼い僕が 溶けて消えようとしていた

ねえねえ僕に何を書いたの?
ごめんねそれはもう分からない
その首を横に振ると 幼い僕は泣いていた
こんな結末のために 君と過ごしたわけじゃないのに
何も言えず消えられた みじめな僕がいた


僕には心待ちにしてる 手紙があったんです
それは一通で 十分だった手紙です
大人になるとはこういうことか
寂しい格好の自宅にて 静かに僕のペンが走る
「幼い僕に宛てて書いています」
願わくば君が読めますように

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

手紙は一通でよかった

子どもの僕に「大人になったよ」って笑いかけてあげたかった。
そのための鍵となる手紙は、たった一通でよかったのに。

閲覧数:47

投稿日:2018/07/09 19:20:14

文字数:832文字

カテゴリ:歌詞

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