冬の寒い日。彼女は相変わらず、そこに居た。
何かを訴えるように困った顔をして、ただ立ったままこちらを見ている。
今日の天気は昨日と変わらず、空から雪がしんしんと降っていた。

こんな寒い日は止まらずに歩きたい気分だ。
一体何が珍しいのか、彼女の視線は自分へと向けられていた。
ただ見ているだけの彼女を横目に、足早に雪道を駆け抜ける。
あの子は何をしていたんだろうか。

翌日の天気も当然のごとく、雪が降っていた。
外に出て、初めて積もった量に驚かされるほどの大雪。
これでは歩道も雪で埋め尽くされ、いつものように歩くのは困難かもしれない。
そう考えていた時、ふと彼女のことが頭をよぎる。

じっと見ていただけの彼女は、大丈夫だろうか。
こんな大雪だ。家に帰って、暖かくしていることだろう。
勝手な解釈をしながらも、自分の足は彼女の居る場所へと向かっていた。

そこに着いて、驚いた。
彼女は変わらずに立ち尽くしたまま、そこに居た。
いや、それどころではない。頭の方まで雪に埋もれて、頭頂部しか見えない。

何をやってるんだと思いながらも、雪で埋もれた彼女を掘り出して救出した。
頭にのった雪を払い、身体についた雪も払ってあげる。
これで大丈夫だろうと思い、頭を少し撫でていった。

それを受けた彼女は、相変わらずの表情のまま、こちらを見ていた。
雪の中で震えていたことも、助けられたことも構わずに、困った顔をして見つめている。

雨が降っても、雪が降っても、彼女はそこに居続けていた。
気分がひどく落ち込んでいる時でも変わらずに、彼女は困ったような顔で見るばかり。
何を伝えたいのか聞いてみるが、また、困った顔で首を傾げられた。

何も無いのだろうが、その困った顔には、救われた気がしていた。



-END-

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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そこに居るだけ   [短編小説]

短編小説です。
人に限らず、在るだけでいいモノはあります。

閲覧数:29

投稿日:2011/03/04 13:00:11

文字数:755文字

カテゴリ:小説

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