※ここからはTurndogの記憶がないためルカさん視点でお送りします※





迂闊だった。



よくよく考えてみれば、ここまでくる最中、既にめーちゃんは酒臭さを漂わせていた。

あのめーちゃんの事だ……ここに来る前にも、既に芋焼酎20本以上空けてべろべろに近かったんだろう。

そんなへべれけめーちゃんがまともな思考回路を働かせるはずがない。絶対に何かしらいたずらをしでかすに決まってる。

こういう状況で一番被害にあいやすいのは―――――――――



この場で唯一≪未成年≫である、Turndog―――――――――――――――!!!!





「Turndog!! それ呑んじゃダメっ!!」

「ん?」





「それはオレンジジュースじゃなくてスクリュードライバ―――――――――」





《――――――――――――――どっがあんっ!!!!!!》





ものすごい音を立てて、空になったグラスがカウンターに叩き付けられた。


思わず身を縮ませる私たち。

私たちの視線の先では―――――今にも砕け散りそうなぐらいグラスを握りしめているTurndogの姿が。

しばしの静寂の後、ゆらりと顔を上げたTurndogは―――――




『……ああ? ルカ……てめえこの俺の安らぎの時を邪魔すんのか? てめえとは言えぶっ飛ばすぞコラ』




―――――完全に目が座っていた。



(嘘……!!)

(まさかTurndog……!!)

(たった一杯のスクリュードライバーで……!!)

(出来上がっちゃったのか……!?)



そもそもスクリュードライバーというのは、アルコール度数の強い酒でも口当たりよく飲ませることのできるのが最大の特徴であるカクテルだ。

そのためよくウォッカなどの強い酒をステアすることも多いから、酔ってしまっても何らおかしいところはない。むしろ口当たりがいいため調子に乗って飲み過ぎた結果酔いが回るなんてことはよくある話だ。


だけどまさか―――――たった一杯、それも小さめのグラスに一杯飲んだだけで酔っぱらってしまうとは……!!


『……んだよてめーら!? ボカロが豆鉄砲喰ったような顔しやがってああ!?』


鳩じゃなくてボカロなの!? どんな顔よそれ。

ハクなんかはこういった客を見慣れているのか比較的落ち着いているけど、カイトやどっぐちゃん、仕掛人のめーちゃんすらも恐れ戦いている。


「あ……あの……Turndo」

『んだよどっぐ!!? いつもいつも俺が頼み事するときに鰹節注文しやがって!! おまけに39秒で一本食い尽くしやがるしよ……一本いくらすっと思ってんだ財布に穴が開くわ!!』

「えうっ!!? そ……そんな言わなくたっていいじゃないのぉ!!」


涙目のどっぐちゃんだけどさすがにそれはTurndogが正しい気がしてならないのは私だけじゃないはず。

ぐん、とTurndogの首がこちらを向く。怖い怖い! 首だけ180度回転しないでください、あなたはダヨー族ですか。


『メイコぉ……!!』

「はっ、はうぃっ!!?」


めーちゃんですら思わず背筋を伸ばす。何こいつ怖い。


『てめー人の飲みもんに酒混ぜ込ませて楽しいか?』

「え―と……そのぉ……」

『ちゃっちゃと答えねーと【ピーッ】させんぞおら!!』

「すんませんやりすぎましたでも楽しいですっ!!!!」

「楽しいんかい!?」


思わず突っ込んでしまった。というかTurndog、あんためーちゃんをそんなビビらせるネタ持ってたんか。


『ほぅ……!! 楽しいか!! そうかそうか……!! 素直な女は嫌いじゃねーぜ……!!』

(ほっ……)

『褒美としてスピリタスイッキの刑だ』

「褒美じゃないそれ!! 流石にあたしでもそれは死ぬる!!」

『つべこべ言ってんじゃねー!!!! 呑めこの野郎!!』

「うみゅ――――――――――――――――――――――!!!!!!!」


私たちが止める間もなくめーちゃんはスピリタスをまるまる一本一気飲みさせられ、あえなく撃沈。あのめーちゃんを潰させるとは……かなり強引だけど。


……って! 楽観視してる場合じゃない!!

次のターゲットは絶対私じゃないの!!


『るぅぅぅかぁぁぁぁぁ……!!』


案の定、野獣の眼光は私に向けられた。いつも『ルカさん』なんて呼んでるくせに呼び捨てますか、この野郎。

しかしこれは危ない。めーちゃんと同じ目にあわされたら私は割とリアルで死ぬ!


……しかし。


『……………ぐすっ……』

「へっ?」


いきなりぐずり出した。


『ルカぁ……ほんっとにごめんなぁ……お前の誕生日小説のこと忘れちまって……俺はいつだってお前のことをわかってやれねぇ……うううぅぅ……』


え、ちょ、今度は泣き上戸?

どうしよう、いろいろとどうしよう。


『俺はいつだってそうだ……女の気持ちを分かってやることのできねぇ愚図野郎だよ……だから彼女にも逃げられちまうんだ……他の男にとられちまうんだ……』

「は……はぁ……」


あんた彼女いたんか。そして他の男にとられたんか。……ダs……なんでもないです。


『だがなぁ……そんな俺でも受け入れてくれる人ってたくさんいるんだよなぁ……しるるさんもゆるりーさんも雪りんごさんもみんな俺の事受け入れてくれてよぉ……』

「う……うん……」

『みんないい人だよホント……最高だよ……あることを除いて』

「うん……そうだよね……って……え?」

『みんなもうちょっと昆虫についての理解を深めるべきだと思わねぇかルカ』

「いきなりどうした!?」


今度は愚痴り始めるんですか!? ちょっと疲れてきたんだけど。


『昆虫ってのはな、地球生物で初めて空を制した生物と呼ばれてんだよ。人間が空飛んだのなんてたかだか何十年前だぜ? 昆虫は何億年も前に空飛んでんだ、昆虫は地球の大先輩だぞ?』

「はい……」

『しかも地球生物の75%昆虫と言われてんのよ、わかるかルカ? 3/4の生物昆虫なんだよわかるなルカ。地球は昆虫の惑星なんだぜルカ。人にだって好き嫌いがあるさ、好きになれと今さら言うつもりはねぇ……だがもっと昆虫に対する理解を深めるべきなんだよ人間は。そうは思わないかねワトソン君』

「いつから私はワトソンになった!?」


いやそんなことよりも、いちいちルカルカと呼び捨てにすんなっての。

これは想定外だ。なんて酒癖の悪さ!


『カイトおいカイト』

「ファッ!?」


カイトさんに照準が向いた。カイトさんには悪いけど一安心……。


『お前今度ゆるりーさんのチョークアタックの的になれ』

「なんでや!?」

『ゆるりーさんが的を欲しがっているんだ、明日から1分ノルマ10発な』

「ちょっとTurndog!? 嘘こいたらだm」

『黙らんかいどっぐ!!!! 呑ますぞ!!』

「いやぁ……」


完全に涙声でぷるぷる震えちゃってるどっぐちゃん。まずい。これ以上は色々とまずい!!


「Turndogッ!!!!!」

『っ!!!?』


無理やり頭を掴んでこちらを向かせる。ゴキリと音がしそうだがとりあえずは大丈夫だろう。


「いい加減にしなさいっ!!!! いくら飲まされたからとはいえどれだけ迷惑かけりゃ気が済むのっ!!!? どっぐちゃんなんて全然関係ないでしょ!!!? 目ぇ覚ましなさいよっ!!!!」

『……………!!!!!』


ビックリしたような表情でしばらく私を見つめた後、力が抜けてすとんと椅子に腰を下ろした。


『……はは……そうだよな……何してたんだろ、俺……迷惑ばっかかけてさ……』


弱々しい声でポツリポツリとつぶやく。

よかった、落ち着いたか――――――――――――――



―――――――――――――――そう思った瞬間。



『……こんな……こんなみんなに迷惑しかかけられない俺なんて……きっとこの世界に入らないよな……』

「……は?」



『……死んでやる』

「え……え!?」


『死んでやるああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!』


叫びながらピッチャーの中のトングを掴みだし、のどに突き刺そうとした!!!

まずい、間に合わない――――――――――――!!!





《――――――――――ギンッ!!》





鋭い音がして―――――トングが金属製のスティックにはじかれた。


「―――――駄目ですよ、Turndogさん」

『……!!』


すっ、とTurndogの前に一つのカクテルが置かれた。

金属製スティックで奪い取ったトングをカラカラと回しながら―――――ハクさんが笑っていた。


「簡単に死なれたら困りますし、死ぬならそれを飲んでからにしてくださいませ」

『……ふん、何をたくらんでるか知らんが、まぁいいだろうよ……』


乱暴にグラスを引っ掴み、カクテルを喉の奥に流し込むTurndog。

と、飲み終わった瞬間、Turndogの体がかしいだ。


「Turndog!?」


慌ててその体を受け止めてみると、Turndogはすやすやと気持ちよさそうな寝息を立てて眠っていた。


「え……ど……どうなってるの……?」

「解毒酒です」

「え?」

「秘密の配合で、アルコールを高速分解する酵素をカクテルの中に作り出したんです。体の中に入ればその瞬間、一瞬でアルコールもアルデヒドも全て分解する強酒なので、悪酔いした方でないと迂闊には出せないんですけどね」


そういって別のシェイカーからもう一杯解毒酒を出すと、メイコさんの体を抱き起して口を強引にあけた。


「はい、メイコさん。むせないように……」

「んー……んぐ……んぐ……ふぁおっ!!!!?」


完全に撃沈していたはずのめーちゃんも飛び起きた。相当強いみたいだ。


「あれ?……あたし何やってたんだっけ?」

「調子に乗ってカオス・スピリタス飲み過ぎたんですよ、解毒酒飲ませたからもう大丈夫です」

「あ、ありがとねー。そっかあたしそんなことを……」

『……????』


覚えてない? Turndogにスピリタスイッキさせられたことを?

そっと近寄ってきたハクさんが、私の耳元で囁く。


「解毒酒の副作用として、どうも酒飲んでた時の記憶が吹っ飛ぶみたいなんですよ。だからTurndogさんが起きても、変に追究したりしないであげてくださいね」

「あ……はい……」

「ふふ……それにしてもものすごい酒癖の悪さ! もう笑うしかないですよ……」

「こっちは全然笑えなかったけどね……」


盛大なため息をつく私とカイトだった。





Turndogは、私とどっぐちゃんにかなりあ荘まで運ばれてきた2時間後に目を覚ました。

ハクさんの言ったとおり、バーでの出来事を何一つとして覚えていなかったTurndog。

私たちは適当な状況を継ぎ接ぎして、Turndogに偽の記憶を植え付けた。

これで恐らくはもう、あの狂気の時間を思い出すことはないだろう。





それにしても、あんなに酒癖の悪い馬鹿だなんて思いもしなかった……!

もう二度と、あいつに酒なんか飲ませらんないな。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

dogとどっぐとヴォカロ町! Part5-2~Turndogの暴走~

※まだルカさん視点です※

えーっと、今回Turndogの記憶がないため、私巡音ルカがお送りしまーす。

それにしてもひどいでしょう?私たちもびっくりよ、あいつがこんなに酒に弱かったなんて……。あとから差し障りなく聞いてみたんだけど、あいつ日本酒の臭いをかいだだけでもくらくらするぐらい弱かったみたい。通りで……って感じよ。

あと昆虫についての愚痴は……私に免じて聞き流してやって?
あいつ、こないだいろいろ言われたのが相当精神的に参りかけてたみたいなの。あいつにとって昆虫は生き甲斐みたいなものなのよ。ホント、許してあげて。

なんにしても、ホント今回は白山のおかげでいろいろ助かったなー……。
今度また飲みに行ってあげようかな。もちろんTurndogは抜きで!

閲覧数:255

投稿日:2013/07/28 19:37:02

文字数:4,690文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • 雪りんご*イン率低下

    雪りんご*イン率低下

    ご意見・ご感想

    私は幼少期にコップに入ってたビールをお茶と間違えて飲み、「マズッ」と再びコップに戻したことがあります。←
    あとコーラ(というか炭酸)も飲めません。
    もし「カルピス」といって「カルピスソーダ」を入れてきたなら……(暗黒微笑)

    そうですか、めーちゃんは酒を飲みすぎるとダメイコになるんですね……(・ω・;)
    さー、めーちゃーん? 飲ーんで飲んで飲んd(イエェェェェガァァァァァ
    どっぐちゃんもうやめて! ターンドッグさんの財布はもう0よ!(某野菜の名前のボカロPネタ)
    それじゃあ、チョークアタックでボロボロになった兄さんは私が回収させていただきますね!
    ……え? 別にやましいことなんて何もしませんよ?(^∇^ )←

    へーそうですかー、ターンドッグさん覚えてないんですかーつまんないのー((何がだ
    いっそのこと「うわあああああ俺酔いに任せてスッゲエことしちまったよどうしよおおおおおおおおおおおめーちゃんに殺されちゃうよルカさんに蹴られちゃうよおおおおおいやむしろルカ様に蹴られるのなら本望だけどおおおおおおおおおお」って悶えたら面白いのにー(((黙

    2013/07/28 23:11:50

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      『Turndogも炭酸無理みたいね。幼少時にトラウマがあるとか何とか……

      めーちゃんは……まぁいたずらっ子になるだけなんだけどね……本気で飲み過ぎなければん問題ないんだけど……。
      あ、りんごちゃんやめといたほうがいいわよー?あなたの財布に木枯らしが吹くから☆
      あれ以来どっぐちゃんの鰹節食べる量がかなり減ったみたい。何も覚えてないTurndogは不思議がってたわーw
      やめてげてよお!カイトさんはもう限界よ!

      いや……覚えてたらそれはそれで私も何か無駄にはずいし……///

      2013/07/29 17:42:57

  • ゆるりー

    ゆるりー

    ご意見・ご感想

    酔うと人格変わる人多いですからね。
    ちなみに私は酒のにおいかいだだけでは酔いません。いやもちろん飲んだこともありませんが。
    お酒のにおいだけなら結構かいでます…。

    酒癖悪っ!(汗)
    しかしめーちゃんが悪いですね。未成年に飲ませたらいけないのに。
    てか鰹節って相当固いですよね。それを十数秒で完食するどっぐちゃんの歯って実は相当凄いんじゃ…?
    ルカさんに対してのみ泣き上戸なのは、ターンドッグさんがルカさんを心から大好きだからだと思います(真顔)。

    か…彼女、いた…だと(ガタッ
    彼氏とか彼女とか、自然にできるものじゃないですよね。私はそもそも恋を知らないので無理ですが。

    おうカイトおらカイト、悪いけど的になってくれないかな?(笑顔)
    いや、丁度ストレス発散にチョークアタックの的探してたのさ。
    もう嫌なことありすぎて人間不信になる前に、ちょっくら八つ当たr…うおっほん。
    ちなみにスイカバーあるよ。来ないと…君がどうなるか、保障はしないけどね(黒)

    そしてあの狂気の記憶は、ターンドッグさんには残らず平和になりましたとさ。
    だがカイトが無事だったかどうかは…うふふのふ☆←

    2013/07/28 20:40:57

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      『コメント位はTurndogが来ると思った? 残念! ルカさんでした!
      Turndogはホントに記憶が全部抜け落ちてるみたいだから、この回は全部私がコメントするね。

      Turndogもよいはしないけどかるーくくらくらするんだって。どんだけ弱いのよあいつ……w

      うん、ホント悪かった……わりとマジで死ぬかと思った……(疲)
      めーちゃんも解毒酒の影響で覚えてないから、また厄介なのよねー・・・・・。
      どっぐちゃん? 確か顎の力が数百トンぐらいあった気が……(さらっ)
      ちょっ……ゆるりーさん何言って……っ//////

      いたらしいわよー……なんでもいじめられっ子の味方になってあげたら付き合うことになったんだって。そして9カ月後他の男にとられたとか。ざま……なんでもないです。

      ゆるりーさん!? 落ち着いて落ち着いて!!
      カイトのライフはもう0よ!』

      2013/07/29 10:24:42

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