「一人だけ」
「………」
「たった一人だけが望んでくれるなら、それが生きる理由になるよ」
「…小さい願望ですね」
「ちっぽけな人間には、相応な願いだよ」
「望んでくれるのは、誰でもいいんですか?」
「性別・年齢・国籍、人間であれば、誰でもいいよ。病気や事故で次の日に死ぬ人でも、一日を生きる理由になる」
「…私では、ダメですか?」
「…?」
「…私が望んでも、理由になりますか?」
「………」
「私が望み続ければ、マスターの生きる理由になりますか?」
「それは…ズルいよ、テトさん」
「どうしてですか?」
「だってそれじゃあ、死ぬなって言うようなもんだよ」
「私は、そう言ってるんです」
「………」
「私はマスターと出会った時に、言いましたよね?『アナタが望むなら、私はずっと側にいる』と」
「うん。それで『望むよ』って、答えたっけ」
「でも私だって、マスターの側に居たいんです。居させて欲しいんです」
「…そんな価値ないよ、こんな人間に」
「それはアナタの価値観です。私の価値観を、勝手に決めつけないでください」
「でも………」
「私は他の誰でもなく、マスターと一緒に生きていたい。この朽ちない身体でいつか孤独になるのが分かっていても、マスターと同じ時間を過ごしたいんです」
「テトさん…」
「頑張れなんて言いません、自信を持てなんて言いません。その言葉がどれだけの重荷になるか、私は知ってますから…」
「………」
「だから…お願いですからせめて、もっと自分を、大切にしてください」
「ごめん…」
(紅く染まった手首に、私は泣きながら手を添える)
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