…死んだはずだった。
しかし、妙だ。地面に横たわっている感覚がある。
今、手に触れているのは草か。
思い切って目を開いてみた。
ぼやけた視界が少しずつ色を取り戻していく。
そこには、覗き込む一人の少女がいた。
突然の事態にイリヤは後ずさる。
こんがらかった頭を抱えながら、今の状況を理解するべく、周囲を見渡した。
ここは、森の中だ。木々が生い茂り、草花が至る所に生えている。急いで逃げていくどんぐりを抱えたリスらしき姿も見えた。
そして、少女を見た。少女の髪は白く短い髪が内側に向かっている。服は黒を基調としたメイド服を着ており、身長はイリヤよりやや低かった。
少し悩ましいような仕草を見せて、こちらをまじまじと見つめている。
一番に声を発したのは、少女だった。「お客様」
その一言に今の状況がどれほど異常で、理解の及ばない代物であるかを理解した。
そして、恐る恐る一番の疑問を投げかけた。
「ここはどこで、俺はなんでこんなところにいるんだ」
メイド服の少女は口を開いた
「ここはある世界の一画、すなわち異世界です。あなたは更生するためにここへ転生したのです」
上手く唾が飲み込めない。
異世界、転生!?
それに更生って。
今にも声に出そうな思考を何とか抑えながら、自分の身体が正常であるかどうかを確認した。
そして、当然の事実に気がつき、それを口に出す。
「俺は、死んでないのか」
「驚くのを無理はありません。今は、ただ私の後についてきてください。悪いようにはしませんから」
そう言って少女は手を差し出した。戸惑いながらもイリヤはその手を取った。
女の人の手に触れるのは何年振りだろうか。不思議とその手の感触はイリヤの心を落ち着かせた。
イリヤを立たせると、握った手を離す。
そして、少女はおもむろに森の中を歩き出した。イリヤはただ、少女についていく他なかった。

時刻は昼頃であろうか。太陽の光が差し込んでいるため、森の中といっても前が見える。
夜になればどうなっていたのだろうか。野宿、という嫌な響きに苛まれながら、それだけは無理だと首を振る。 ましてや、見ず知らずの少女となんて考えられない。
そんな雑念が浮かんでくるほど、長い間歩いていた。
イリヤは別に運動ができるタイプではない。
むしろ、インドア派でよっぽどの用事がなければ外に出歩くことはなかった。
だから、長時間の移動に疲れてきた。
一方で、少女は全く息を切らしていなかった。
まるで機械のように同じ歩幅で、同じ速度で進んでいた。機械ではないだろう。
しかし、体力は並外れているといって良い。
イリヤは堪らず足を止めた。
そして少女に向かって言った。
「ちょっと待ってくれ。ここら辺で一旦休憩しないか」
少女は後ろを振り返って言う。
「すみません。私の配慮不足でしたね。少し休憩しますか。」
そうして、二人は木陰で休むことになった。

イリヤはすぐさま木の横で腰掛けた。 しかし、メイド服の少女は、立ったままでいる。
「さっきからずっと歩きっぱなしだったのに疲れないのか?」
先程までの疑問を投げかけてみた。
「えぇ、不思議と疲れないんです。そういう風にプログラムされているんだと思います。」
「プログラムってどういうことなんだ?」
「私たちは創造主様によって作られているので、そういうわけです」
さも当たり前のように少女はそう言い放つ。
イリヤは創造主という耳慣れない言葉に思考を巡らせて言った。
「神様みたいなもんか」
「あなた方はそう呼ぶのですか。創造主様は私たちを、そして異世界を作った偉大な方です。」
続け様に少女は言った。
「この話はここまでにしましょう。屋敷に辿りつけば、詳しく説明されるでしょうから」
話を遮られてしまった。これ以上の詮索はできないとイリヤは押し黙った。 しばらくが経ち、話のきっかけも掴めずにいた。
重たい沈黙のなか、イリヤはまだ少女の名前すら知らないことに気がついた。
そして、自分から名乗ってみる。
「そういえば、名前聞いてなかったよな。俺の名前はイリヤ。そっちは」
「シャルルと言います」
「猫みたいな名前だな」
そう言うと、一瞬だけシャルルの顔が綻んだ気がした。
「そうですか。よく言われるんですけどね」
何となく反応に違和感を覚えながらも、イリヤは答えた。
「そっか」
「そろそろ屋敷に向かいましょう。日が暮れては大変です」
「そうだな」
そして、二人は再び森の中を歩き出した。

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第二話「イリヤ、異世界で少女と出会う」

まだ制作途中なので、大きく改編する場合あり。感想ください(切実)

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投稿日:2019/04/30 19:03:14

文字数:1,892文字

カテゴリ:小説

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