-監禁-
 考えてみれば。
 ふと、レンは思う。
 毎回毎回、こんなクダリでのこのこと敵前に進み出ては、毎回毎回こんな風に捕らえられて、毎回毎回酷い目に合っている気がする。それでもって、多分この後レオンとかその辺りと面会ターイムに入って、何か危なくなって、リンとかが入ってきて助けられるんだよなぁ。大体、使い魔は主人を助けるためにいるはずなのに、最初のカイト相手のときはほぼ助けられただけだし、あの神威とか言うヤツ相手のときも助けられた…というか、手をかけて殺しそうにまでなってしまったし、リンを助けた記憶がない!
 このままでは…今回もそうなってしまうなぁ、と思ってから、熱による浮遊感に襲われて一旦思想を停止させた。浮遊感がおさまってからまたしばらく考えをめぐらせていたときだった。ドアの向こうから誰かが歩いてくる足音が聞こえた。先ほどのミリアムの足音はヒールの『カツカツカツ』という高い音だったが、今は『タンタンタン』という少し低い、平坦な靴の音だった。この流れから言えば、多分レオンだろうな、とレンはおもった。
 あえて隠れるように布団をかぶった。それと同時にドアが開いて、レンの予想通りレオンが入ってきた。
「やあ、気分はどう?」
 返事はない。というか、返事ができるはずがない。声が出ないのだから。
 それに、眠っているフリをすればレオンもあきらめてどこかに行ってしまうかもしれない、今はそれを期待していた。
 ところが、レオンはあきらめるどころかレンのかぶった布団を無理やり引き剥がして、レンとご対面を果たしたのである。
「やあ♪」
「…」
(死んでしまえ!)
「…今、死ねって思ったでしょ」
「…(無視)」
 つれないと言うように、レオンは大きく息を吐いて腰の辺りに手を当てて、それから怒った様にしてみせた。それをみようともしないレンに、二十秒くらい待ってみてからレオンは痺れを切らした様にベッドの近くに寄ってきて、レンの寝ているところすれすれに手を突いた。
「…?」
「あいさつしてるんだからさ、返事くらいしようよ」
「…」
 声が出なくなっていることを忘れたのか、そうなったのはお前たちのせいだというのに、忘れて…ただの嫌味か?そう心の中で悪態をついてからレオンに背を向けた。
「…。なあ」
「…(やっぱり無視)」
「…なあって」
「…(結局は無視)」
「なあっていってんだろ!」
「!」
 レオンはいきなりレンの方をぐいと引っ張ると、唖然としているレンなどお構いなしに、両肩を大きな手で押さえつけ、ベッドの上に上がってレンを下に馬乗りになった。
「…ッ」
「返事しないから悪いんだよー」
「…(どうにか抵抗中)」
「ねぇねぇ、こういう風にされてると、悔しいでしょ?」
「…(段々攻撃が過激化)」
(すげぇ馬鹿力…。どうしよ…。肩もいてぇし…)
 両肩を押えられたままでは肘からしたくらいしかあげることはできないから、手で抵抗しても体力の無駄だろう。しかも、背丈から見て腕はレオンのほうが長そうに見える。
 大体、熱で頭がぼうっとしたままで、完全に体力は戻っていないしここで戦闘になったら、この間は勝てた神威相手でも負けてしまうかもしれない。それでレオンに勝てるという保証は無い。なにしろ彼の戦闘能力は未知数だ。
「…っ」
「俺もさぁ、別にホモじゃないし…。こんな事しても楽しくないんだよね。ま、君がちょっと悔しそうなトコを見てると、楽しいけどね」
 そう言って微笑んだレオンはこんなことをしているようには見えない笑顔で、女の子相手のようだ。
「俺ね、初めて会ったときから君の事は知ってたよ。いろいろ調べたから。けど、写真や映像で見たのよりも、ずっと女顔で驚いたよ。間違えたかと思っちゃった」
「…」
 口パクで、「はなせよ」といってみたが、レオンに伝わるわけも無く、レオンのニコニコはとまらない。
「そういえば、結構寝てたね。今日、月曜日だよ?」
 それがなんなのかはよくわからなかったが、自由に手が動かせないのは辛い所だ。手を動かせれば、どうにかできるのだろうが。今はそうもできない。
 
『レン、ちょっと』
『ん?どうした、カイト兄』
『いっつもレンは危なっかしいから、護身用にでも持っているといい』
『銃?あ、これ、いつもカイト兄が持ってるやつじゃん?』
『そう。結構使えるんだよ。弾はこれね』
『カイト兄のは?』
『大丈夫、ちゃんとある。常に三丁は常備してるから。そのうち一丁くらい、渡しても大丈夫さっ』
『…そうか。じゃあ、さんきゅ。…そういえば、それ、銃刀法違反じゃね?』
『いざとなったら、圧力でもかけてもみ消すから、大丈夫!』
『…こわ。今度は敵に回したくないな』

 そういわれて、自分の部屋のベッド横にある棚に銃をしまって、そのままにしてしまったのが間違いだった。今、持っていればいくらかましだったろうに…。
 いきなり、レオンがぐっと顔を近づけてきて、びくっと身震いをして硬く目を閉じて歯を食いしばった。
「かーわいー。捕まえた甲斐があるねー」
「…!」
 顔を真っ赤にして、レンはさっきよりも近くなったレオンの顔を見た。キレイな藍の瞳に、まばゆい金髪がかぶってライトの光を反射させて、きらきらと輝いていた。そして、レオンの不意をついてレオンの腹に蹴りを入れた。
「おっと。危ないなぁ」
 しかし、ぎりぎりでよけられてレオンはベッドからは降りずに足でレンの足を押え、もはや抵抗すらできないようにした。
 熱と興奮、体力の消耗によってレンの息が荒くなっていた。
 息が、苦しい。心臓の音が、レオンにまで伝わっていそうなくらいに大きくなっていった。
「こうなっちゃうと、可愛いもんだね。…あはは、その眼、いいね。悔しそう」
 体中がまた汗ばんできて、気分が悪い。
 ぼうっとした思考回路の一部が、もくもくと煙を上げて周りを包んでしまうように、レンの視界は徐々にぼやけ始め、そのまま重くなるまぶたをそっと閉じた。
 すぅっと気分の悪さが引いて、クーラーの風に当たって涼しくなってきた。それを感じると同時に、レンはまた眠りへと引き込まれていった。
 眠る間際に、レオンが何かを言った気がしたが、それを聞き取ることはできなかった。

「あれ、寝ちゃった?ちぇ、面白かったのにな、反応が。まあ、一応はここに監禁状態だし、いつでもできるか」
 そう言ってベッドから降りると、ぱんぱんとズボンについた埃を払って布団をかけなおし、部屋を出てきた。部屋の前にはローラが立っていて、変質者でも見るような目でレオンを見てきた。
「レオン、男性が好きだったのですか…?」
「え。みてたの?違う違う。遊び」
「相手の方は嫌がっていました。大分抵抗されていましたが?」
「気のせいじゃない?」
 そう言って軽くあしらうと、思い出したように部屋に戻って、ミリアムに頼まれたとおりに紅茶のカップを持ってキッチンのほうへと向かった。
 それを、ローラは腰に手を当てて怒ったようにみていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

鏡の悪魔Ⅲ 10

こんばんは、リオンです。
親戚の家から帰ってきて死にそうになりながらの投稿です。
今回の要約。
『レオン…自重。』
ですな。ま、がんばれ!
流石にここまでまじめにやってきて、これはないかなぁとか思いつつ、レオンならやりそうだなと。
日付が変わる前に投稿してしまおうと思いまして。
それでは、また明日!

閲覧数:693

投稿日:2009/08/15 23:56:40

文字数:2,912文字

カテゴリ:小説

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  • リオン

    リオン

    ご意見・ご感想

    みずたまりさん
    …そうだったのか!?(あ、ちがうの?)
    でもローラから見たら、見ちゃいけないものを見たように見えたのでは…?
    あー。つまり、あれですか?
    『もう少しで兄さんの仲間入りフラグ』ですか?

    女顔ですよねー。あってますか!?
    監禁…好きなんですかね、私がそういう系。
    捕獲、拘束、監禁…その他諸々…。
    遊ぶって…あれですか。(どれだ?
    (ピー)だったり(バキューン)だったり、(流石に自重)だったり、(放送事故)だったりですか!?

    『只今、緊急ニュースが入りました。
     今日午前、聖界に住む中学生の少年が逮捕されたとのことです。
     通報したのは、同じ館に住む少女で、彼女の話では、
    『本当はいいやつ…なハズなんです。ですが…今回ばかりは流石に…』
     とのこと。そして、彼女や逮捕された少年と同じ館に住む女性の話では、
    『そんな趣味があるとは思いませんでした…。それは、私の監督不行き届きで…。被害にあった少 年にはとても悪いことをしたと思っています…。この場を借りて謝りたいと…』
     と、少年の代わりに謝罪の言葉を延べるなどをしました。
     少年は只今取調べ中で、取調べの中で
    『そんな趣味は無いんです、ちょっと面白そうだな、と思っただけなんです。彼に聴けばわかります、彼を呼んでください!』
    と、犯行を認めています。
     我々は、被害にあった少年に話を聞くことができました。(音声は変えてあります)
    『目が覚めたら、ベッドの上にいて…。しばらくそこにいると、L君が来て…。いきなり…。すみません、もういいですか?…寒気が…悪寒がとまらないので』
     と、被害にあったときの状況を途切れ途切れながらも語ってくれました。
     続報が入り次第、お伝えします。』
               ↑みたいなのがテレビでながれる日はそう遠くないかも知れませんね…。

    2009/08/16 21:01:36

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