あの女性(ひと)は常にそうだった。
「誰よりも強く、気高くありなさい・・・」
それが口癖であり、彼女の生き方であった。
幼い少女はそんな母親の背中を見、彼女の最期を見届けた。
誰よりも、勇敢で
誰よりも、気高く
そして、
誰よりも強く生きた姿を少女は一生忘れないだろう。
第一章 同じ顔
少女は立ち尽くし、蒼月を仰ぐ。
戦が始まる、そう風が耳元でささやく。
覚悟は決めていた。
少女は目をつむり、数年前に起きた惨劇を回想した。
*****************************
炎が見慣れた城(我が家)を包み、重臣たちはこぞって逃げ出した。
数少なかった兵も王と少女を守るには明らかに不足していた。
少女はどうすべきか、本能的に知っていた。
王ならどうすべきか。
「リン、貴女は私の子。この国を守るべき次期、王となる身。王であるからには・・・」
王の声は凛として、そしてやわらかい。
王・・・と名乗るが、シルエットはどう見ても女性そのものであった。
「お母様・・・いえ、王。わたくしも戦う」
少女は泣かなかった。
王は、微笑んだ。
その微笑みは、間違いなく母親のものであった。
「いいえ。リン、今は生きなさい。あなたが生きれば国はいつだって復興できる。この国はもうあなたのもの。そして、自分は身をひきここでこの城とともに散ろう」
王・・・彼女は口を真一文字に結んだ。
幼いわが子、年端もいかない少女を置いていくことにためらいはあったが、自分の子ならばいつかこの国を取戻し、そして平和に導いてくれるだろうと信じていた。
そして、少女に目線を合わせるようしゃがみこんだ。
「リン、この世は女として生きるにはつらすぎる。あなたは私と同じようにならぬよう、男としていきていきなさい」
「お・・・王・・・でも」
少女は今にも流れ落ちそうな涙をこらえ、やっとのことで言葉を紡ぐ。
「リン・・・さあ、行くのよ。ミクもルカも地下の抜け道を知っている」
リンはふと振り返ると、ミクとルカと呼ばれた少女たちが半泣きになりながら脱出の準備を完了していた。
「ミク、ルカ・・・この子を頼むわ。そして、今日からこの子は男として生きられるよう、お願い」
二人の少女はリンよりすこし年上で、服は炎でぼろぼろになっていた。
「王、かならずお戻りになって」
ルカは王の手を小さな手で握りしめた。
「王、この国はもうおしまいです。一緒に逃げましょう・・・」
ミクはとうとう泣き出し、ひざまずいた。
「ミク、ルカ。あなたちはよくやってくれた。でも、今日を、今をもって王をやめる。
いいえ、王たる資格などとうにないの。そして、あなたたちの王は今ここにいるリン。
それをわすれないで」
リンはぎゅっと目をつむり、ゆっくり目を見開く。
「ミク、ルカ。行こう」
二人ははっと、少女の顔を見た。
すっかりその顔は、王の顔であった。
二人は顔を見合わせ、離れると同時に、リンの手をとった。
ゆっくり歩きだしたその時、
「リン・・・誰よりも強く、気高くありなさい・・・」
炎が大きく爆ぜた。
敵兵がすぐそこまで迫っているのか、怒号がより大きくなった。
肌を焦がすような暑さの中、王・・・であった女性は大きく息を吸い込んだ。
「敵兵よ、お前たちがほしいのはこの首だろう!とれるものならとってみよ。私は誰より、強く気高い!」
腰の剣を抜くと、彼女は悠々と構えた。
その声とほぼ同時に、リン、ミク、ルカは地下の通路へ走り出した。
最期に見た母の姿。
やがて、彼女を何百もの矢が襲うであろう。
いくら、国随一の剣士である王であったとしてもきっと防ぎきれまい。
だが、リンは泣かなかった。
隣で、ミクは顔をくしゃくしゃにしていた。
もう一方でルカは一心不乱にリンの手を握りしめていた。
三人は死ぬ気で走り、背中で聞こえる敵兵の声から遠ざかるためひたすら走り続けた。
*****************************
「リン、眠れないのね」
リンが振り向くと、そこには赤髪の女性が立っていた。
「ルカ・・・」
リンはふと、顔を緩めた。
風が肌に心地よい夜だ。
ルカは足音を立てずに、リンに近づいた。
リンは思う。
なんて、彼女は冷静なんだろうと。
戦の前夜なんて、とっても心穏やかではいられないのではないか。
「貴女は、王の頼みの綱。期待の星。」
ルカは歌うように話し出した。
「そして、来年の夏・・・あなたは正式に即位の儀を執り行う」
ルカはそっと、リンの頬に触れる。
「生きて戻ってきて・・・王」
その言葉はまだあどけない少女には似合わない。
それでも、リンの瞳には迷いはなく、王としてのふるまい方をわかっているようなまなざしだった。
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