-制御-
 鼻に悪そうな薬の臭いで、レンは目を覚ました。
 気分は最悪といっていいだろう。真っ白な天井と真っ白な壁に包まれた、白い部屋の中の、白いベッドの上でレンは目を覚ましたのだ。
狭苦しい場所は嫌いだ。一刻も早くここを出て、思い切り走ってみたい。―――けれど、それはいけないことなのだろう。ベッドの横で桃色の髪が、開いた窓の風で揺れていた。
 細く白い指が、茶色い革の腕時計と重なっていて、何度も時計を確認していたのだろう事がわかる。その表情は、綺麗で格好よく整った顔に似合わず子供のように無邪気な寝顔だった。レンはその髪をそっと救い上げると、しばらくそれを見つめ、小さく呟いた。
「枝毛発見。…女らしくねぇな…枝毛ぐらい処理しろよ」
 起きていたら殴られること請け合いである。それからレンはふっと笑い、髪をルカに耳にそっとかけた。
 時間は既に明け方の五時を回っていた。

 その魔法は強力だった。強い風を巻き起こしながら姿を現したそれは、闇色のそれ、だった。パチンっとカイトが指を鳴らすと同時に、闇色のそれは形をもこもこと変え、しばらくして馬車のような形に変わった。それを満足げに見つめたカイトは振り返り、三人を順に眺めると、それぞれを中へと乗り込ませた。見た目以上に広々としたそれは、中が無限ホールになっているようだった。
 少ししてガタンとゆれ、それは次第に浮かび上がっていった。それのスピードは驚異的で、まさに息をする暇もないほどのスピードで空を駆けていった。
 ルカが窓を開いたのは、その直後であった。

 辿り着いた家の前で、カイトはすぐに呪文を唱え、それを消した。
 そんなことにかまっていられないとでも言うように、レオンは館の中へと走っていってしまった。それを、リンとランが追う。
 リビングルームで、倒れるミリアムとそれを抱きかかえるローラの姿を見つけ、レオンは素早く駆け寄った。
「…ローラ!」
「レオン。…どうしましょう。ミリアムの制御装置が壊れてしまって…」
「え、制御が?どうして、また。ちょっとやそっとで壊れるような材質じゃないはずだけど」
「どうも、ミリアムが興奮しすぎたのがいけなかったのかと。興奮して自力で制御できる範囲の力が制御できなくなったのですわ。だから、装置がその力に耐えられなくなった。その理由は、レオンがいきなりいなくなったからでしょう」
 確かにその場には銀色に輝く何かのかけらが飛び散るようにして、落ちていた。原形をとどめてはいないにしても、欠片から予想される元の形は、指輪だろう。滑らかな曲線とその曲線の角度からして、指輪ほどの大きさしかないに違いない。
 ハーフとは不安定な生き物である。人ともそれ以外のものともつかないものとなり、周りからは見世物を見るような目で見られ、まるで血統書がない野良犬のように扱われる。
 しかし、力は未知数。己の力の許容量に適当な力量であるという確証はないのだ。今回のミリアムのように、力の許容量を大幅に超えてしまった力量の持ち主は、己が力におぼれ、自我を無くすことすらあるという。それを、ずっと恐れていたのに。
「他に制御装置はない?」
「ありません。この間もミリアムが壊したばかりですから」
「じゃあ、どうしたらいい」
「俺に貸してみて」
 いつの間にかレオンの後ろに立っていたカイトが待っていましたというように、口をはさんできた。少し驚きながらレオンが頷くと、カイトは少し前に出て欠片に手をかざし、呪文を唱えだした。呪文は、先ほどの炎を消した呪文と同じものだった。欠片は徐々に引き寄せられるようにミリアムの指にはまった指輪となった。
「――よしっ」
「凄いです。どうやるのか、教えてもらえませんか?」
「んーと…そうだね、企業秘密♪」
 そういってカイトは人差し指を自分の唇に当てるようにした。

 しばらくして目を覚ますと、既に日が昇り、部屋の中は赤っぽくなりかけていた。
「――はよ」
「レン。目を覚ましていたのですか。気分は大丈夫ですか?痛いところは?食べたいものなんか―――」
「はは、大丈夫。気分は結構よくなってきたトコ」
 そう言って笑うレンは、確かに無理をしているふうではない。自然に微笑んでいるように見えた。紅く染まる室内で、紅く染まるレンの顔は少しの疲労を感じさせた。
 それでも、目を覚ましたことに安心し、ルカは少しため息をついた、
「そういえば――」
「え?」
「枝毛、あったぞ。髪の手入れ位しろよな。髪が長いと枝毛になりやすいっていうし」
「…」
 その後にレンがなぞの傷を負った理由は、予想できても予想しないでいただきたい。あまりにルカのイメージを損なうようなことがあると、またレンが被害を受けかねないからだ。
 兎に角、レンも元気になったという証拠だ。
 二人は少し笑った。
「寝ててもいいぞ?まだ、寝ていても」
「いいのよ。それより、レンが寝たほうがいいのだから。ホラ、ベッドに横なる!」
「眠くねぇ」
「本でも読んであげましょうか?子守唄でも。私、歌は得意ですわよ」
「いらないから。…ふぅ。なあ。俺、このまま死ぬのか?」
「今ならドナーがあるそうよ。手術もしてくれるって。だから、安心なさい」
「…ん」
 背中を向けてそういったレンは、内心少しだけ安心していた。

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鏡の悪魔Ⅲ 25

こんばんは、リオンです。
そろそろラスト…大丈夫です、三十まではいかせないようにします。
ラストのほうでちょこっとミクも再登場しますんで。
ミクさんから、「私もそろそろ出たいのよねー。暇だし。もう一回黒神やろうかな」と、軽く脅しをかけられたので。
今日の要約いってみましょう。
「レン気絶率高いよね」
今まで何回気絶してるんだって話ですよ。
あ、そろそろ、時間的に危ないので。また明日!

閲覧数:563

投稿日:2009/08/30 22:46:04

文字数:2,211文字

カテゴリ:小説

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